第二章4 扉を開けるとそこは汚部屋だった。
「――さて、ではもう一つの疑問点の解決と行こうか」
大佐は切り替えるように一拍手して、
「あの女は誰だ?」
一番後ろで鎖で
「逢魔ヶ刻から出るのに協力してもらった」
「ほら!! ほら!! 藤ノ宮瑞乃が言った通りだったろう!?」
何か喚いているが何かされたのだろうか? ヴィクトリアはうねうねと蠢いていた。
「“ミ=ゴ”といえば生体手術の専門家だ。瑞乃の記憶を弄っているとも限らんからな」
「もうやってないと言ってるだろう!? この星に足を踏み入れてからこっち、一度もやっていない!!」
「信用されると思っているのか侵略者」
「待て待て、私は入植者だ。そこを勘違いしないでいただきたい!!」
「ならば、なぜ人間の姿をしている。姿を現せ」
「私が君たちの事を慮って擬態しているというのに……。この鎖を解いてくれ、偽鎧が脱げない」
解いてやれと命令された俺はヴィクトリアの鎖を解いてやった。その間、「出してあげたのにこの仕打ちは酷くないか?」とか「この戦闘民族め」とか、いろいろ小言を言われた。少しばかり罪悪感を感じてしまう。
「やれやれ」
彼女は人皮を脱ぎ捨て、あの、例の、恐ろしく喜色悪い姿を晒した。それとほぼ同時に瑞乃が卒倒し、藤ノ宮が札を、アナスタシアが雷光を発現する。今すぐこの怪物を滅さんとしている。
気持ちはわかる。俺もあの時は終始天之尾羽張を向けていたしな。
「こうなるから嫌だったんだ」
触手で頭らしきキノコ型の笠を撫でて、いじけるみたいに。
「まあいいさ。斬るなり焼き殺すなりすればいい。この世に未練はない。同胞のいない宇宙になんの価値がある」
「――あるぞ」
隊長は酷く下種な笑みを浮かべながらヴィクトリアに近づいて、
「お前の脳みそがほしい」
「……わかってて言っているのなら酷い意趣返しだよ人類。君たちに我々の様に脳だけで生かす術があるとでも?」
「流石にそれはできないが、似たような事なら可能だぞ」
そう言って、隊長はヴィクトリアの首根っこを掴むと手印を結ぶ。呪術だ。バチバチと放電するみたいに瞬くと同時にヴィクトリアの体に紋様が浮かび上がる。それも隙間なく。
耳なし芳一、という琵琶法師の話を思い出した。彼女の状況は今それに近いものを感じる。
「科学技術はお前にとっては子供のおもちゃほどの技術しかないが、これはお前達の知らぬものであろう?」
「魔術か……確かにこれは我々の範囲外だ」
「これは思考を読み取り、害意に反応して対象を呪殺する呪印だ。精々お前たちの培った技術を提供してもらおう。何、悪いようにはしない。俺は避けられる未来があるのなら避けたいだけなのだから」
隊長はそう言ってヴィクトリアを連れ立って、会議室を退出していった。
「……いいのか、あれ?」
それは言うまでもなく、独断専行していった俺達の上司であり大佐殿の部下の行動を指して。
「構わんよ。あれの自由を許しているのは他ならぬ私なのだし」
幼い上官殿は「そういう契約なのだよ。頭が痛いことにな」そう言って、呆れたように大笑いした。
それからややあって、大佐は解散を促した。俺は先ずアナスタシアと共にぶっ倒れた瑞乃を抱えて瑞乃の部屋に連れて行った。初めて寮の二階に足を踏み入れた。女性陣が使っている区域の為、男子禁制の領域になる訳だが、意外とあまり変わらなかった。間取りは同じだしな。とはいえ、少し甘い香りが漂っている気がして少しドキリとさせられる。
そのような劣情を催していると知れればアナスタシアから生涯ゴミを見るような目で見られかねないと内心戦々恐々としつつ、その心のうちを悟られぬよう真顔に努める。
瑞乃の部屋は奥から一つ前だった。つまり俺の部屋の斜め上だ。因みにアナスタシアはその隣で、俺の部屋の真上にあるらしい。俺は「へぇ」と返しつつ瑞乃の部屋を開け放つ。すると噎せ返るようなオイルの臭いと共に様々な工具がばら撒かれ、修復途中の呪装刀が転がっていた。
これがうら若い乙女の部屋なのか、と白目を剥きそうだった。うちの姉ちゃんも余り片付けができる方ではなかったがここまで酷くない。クソ、片付けてェ……。
「汚いな……」
思わずボロりと零す。すると、
「え!?」
何故か目を丸くして、驚いたみたいにアナスタシア。
「……なんだその“え? この部屋汚いの!?”みたいな反応は?」
「そ、そそそそそそんなことないし!?」
動揺し過ぎだ皇女殿下。“そ”がたくさん付きすぎだぞ。
「お前の部屋も汚いのか?」
「そんなことあるわけないでしょう!?」
「へえ、じゃあ後で見せてくれ」
「バッカじゃないの!? 女の部屋に入ろうとか頭おかしいんじゃないの!? ヘンタイ!! 淫獣!! 悠雅!!」
「酷い言われようだ。俺の名前は罵倒に使う単語じゃねえ」
しかし、こいつの部屋、さては相当汚いんだな?
「……掃除、手伝って欲しかったら言えよ?」
「アンタだけには絶っっっっっっ対に、頼まない!!」
ぷいとそっぽ向いてしまった。彼女が普段隠しているちょっと子供っぽい部分。そういう所もまた愛おしく思ってしまうのだった。
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