ありさんくまさん

 ずんずんずんずん


 前の方から熊が歩いてきている。私はだね。中年男性なのだがね。


 ずんずんずんずん


 逃げなければいけないよ。逃げなければ襲われてしまうからね。


 ずんずんずんずん


 どんどん、どんどんやってくる。


 ずんずんずんずん


 困った困った困った困った。逃げるにしてもね、逃げきれる気がしないからね。怖いね。本当に怖いね。


 ここは一つ、死んだふりでもしようかな。


 バタン!!


 私は地面に寝っ転がった。


 バタン!!


 お!!死んだな。


 熊は来た道を戻っていく。作戦成功。やったやった。


 つんつん、つんつん


 なんだなんだ。なんだなんだ。体がもぞもぞする。体が浮いている。蟻だ。蟻が私の体を運んでいるのだ。


 ありりりりー、ありりりりー、ありりりりー、ありりりりー


 体が浮いているのを感じる。ああ、どこに連れて行かれてしまうのか。しかし、ここで動いたら生きていることが熊にバレてしまう。まだそこに熊がいるのだ。のっそのっそと歩いているのだ。私はなすがままアリに運ばれていった。


 ありりりりー、ありりりりー、ありりりりー、ありりりりー


 どんどんどん、どんどんどん


 山を降りたようだね。もう熊は襲ってこないか。しかし一体どこへ行くのか気になるね。


 どんどんどん、どんどんどん


 お、がやがやがやがや、ここは駅だね。改札を抜けたね。ホームに出たね。


 がやがやがや、がやがやがや


 プオーーーーーン


 電車が来たね。かっこいい。私はアリに運ばれていますよ。がちゃがちゃがちゃ、がちゃがちゃがちゃ、しかし、電車とホームの隙間のせいでなかなか電車に乗れないようだよ。アリさんは大変だな。アリさんかわいそう。仰向けになった私。アリに運ばれいかだのようにホームを漂います。


「これ、よかったら使ってください。」


 お、親切な駅員さんが車椅子用の板を電車とホームの間につけてくれましたよ。これで乗れます。


 ガタゴトガタゴト、ガタゴトガタゴト


 アリと電車に揺られ私は進んでいきますよ。


 ガタゴトガタゴト、ガタゴトガタゴト


 なんだか不思議な気分だよ。周りの人の視線が集まりますよ。


 ガタゴトガタゴト、ガタゴトガタゴト


「へんにゃ駅〜。へんにゃ駅〜。」


 お、最寄駅。アリが動き始めたね。おお、まさか私の家に送り届けてくれるのか。はい、送り届けてくれたよ。いいアリさん。


 ササササーッ!!


 私の家に着くと、アリさんは一目散に散ってゆき、一つの穴へ帰っていくね。


 お、こんなところに巣穴があったとは。


 私は接着剤を流し込みましたよ。


 完

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