後は


 テスラがアリスト教徒をバタバタと倒し。やっと、首都ウェイバールの北門へと到着した。ここまで来れば、あとはホグナー魔法学校へと帰るだけだ。馬も探せば3頭くらいはあるだろう。


「お待ちしてましたよ」


 。終着地点で待っていたのは、現アリスト教大司教のランスロットだった。後ろに控える3人は、12使徒のウキエル、ジグザ、シュナイダー。いずれも、テスラの教え子である。


「……」


「ああ、別に話しても構いませんよ。あなたが大聖女であることは、この場にいる者は全員把握している。と言うより、ここまでの芸当はあなたにしかできないでしょう?」


 ランスロットは満面の笑みを浮かべる。低位の信者ならばともかく、上層部は理解していた。彼女がこんな性格であり、決して彼らの行為に賛同していないことを。


「……今からでも遅くはありません。もう、こんなことはやめませんか?」


「なにを? あなただって、聖櫃を活用すること自体には賛成だったじゃないですか」


「……無理矢理、強いることは、あまりにも彼女の意志を無視しています」


 テスラはチラッと不安げな表情をしているシスを見つめる。


「だったら、あなたが説得してくださいよ」


「……」


「できないんでしょう? あなたはいつだってそうだ。できもしない理想を掲げ、自分だけが清い立場にいると思っている」


 事実として、テスラがなにか特別な偉業を成し遂げたことはない。彼女は人を傷つけることを好まない。その信念は多くの場合で制約となる。完全なる理想主義者は、どこかで完全なジレンマに陥る。


「……」


「いや、別に責めているわけじゃありません。それで、いいんです。大聖女とはアリスト教徒の象徴。決して、信者を握る手は、常に清い手であるべきです。でも、それだから、他に手を汚す人がいる。必要なんです。あなたという存在を私は認めましょう。だから、私たちのような存在も認めてもらえませんか?」


「……そのように教えた覚えはありませんが」


「学んだんですよ。どうしようもなく醜い現実から」


 綺麗事は聞き飽きたとばかりに、テスラを鼻で笑う大司教。いや、彼は彼女に軽蔑の念さえ覚えていた。


「ウキエル、ジグザ、シュナイダー。あなたたちも同じ意見ですか?」


「「「……」」」


「揺さぶったって無駄ですよ。ここにいるのは、今の現状に憂いを持ち、変えたいと心から願っている者たちだ。理想ばかり吐いてなにも変えることができないあなたとは違う」


「……そうですか、残念です。私のせいですね」


「そうです。ですから、大人しく聖櫃を渡してもらえませんか?」


「お断りします。私にも信じる道がありますので。それに、聖櫃と彼女の前で言うのはやめてもらえませんか? 彼女は、シス=クローゼと言う名の素晴らしい人間です」


「テスラ先生……」


 シスは蒼色の潤んだ瞳で、金髪の聖女を見つめる。


「……でしょうね。あなたはそんな人です。だったら、私たちを止めてみてください。あなたが吐く理想が、どれだけ脆いものか教えて差し上げますよ」


「……テスラ先生、あいつらぶっ殺していいですか?」


 リリーが物騒な発言をする。さっきから、弱い魔法使いばかり相手にさせられて。今の会話では、すっかりアウトオブ眼中で。蚊帳の外にいたほぼ部外者の金髪美少女は極度のストレスが貯まっていた。ちょうど、歯ごたえのありそうな、腹の立つ敵が現れて、すっかりスイッチが入った。


「いえ、やめてください。あなたたちは私がもしもやられたらなんとか逃げてください」


「そんな!」


「ここを逃げて、あなたたちが頼りにすべき人はわかってますね?」



「「……」」


「……なんででしょうね? きっと、私もあなたたちと同じ人を思い浮かべているのだと思うのは」


 そうつぶやいて。大聖女は静かに微笑んだ。


 

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