ほのぼの(2)
アシュの機嫌はよかった。これ以上ないくらい。リリーの機嫌もまたアシュの機嫌がいいが故に、よかった。そこに、ダリオ王誘拐のリーダー(主犯)であるミランダが合流。彼女もまた、昨日の達成感の高揚が未だあり、機嫌がよかった。
「おはようミランダ君。昨日は頑張ったね」
「そ、そんな。アシュ先生のおかげです」
「いや、僕はなにもしていないよ。全部、君たちが成し遂げたことだ。僕は、君たちに有益な情報を与えたに過ぎない。それを、自らがどうしようか考え、話し合い、考案し、自らの力を活用して、果敢にも実行に移した。これらは、全部君たちがやったことだ。僕じゃない」
「せ、先生……」
「……」
ミランダはそんなアシュの言葉に感動を覚えているが、実際にはとんでもないことであるとミラは思った。ダリオ王誘拐の全ては生徒たちの自主性で行ったことであり、自分にはまったく関係がない。有能執事には、どう考えてもそのようにしか聞こえなかった。
アシュは天然で人を窮地に追いやる天才である。
自分ではまったく意図していないところで、完全犯罪を成立させているケースが後を絶たない。未遂とは言え、生徒たちはすでに国家的犯罪を行った主犯だとギュスター共和国には見なされているだろう。
そんな中、シスが日課である早朝のマラソンから帰ってきた。
「おはようございます。アシュ先生」
「おはよう、シス君。朝から精がでるね。マラソンなら、僕も誘ってくれればいいのに。ギュスター共和国の町並みとか、一緒に並んで色々とみたかったな」
「じゃあ、今度誘いますね」
「……」
にぱーっと純粋な笑顔を浮かべる蒼髪天使美少女に、有能執事は心の中でため息をつく。アシュ=ダールという男は、決して景色などを見たがる男ではない。むしろ、ゲス過ぎる、ゲス中のゲス。生粋のゲス。純粋なるゲス。
とかの99%に、彼女の胸が入っていることをミラは知っている。
考えて見れば恐ろしい男である。これだけ最低な人格にも関わらず、決して嫌がられることなく、生徒たちとバイキングを楽しんでいるのだから。正直、一緒に歩くこと自体が恥であると考えているミラにとって、彼女たちの慈悲深さには脱帽せざるを得ない。
「なんなら、今からマラソンしようか。僕もちょうど身体が鈍ってたので。ギュスター連合国の景色とか、いろいろみたいし」
「はい! 私はまだまだ行けますよー」
「……」
にぱーっと爽やかな笑顔を浮かべる蒼髪天使美少女に、有能執事は心の底から悪寒を感じる。今からとか、なんなの。そんなに見たいか。そんなにとかが見たいのか。どんだけ、お前それが見たいんだよ。
「じゃあ、行きましょうか」
「ふっ……遅れるなよ」
20㎞地点で、アシュの足腰が立たなくなった。
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