あきらめ


 あえて、アシュが集中して耳を傾けることができるように、デルタは死体たちの動きを止めていた。


「……ふぅ」


 闇魔法使いは、大きくため息をついた。


「はははは……さあ、どうしますか? 選択肢はそうは多くはない。彼女に大人しく倒されて悠久の眠りにつくか。5分間逃げおおせて、彼女の精神を崩壊させるか」


 デルタは心底愉快そうに答える。


「5分……か……ミラ、なにか手があるかい?」


「……残念ながら。彼女が魔薬でヘーゼン=ハイムと同等の実力が引き出されているとすると、この場で勝利することすら難しいかと」


「……そうか。残念だね」


 アシュは、素直にそうつぶやいた。


「さあ、戦闘再開だ。死体たちよ、あの2人を捕まえろ。リリー君、聖闇魔法を」


 デルタの号令と共に。


 再び、死体たちがミラとアシュに襲い掛かり、リリーは魔法を唱え始めた。


 その時、


 <<闇よ闇よ闇よ 冥府から 出でし 死神を 誘わん>>


 アシュの詠唱と共に。地面から黒い魔法陣が現れ、悪魔ディアブロが現れた。アシュが召喚できる悪魔の中でも高位で、最もよくコンビを組む間柄と言っていい。


「……滅悪魔」


 禍々しいほどの圧倒的なオーラを纏った悪魔に、思わずデルタは戦慄を覚える。


「ククク……敢えて僕が激高するように、君は耳を傾けるように仕向けていたが、それは無駄だったよ。死体たちが動きを止めてくれたおかげで、僕に召喚する時間を与えたのだから」


「しかし、それで? 滅悪魔をもってしても、いや……あのリプラリュランですら、彼女の聖闇魔法の魔法壁は破れない。あなただって、わかっているでしょう?」


 デルタの言葉が正しいことを、一番よくわかっているのはアシュ自身だった。先の戦いで聖闇魔法壁を破ることがてきたのは、戦天使が堕落した時に発生する莫大な力を利用したに過ぎない。この人間の世界において、単独の悪魔が使える力をそこまで引き出す方法は、思い当たる限りは見当たらない。


「……ディアブロ、死体たちの処理を。ミラはデルタとリリーを」


 しかし、


 闇魔法使いは彼の言葉を気にするでもなく、それぞれに命令を出す。


 滅悪魔はニヤリと笑い、群がってくる死体を蹂躙していく。有能執事もまた、2人をひきつけ、リリーやデルタが繰り出す魔法の回避、相殺を繰り返す。


「ははは、楽しみですよ。そうやって時間を稼いで、次にあなたが何を行うのかをね」


「……」


 デルタの発言に闇魔法使いは沈黙で答え、


 そして、


 <<漆黒の方陣よ 魔界より 闇の使者を 舞い降ろさん>>


 アシュは、もう一体の悪魔を呼び出す。


「はははははは、凝りもせずに、リプラリュランですか! 無駄だと言っているでしょう」


「はぁ……はぁ……リリー君。君は僕のお気に入りの玩具だ。しかしね……壊れたおもちゃには興味がないんだ。いや、他人に壊されるぐらいなら、その前に僕が! ディアブロ、リプラリュラン!」


 アシュは、滅悪魔と超悪魔の二匹を左右に従え、


 <悪鬼の 悪辣よ 我が闇へ 聖者を 誘わん>ーー三悪魔の一撃トライフォース


 闇のエネルギーと共に、アシュは極大魔法を放つ。


 



 

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