勝敗
闇でも光でもない。しかし、確かに、視界は消えた。誰もがなにも見えない。完全なる無がこのあたり一帯を支配する。
やがて、視界が晴れた時、
「ぜぇ……ぜえ……」
すでに立っていられずに、アシュは仰向けに倒れこんだ。
「グ……グエエエエエエエッ」
満身創痍のロキエルの悶える声を聞き。
闇魔法使いは、目を瞑る。
魔法力は、すでになく。
息をすることすら、絶え絶えの状態で、
「……はぁ……はぁ……僕の……負けだな……」
あきらめたように、つぶやく。
怪悪魔はその様子を見て、
不気味な笑顔を浮かべ、ゆっくりと近づいてくる。すでに、その身体は両腕が取れ、体液が流れ出ている。震えながら、今にも倒れそうなほどだったが、前にいる闇魔法使いへの憎しみが、怪悪魔を前に進ませる。
「クッ……クククク……君の勝ちだよ、ライオール」
その言葉と共に、ロキエルの影から白髪の老人が出現し、まるでそこにあったかのように、悪魔の心臓を抜き取る。
<我と 死の契約を その臓を捧げ 悠久の贄を>
「グ……エエエエエエエエエッ」
断末魔の叫び声をあげながら、アシュの顔を睨みつけながら、怪悪魔は地面へと沈んでいく。
「ふぅ。アシュ先生、お疲れ様でした」
ライオールは、いつもと変わらぬ笑顔を見せながら声をかける。
「……相変わらず、底が見えない男だね。ここまで計算していたのかい?」
元老院議長ゼルフとの攻防。リリーの操作。怪悪魔ロキエルの暴走。デルタの死。誰にも予想だにしえない、いくつもの事象を経て、白髪の老人はこれ以上にない最良の結果を得た。しかし、当の本人は「まさか」と、ただ短く、こともなげに答える。
「喰えない男だよ、まったく。まあ、あとはつまらない後始末だ。任せたよ」
アシュの言葉に、ライオールは深く頷き、再び闇に消えて行った。
*
数キロ先。サロレインカルロ城の門を息絶え絶えにくぐるゼルフ。
「すぐに閉めろ!」
鬼のような形相で叫び、我先にと城へと入る。
「はぁ……はぁ……どうする……どうする……」
ブツブツとつぶやきながら、次の一手を模索する。最悪の悪魔が暴れ出してしまった。このままでは、このナルシャ国が滅んでしまう。すぐに、元老院を招集して、対策会議を開き、兵を派遣しなければいけない。早急に意見をまとめて、最強の軍隊を。この国で、それができるのは、自分しかいない。自分にしかできない。なんとかしなければ。なんとか、この危機を、救わなければ――
「どこへ行くつもりですかな? ゼルフ元老院議長殿」
厳しいその声と共に現れ。
目の前に立っていたのは、
ライオールだった。
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