丘の上の陣
天子より
「王服の形式には女物というのがございませんが、こちらの女王さまには男物の王服の形でよろしいのでしょうか、それともお妃さまのようにするのでしょうか」
不弥の
「
張政はそう答えた。道を行けば、田で落ち穂拾いをしている倭人の姿が目に入る。倭人の服装には男女で着こなしの違いは有っても、形式そのものには変わる所が無い。と、道を向こうから歩いてきた農夫が、張政を見ると草叢に
「賜りものの生地で失敗をしてはいけませんから、もしこちらの織物を与えていただけましたら、それで試製をさせていただきとうございます」
王碧は姫氏王に引見されると、そう頼み事をした。姫氏王はそれを
「女王はこのところあまりよくお眠りにならないご様子。それで
姫氏王に会って休息を勧めてくれる様に、と王碧は張政に頼んだ。難斗米が今般の命令を受け、女王が不弥の邑に入ってから、已に半月程が過ぎている。ここ数日、姫氏王は朝から郊外に出て、不弥国の兵士を指揮し演習をさせている事が多い。なだらかな丘の上に幕を張って本陣としている。張政が入って行くと、姫氏王は火鉢を背にして剣を
「こんな日は、兵の訓練などお休みなれてはいかがでしょう」
女王は背を向けたまま、
「汝は
と返す。狗奴国は、
「巴琊斗どもは、寒ければ寒いほど鍛錬に精を出すぞ」
と言った女王の声には、心なしか疲れが感じられる。張政は思い切って単刀直入に言う。
「王がよくお眠りにならないのではないかと気遣う声を聞きました」
姫氏王は、は、と息を吐いて呟く。
「どうせ、好い夢は観られぬからな」
びゅうとまた冷たい風が空を吹いて往く。
「
と外で番兵が声を上げる。
「御免っ」
泄謨觚は息を切らせ、急いだ様子で姿を現す。
「動いたか」
と呟きながら姫氏王は向き直る。
「奴王が逃げました。鍛治村の年寄りどもが連れ出したらしく見えます」
姫氏王は落ち着いている。
「斗米はどうした」
「抜かりなく追っ手を差し向けております」
「よし」
と姫氏王は側近を呼び寄せて、出発の準備を命じる。そこへ、
「御注進!」
と第二報を持った使者が駆け込む。
「奴王は
その島は
「包囲はどうだ」
「難斗米さまの命令で舟を出して、島を取り囲んでおります」
「よろしい。
と言った女王の声には、元の力強さが戻っている。
「奴国まで出るぞ。
張政は、難斗米が貸し与えられた重い太刀、
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