冷たい北風が吹き荒ぶ中、アシュとリアナの2人は、レッサーナ魔法学校の校舎に入る。


「う゛ーっ! 寒っ、寒寒寒寒っ!」


 寒がりの闇魔法使いは、いつものように、下駄箱の靴を取り出し、


 ザァー。


 いつものように、大量に出てくる画鋲を、懲りずに取り出す。


「相変わらず、恐ろしいほど、嫌われてるね。ダメよ、仲良くしなきゃ」


「ふっ……被害者がダメ出しされる……世界」


「……ほぼ倍返しで仕返ししてる癖に」


 もちろん、特別クラスの生徒たちにも注意する聖母美少女であるが、まさにどっちもどっち状態。もはやどうしていいやらと深くため息をつく。


「あっ、そう言えば。一週間後なんだけど……」


「……なんの日だったかな? 全然、これっぽっちも、片隅にも記憶がないけど」


「フフ……アシュ、それって、絶対に知ってるやつでしょ。私の誕生日なんだけどーー」


「おっと! そうだった。毎年、君のお父さんが盛大に馬鹿らしく祝うあの行事だったね。誕生の瞬間ならまだしも、誕生の日という曖昧な定義立てで祝うあの意味不明な行事が君の番だったね!」


 これ見よがしに、ひどく、ワザとらしく、驚いてみせる闇魔法使い。


「ゴホッ、ゴホッ……でね、その日にジルも呼ぼうかと思ってるの」


「ほぅ、最近、君と彼女は仲がいいからいいんじゃないか?」


「やったぁ」


「……それで?」


「ん?」


「その……ジルの他に誰を呼ぶんだい?」


 アシュは、妙に、ソワソワし始める。


「えっ? 彼女1人だけど……」


「……」


「……」


 ・・・


「えっ? えっ? えっ? なにその沈黙は? 呼んじゃマズかった?」


「……別に君の誕生日なんだから、別にいいんじゃないか? そもそも僕の許可なんて必要ないだろうし」


「ま、まあそうだけど」


「しかし、君も奇特な子だね。誕生日なんかで祝われて嬉しいものかね? 僕は一ミリたりとも嬉しくは思ったことはないが」


 急に不機嫌そうになる性悪魔法使い。


「なによ……今まで君を祝って来た分の労力を返してほしいわ」


「ふん! アレは君が勝手にやったことで、僕は全然楽しくなかったよ。アレだな、誕生日という行事が死滅してしまえばいいとすら、僕は思ってるよ!」


「……逆に誕生日に恨みでも?」


「恨みなんてないさ! あー、よかった。君の誕生日に呼ばれることがなくて! 君がその偽りの誕生の瞬間を祝っている間、僕は重大な、非常に重大な用事があるしね!」


「えっ……アシュ、来れないの!?」


「来れないもなにも誘われてもいないから、行くわけがないじゃないか!?」


「用事ってなによ。どうしても来れないの?」


「君が言っている意味が全くわからないな。誘われてもないのに、どうやって僕が行くというんだい?」


「そもそもメンバーなのに、どうやって誘うのよ!?」


「……えっ?」


「……ん?」


 ・・・


「えっ? えっ? えっ? だから、なによその沈黙は!?」


「……その、そもそもメンバーというのは?」


「なに言ってるのよ。毎年お父さんとアシュと私の3人で祝ってるんだから。最初からいるのは当たり前でしょう?」


「……し、し、仕方ないな。そういうことならもっと早く注意喚起して欲しかったものだね。僕は君の誕生日なんて1ミリも興味がなかったから、すごく重大な用事を入れてしまったんだから!」


 なぜか、嬉しそうな、アホ魔法使い。


「そ、そう? そんなに重大な用事なら無理にとはーー「しかし! 僕は義理堅い紳士だ。君は師匠の娘であるし、僕も不本意ながらお世話になることもある。すごく重大な用事だが、ここは頑張って予定をズラす事にしようかな、うん、そうしよう」


「……」


 一人で喋りながら、納得しながら早足で歩いて行くアシュの背中を、キョトンとしながら見守るお姉さん美少女だった。

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