『セズラー』の二人


 陽の光が射さしてきた山の中で、息をきらしながら男たちが走っていた。裏ギルド『セズラー』の一員であり、死者の王討伐請け負った二人である。


「はぁ……はぁ……くそっ!」


 忌々しげに悪態をつくのは、無精髭を生やした大男。名はログリオ=ジュイン。頑強な身体にまとう鋼鉄の鎧のせいで、人一倍息があがっている。


「……戦略の見直しが必要だな」


 一方で緑の法衣を着た男が、冷静に周りを見ながら走る。名はナイツ=ヴィラン。痩せ細ってはいるが引き締まった身体で、軽快な足取りを見せる。


「……はぁ……はぁ……もう追いつきやがったか! ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」


 ログリオが振り回す巨大な戦棍メイスは、確実に襲いかかってくる死者たちの頭蓋を押しつぶす。


<<炎の徴よその偉大なる姿を愚かなる者に示せ>>ーー炎の印ファイア・スターク


 それでも躊躇せずに動き続ける身体に、ナイツが魔法で焼き尽くす。


「チッ……亡者どもがウジャウジャと……」


 ナイツが神経質に親指の爪を噛みながらつぶやく。死者使いネクロマンサーが厄介なことは知っていたが、これほどとは思わなかった。そして、死者の王ハイ・キングがこれほど際限なく死兵を保有していることも。


「どうする!? これじゃあ、キリがないぜ。いつか、体力が尽きてやられちまう」


「……一度撤退するか」


「ばっ……か野郎! それじゃあ、見殺しじゃねぇか」


 ログリオが荒げる理由は、この山の下にある。確かマグナカと言った、辺鄙だが穏やかな村。今は自分たちが標的となっているが、逃げだせば高い確率でその村に変わるだろう。


「仕方がないだろう? 命あっての物種だ。それに、俺たちの仕事は死者の王ハイ・キング討伐で、その村を守ってやることじゃない」


「……っ。そうだが」


 できることなら守ってやりたいというのが、ログリオの想いだ。平民出身である彼は、同じような村から出てきた。どうにも、死者たちに襲われている村人たちが自分たちの家族とダブる。


 その時、上空に光があがる。それは、セズラーで使う増援の合図だ。


「ははっ、シエールも気がきくじゃないか。ログリオ、今すぐ山を降りるぞ。マグナカの村に戻って戦力を整える」


「ああっ」


 嬉しそうな表情を浮かべる大男は、またしても息をきらしながら走り出した。


          ・・・


「で、なんで貴様がいるんだアシュ=ダール?」


 マグナカの小さな教会の前。


 ログリオが、先ほどまでとは打って変わった表情で、白髪の男の前に立ち尽くす。


「ふむ……そうか、君の単細胞ではわからなかったか。いいかい、教えてあげよう。僕は不甲斐ない君たちの応援に来てやったというわけだ」


 皮肉めいた笑顔を浮かべる闇魔法使いに、巨体の戦士は身を翻す。


「どこへ行くんだい?」


「こんなヤツの力など借りん」


 この『セズラー』という組織においても、圧倒的に嫌われている性悪魔法使い。実際に、一度組んだら、二度とは組まないと言う確率がほぼ100パーセント。常にぼっちの理由として本人曰く『無能なやつほど群れたがる』とのこと。


「ほぉ、じゃあひとりで頑張るといい。まあ、確実に殺されるだろうからせめて一つ忠告を。死ぬときには崖のような高所から頭部を下にして身を投げることだ。頭を潰されれば、死者使いネクロマンサーといえど操ることはできない」


「くっ……」


 なんて嫌な奴なんだというのは、ロドリゴの感想である。


「奴らは頭を潰しても襲いかかってきたぞ」


「まったく……ナイツ君までそのようなことを言うとは。それは、魔法をかけた後だろう? 僕はかける前のことを言っている。勉強不足この上ないね。君みたいなそこそこしか有能でない魔法使いが努力を怠ったら一瞬にして無能の仲間入りだよ。精進したまえ」


「……っ」


 なんて嫌なやつなんだというのは、ナイツも同様の感想である。


「まあ、中に入ってお茶でもしよう。今回は、アリスト教徒の方々とも共同戦線を張る。求められるのはチームワークだ。頼むから、イタズラに和を乱さぬようにしてくれよ」


「「……」」


 二人の想いは一致した。














 お前が言うな、と。

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