反旗


 ガラララララッ、ガラララララララッ。


「……」

「……」


      ・・・


 く、空気が死んでいると全員が思った。


 リリーとシスが乗り込んできて、刺客に襲われていたことを説明。アシュはその時点でボードゲームを断念せざるを得なかった。ここ一ヵ月間、楽しみにしていた時の終焉。


 祭りの後。


 後の祭り。


「あの……アシュ先生?」

「……」


 む、無視。有能執事に、残りの言い訳と雑務を任せ、外の景色をずっと見つめながらため息をつく面倒くささ最強魔法使い。

 しかし、そんな空気を読むべくもなく、2代目アシュと目される金髪美少女は追及の手を緩めない。


「黙ってないで説明してくださいよ! あなたにはこの旅の責任者ですから、説明義務があると思います! と言うか、あります!」

「……なんで君がここにいるのだね」

「うぐっ……」


 クリティカル・ヒット。


「わ、わ、私はあなたたちが心配で……そう! 私は学級委員ですから! このクラスの学級委員!」

「別にここは学校じゃないし、僕はあくまでプライベートな時間を費やしてるわけだから」

「うぐぐっ……」


 連続ヒット。


「ハッキリ言ってしまうと、部外者に説明責任はない。ついてきたいのだったら、せいぜい黙って従うことだね……はぁ」

「うぐっ、うぐぐぐぐっ」


 ノックダウン。


 なりたいかどうかはともかくとして、まだまだ、アシュへの道のりは険しい金髪美少女である。


「み、みんなはどうなの!? この馬車は襲撃を受けたのよ。なんの理由で狙われているのか気にならないの?」

「「「「……」」」」


 一同沈黙。もちろん、事実を知って騒然とはした。動揺もした。当然、目の前の教師を疑いもしたし、問い詰めたい気持ちでいっぱいだった。

 しかし、それ以上に知りたくないという気持ちが強かった。


 あのルーレットはいったい何だったのか。アレを回したことで、どこかの誰かに良からぬことが起きている事実から、全力で目を背けたい彼らだった。


「……なんだい? 君たちも何か不満があるのかい?」

「「「「……っ」」」」


 虚ろな瞳をしながら、アシュは彼らを見渡す。その表情は、もはや抜け殻。先ほどのハイテンションとは一転、まったくの無感情に、生徒たちは固唾を呑む。


「と、言うより……もう帰ろうか」


 !?


 生徒全員が耳を疑った。アシュはと言えば、多少の危険が孕んだとしても、我が道を突き進む暴走野郎ではなかったか。

 そもそも、これではなにをしに来たんだかわからないではないか。


「どうしたんだね? 帰りたいんだろう? だったら、帰ろう?」

「そ、そ、そ、そう言う問題じゃないでしょ!?」


 リリーが震えながら口答えをする。


「いちいちうるさいなぁ。旅に危険はつきものじゃないか。君たちが安全に平和に人生を過ごしたんだったら、ナルシャ国の貴族として、国内の就職口を探した方がいい。それだけだよ」

「……」


 いきなりの突き放し発言。ボードゲームがやれなくなった途端、超冷淡対応。自分の都合だけで予定をコロコロと変えてしまう不安定な情緒。


 コイツとだけは死んでも友達になりたくないと、ミラは心の底から思った。


 仕方なく、有能執事は一枚の紙をアシュへと差し出す。


「なんだね。僕を説得しようとしても無――」

「……アシュ先生?」

「……」

「……」


          ・・・


「ミラ、この情報は本当かい……いや、君の情報収集力を疑うべくもなかったな。では、行こうか?」

「はい」

「あの……アシュ先生?」


 生徒の1人が恐る恐る様子を伺うと、


「じゃあ、ギュスター共和国の主城へと向かうとするか」

「……」

「……」


         ・・・


「「「「「ええええええええええっ」」」」


 即座に意見翻しに、一同は絶叫した。

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