第22話 第十幕 交差する運命(4)
岡本浩太、風間真知子の二人は稀覯書解読
に明け暮れていてストレスが溜まっていたこ
ともあり、気晴らしもかねてインスマスへと
出かけることにした。結城良彦の提案もあっ
たからだ。結城からインスマスにある教会の
廃墟地下にある閉ざされた部屋について聞い
ていた浩太は、そこで恩師である綾野祐介が
目を負傷したことも聞いていたので危険では
ないかと思ったが、逆に目を守るゴーグルな
どで対策をしていけば問題ない、といいうこ
とになった。
「辞めておいたほうがいいんじゃないの?」
図書館長クレア=ドーン博士からは一応止
められたのだが、好奇心が勝ったのだ。それ
に浩太は結城から言われたことで変に意識を
してしまっていたので、いっその事二人で出
かける機会を作ることにした。
アーカムからインスマスへはもうバスでは
行けない。インスマスには住む人がいなくな
ってしまったからだ。鉄道も廃線になってい
て使えなかった。浩太も真知子も、そもそも
運転免許を持っていなかったので、レンタカ
ーを借りることもできない。車なら3、40
分ほどなのだが目的地を告げるとタクシーは
ことごとく乗車拒否された。
折角出かける気になったのに、どうしよう
かと二人が途方に暮れていた時だった。
「インスマスに行きたいのかい?」
二人がタクシーと交渉しているのを見てい
たのか、一人の青年が声をかけてきた。
「僕が乗せていってあげようか?」
その青年はウィリアム=オーンと名乗り、
今からインスマスに行くのだそうだ。廃墟で
あるインスマスに一人で行くなんて、怪しい
にも程がある。しかし、彼の目的にも興味が
あった。敵なら敵で味方なら味方で、知り合
いになっておくのもいいと思ったのと、風間
真知子は普段から自分の身は自分で守れる、
と公言していたこともあり、自らの護身につ
いてはアメリカに来てから相当な修行をして
きた浩太は、何が起きても切り抜けられる自
身があったのだ。今回はそれを実証できる機
会だと考えた。綾野に相談すれば直ちに止め
られただろうが。
「ありがとうございます。いいんですか?」
「別にいいよ、一人で行くより大勢で行った
方が楽しいじゃないか。」
浩太と変わらない年齢に見えるウィリアム
はかなり明るい性格のようで人見知りとは無
縁に見えた。
色々な意味で反対したい様子の真知子は、
ただこのままだと浩太とウィリアムの二人で
出ようとしそうなので仕方なしに同行するこ
とにした。
ウィリアムの車は黒いトヨタのFJクルー
ザーだ。助手席に浩太、後部に真知子が座り
すぐに車は発進した。
「オーンさんはおいくつなんですか?」
「ウィリアムでいいよ。僕は22才、ミスカ
トニック大学考古学部4年。」
「ミスカトニック大学なんですね、僕も彼女
も広聴生として毎日ミスカトニック大学の寮
から通っているんです。」
「そうだったんだ、縁があるね。まあ、イン
スマスに行こうなんて、普通の人じゃ考えら
れないから、その若さなら大学の関係者だと
は思っていたけどね。」
「確かにそうですね。廃墟マニアあたりなら
行くかもしれませんが。」
「インスマスは廃墟じゃないよ。」
インスマスは数年前の大火で廃墟になり住
民はほぼアーカムの外れに越してきたと聞い
ていた。
「今は少しづつだけど住人が戻ってきている
らしい。僕も実はその一人なんだけどね。」
「ウィリアムさんはインスマスに住んでいる
んですか?」
「インスマスには祖父の家が運よく燃えない
で残ってて、まだ今はたまに行くくらいだけ
ど、いずれは完全に移住しようかなと思って
いるんだ。」
意外だった。廃墟の街だと思ったから風間
真知子と二人で出かけることにしたのだ。住
人が居るのなら自由に探索ができないかも知
れない。
全く会話に入ってこない真知子は、後部座
席でどうも寝ているようだった。
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