催眠術

 目の前が真っ暗になった。人生初の挫折。あいつ、私が糸で五円玉を吊るして振り子のように10回揺らしても、コクリともしなかった。今まではみんな、あっという間に寝てしまったのに。まああいつ、目、瞑ってたんだけど。恥をかいた。これではお茶の間の笑い者。修行し直さなければ。

 私は山にこもり、1日中、1日8万回くらい、五円玉を振り子のようにゆらゆらさせた。ゆらゆらゆらゆらゆらゆらゆらゆらゆらゆら。そして寝る。そんな生活。催眠術師のお手本のような暮らし。そんな生活を一年繰り返したある日のこと、私はいつも通り五円玉をゆらゆらしていた。


 ゆらゆらゆらゆらゆらゆらゆらゆらゆらゆら、、、、、、!、!!、!????


 何か変だ。自分自身もゆらゆらしているような。視界もおかしい。周りの木々もゆらゆらゆらゆら、変な方向を向いている。くるくる回っているような感じ、、、、。浮いている。浮いているのである。周りのものも自分も。なぜ、なぜなのだ。体はどんどん上昇していく。どうして、どうして。


 そう、この時私は、重力を眠らせていたのであった。


 パチッ


 ドッシーーン!!


 完

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