誕生日会


 ヘーゼンの邸宅で開かれる誕生日会は、王族の晩餐会のように豪華だった。音楽のコンサートが開けるほどの大ホールに並べられた無数の円卓に、見たことのない豪華な料理が並び、各国の著名な魔法使いたちが次々とやって来ては祝辞を述べ、やって来ては祝辞を述べる。


「ヘルドリック=サルハンです。僕は光魔法歴史学を専攻しておりまして」「ジリョーラモ=ラモーレです。私はデルサーリ王国で宮廷魔法使いとして勤めています」「ヴァシリード=レックレスです「俺はベダシ=ルワンでーー」「デブルーー」


「あ、あの、あっ……どうも……」


 当のリアナはと言うと。ほとんど面識がない彼らに恐縮するしかない。


「す、凄いね」


 ジルは、端っこの方で、チキンを頬張りながらつぶやく。


「ヘーゼン先生は超がつくほどの親バカだからな」


 面白くなさそうな表情を浮かべてアシュがため息をつく。招待されているのは、それなりに若い者ばかり。どう見ても、リアナの婚約者候補である。彼は、ヘーゼンの行動を、娘をできる限りよい条件で嫁がせてあげたいと言う親心だと判断する。しかし、実際のところは、性格最悪魔法使いに気持ちが傾いている娘をなんとか救出したいという、娘大好きパパの悲願であることを、性格最悪魔法使いは知る由もない。


「そんなことより、プレゼントはちゃんと持ってきた?」


「……不本意ながらね」


 渋々、アシュはきれいにラッピングされた小箱を取り出す。見事に全てがピンク色で包まれており、自然とため息がついてしまう。


「えらいえらい。後は渡すだけね」


「どうでもいいが、僕と君の2人からのプレゼントだからね」


「えっ……そうだっけ?」


 !?


「だ、騙したな」


「人聞きの悪い。お金だって君が出したし、私はこの通り別のがあるし」


 そう言って、カバンからプレゼントを取り出す。こちらも、綺麗なピンクの包装が施してあったが、アシュのものよりも少しランクは落ちる感じだった。


「くっ……まあ、いい。僕がそれを説明すればなんの問題もない」


「ふっ、甘いわよアシュ=ダール君。稀代の嘘つきである君と、普段から正直者のワ・タ・シ。果たして彼女はどちらを信じるかしらね」


「……ぬっ、ぐぬぬぬぬ」


 悔しい。そして、2人の共同プレゼントだと言う大義名分で、すでに手紙まで内包してしまったプレゼント箱。すでに、それはピンクの包装で包まれて、取り出すことすらできやしない。


「それにしても……私たちと会える時間はあるのかしら」


 ジルが、男性魔法使いたちに囲まれているリアナを見て、不安げにつぶやく。


「まあ、もう1時間もすれば、みんないなくなるさ」


 リアナは優しく親孝行な娘だ。親心だと理解し、一通りは丁重に対応する。しかし、結局は自分の誕生日だからと、ヘーゼンに泣きを入れ、渋々父親は彼らをはけさせる。それが、近年の恒例だった。


 ……しかし。


「どうしたの?」


「……嫌な予感がするんだ」


「へぇ……もしかして嫉妬? 心配しなくても、そんなに簡単に靡く子じゃないわよ」


「そんなくだらないことじゃない」


 つぶやき、闇魔法使いは自らの思考をグルグルと巡らす。


 アシュ=ダールは、理論派ではない。自らは、そうあろうとしているが、実際は生粋の直感派である。理論を次々と構築し最終的に答えを導くのではなく、まず、答えがあり、なぜそのように考えたかはすぐに思い浮かばない。


「……ちょっと、出てくる」


「ア、アシュ! ちょっと待ちなーー」


 その言葉を聞く前に、彼は走り出す。その予感が指し示す場所に。自分でも説明がつかない直感を頼って。しかし、それは高確率で自分を助けてきた。ヘーゼンというドS師匠に脅かされる命の危機も、何度もそれで回避してきた。


 アシュの身体は、


 自然と、


 レッサーナ魔法学校の校庭に、


 辿り着いた。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


「来てくれたんだね。嬉しいよ」


 目の前にいたのは、


 爽やかに笑顔を浮べる、


 クリストだった。





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