ナルシー
*
バルガが面を喰らう要素は、少なくともリリーとシス、そしてミラとアシュには存少ない。彼が直に存在を確認し、能力もほぼ割れているから。正しい情報さえ得られれば、まず天才軍略家が悪手をうつ可能性は低い。
最も覆す可能性が高いのは、闇魔法使いのナルシーであろう。
<<闇よ その存在を喰らい 真なるを 隠せ>>――
シスが捕まる直前、黒髪少女は、瞬時に魔法をかけて地の影へと忍ばせた。炎の魔矢が至るところに放たれており、ちょうど彼女に光が差していたのを瞬時に読み取った。
「くっ……聖魔法部隊!」
バルガが次の部隊を配置する。対アシュ=ダール対策の闇魔法使い殲滅部隊である。しかし、その存在を読んでいたかのように、ナルシーは先手で詠唱を唱える。
<<漆黒よ 果てなき闇よ 深淵の魂よ 集いて死の絶望を示せ>>――
アシュ=ダール直伝の闇極大魔法。莫大な暗黒が部隊全体に襲いかかる。
それは、未完成の生徒のそれとは異なり、流れるように洗練された
巨大な闇が瞬時に膨張し、部隊を包んでいる魔法陣を包み込む。彼らの周囲を広大な闇で満たした。これによって、彼らは短期間での行動不能に陥った。闇魔法を目くらましに使うという発想は、もちろんアシュから学んで得た発想である。
当然、天才軍略家と言えど、初見でその魔法を見破ることはできなかった。
バルガが逃したのは、アシュ並みの闇魔法を彼女が使用したことだった。
彼が鍛えたのはリリーとシスだけではない。と言うより、ナルシーにとって最も相性の良い教師はアシュだった。闇魔法使いとしての資質が大きい彼女は、魔法使いとしての能力を飛躍的に伸ばした。
闇魔法使いは異端。その思想はナルシャ国で顕著に見られるが、未だ大陸全体にもはびこり続けている。闇属性を得意とする魔法使いが常に味わう排他的な空気感。常に疎外感を感じ続けながら生きてきた彼女にとって、特別クラスは初めて大きく息をつけた場所と言えるかもしれない。
特別クラスには闇魔法使いによる差別がない。
『魔法に貴賤はない』という教育方針。全ての敵意がアシュに向かうという特異な状況。彼を敬愛してやまないナルシーは不満だったが、やがてそれは違うと思い直した。
アシュ=ダールという教師は、あえて嫌われ役を買って出ている。
なんという深い愛情なのだろう。彼のおかげでクラスは一丸となっている。
自分が闇魔法を使うことなど、クラスメートは誰も気にしていない。そんなもの、圧倒的個性の前には凄く小さなことであると全員がわかっているから。
そんな特別クラスの団結度は他のクラスメートの比にならない。自分を受け入れてくれたミランダ、シス、ダン、ジスパのためなら最大限の協力を惜しまないとナルシーは心に決めた。
そして……このミッションが無事成功したら。
アシュにナデナデしてもらうんだ、と黒髪美少女は妄想を爆発させた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます