異変
思わぬ伏兵に苦戦を強いられるバルガだったが、それでも彼らの優位は揺るがない。すぐに別の複数部隊を投入して、死兵の殲滅を図る。
「一気に制圧しにかかります」
「そこまでの戦力を割いて大丈夫か?」
王の問いに、軍略家は首を縦に振った。本命はアシュとミラ、そして仮面の魔法使い。そのための部隊はすでに配備している。それは現時点のバルガが準備し得る最高戦力。ナルシーやシス、リリーに割いているのは、全て予備兵である。
「……シスの警戒を怠るな」
「はっ」
更に影へと消えた蒼髪美少女の注意喚起を促す。シスは、戦線を乱す力はあるが、大量の敵を一気に制圧する能力はない。裏を取られなければ、臆する必要はない。加えて、ダリオ王が強力な戦士であることが助かった。元々、ミラなどの強者に襲撃されても十分に返り討ちできるほどの実力者だ。
「さて、そろそろだな」
リリーとナルシーが苦境を強いられている。ここらで状況を変えない限り。敵はジリ貧だろう。全て読み切った上で勝利する。
「……しかし、歯がゆいものだな。リリー=シュバルツはまだ墜ちないか」
「もう少し時間がかかるでしょう」
「少し遊んでこようか?」
「お戯れを。おやめください」
ダリオ王の果敢な発言にバルガは苦笑いを浮かべた。目の前の王は、あまりにも戦を好みすぎる。ある意味では、かなり特殊な王だ。
バルガ自身は戦を好む性質ではない。しかし、自身の能力を最大限活かす場は戦場である。そもそも軍略家というのは、戦争を極力好まぬ者の方が有能だ。そんな彼にとって、勇猛なる王は扱いづらい。
「……いや、行こう。聖闇魔法を扱う若き才能を感じてみたい」
「正気ですか? おやめくださいと申し上げています」
「王命だよ」
「……」
瞬間、バルガの脳裏にノイズが走る。ここまで頑なに自身の意見を通す王だったか。確かに、彼は常に前線に出たがる勇猛な戦士だ。だが、諫めれば必ず指示を聞いてくれる自制心も同時に持ち合わせている。
若き天才たちを目にして、その果敢さが抑えきれなくなったか。
周囲を見渡すと、未だ戦力は潤沢にある。他の魔法戦士隊もいつもよりも果敢に攻め込んでいる。ダリオ王自身が動くのはリスクしかないが、この状況で彼一人に自制を求めすぎても酷であるかと思い直す。
「……わかりました。ただし自分もつきます」
「過保護だな。では、行くぞ」
ダリオ王は剣を抜きリリーの方へと向かう。すでに彼女は地に墜ちた。残る魔力を振り絞って魔法陣を重ねてなんとか足掻いている状況だ。自分たち2人が行けば、もはや難なく捕縛できるだろう。
向かう途中、バルガの脳裏に再びノイズが走る。陣形が若干前のめりだ。指定したそれよりも、全体的に攻撃的だ。彼は、現場の指揮官の1人に尋ねる。
「おい、少し前線に出すぎではないか?」
「そうですか? 押してますから、そう見えるのでは?」
「……」
彼の答えに、釈然としないものを覚える。そうだと言えば、その通りだが、総指揮を執る自分の問いに、一考すらしない。明らかに自制ができておらず、ハイになっている。もちろん、これだけの戦いに興奮しない者はいないが――
「……いかん!」
バルガは急いで口を塞いだ。
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