説得(3)


「とにかく、不正の匂いがプンプンします」


 リリーはビシッ指差し言い放つ。


「ククク……果たして君にそれが証明できるかな? 証拠なき疑念など、なんの意味もない」


 これ以上なく三流悪役ぶりを示すキチガイ魔法使い。


「ふふふ、簡単な方法があるじゃないですか」


 優等生美少女はそう言い放って、その細く長い指を地面に向けて巧みに動かす。すると、指に黒々とした光が宿り、地面にはその黒光で描かれた魔法陣が精製される。その迷いなく描きあげられる魔法陣には一片の躊躇いもない。


 リリーの手が止まり、黒い稲妻の塊が魔法陣に駆け巡る。


<<その闇とともに 悪魔ベルセリウスを 召せ>>


 ポン


「シンフォちゃん……待って! 今度こそは時間通りに……アレ……」


 5歳ほどの小柄な体格。黒く小さな翼が背中にちんまり。申し訳程度の牙がチラリ。そんな可愛らしい少年が出てきた。手には、黒い薔薇が一輪。


「久しぶり、ベルシウス」


「……あああああああ、なんだっていつもいつもシンフォちゃんと俺の仲を邪魔するんだよ! ちゃんと、スケジュールを確認してくれ――げっ、あ……姉さん!」


 使い魔はリリーの顔を見た途端、数歩後ろに後ずさる。


「……私じゃ悪いの?」


「い、いえ嬉しいっす。メッチャ嬉しいっす」


 と、ベルシウスは泣きそうな顔で、100%純度の嘘をつく。


「早速、お願いがあるんだけど。」


「は、はい! なんなりと。なんでも言うことを聞きます!」


「ありがとう。このクラスの中で『制服の変更』を望んでいる人が何人いるか知りたいんだけど」


「お、おやすいご用っす!」


 ベルシウスはテクテクと生徒たちの周りを歩き出す。


「ふんふん……ふんふん……」


「か、かわいい」


 シスがギュッとしてモフモフしてナデナデしたい衝動にかられる中、使い魔の審査は完了した。


「わかりました……この中では23人っすね」


「な、なんですって!? そんなはずは」


 リリーの表情が一瞬にして硬くなる。


「クク……君はバカかね?」


 闇魔法使いは勝ち誇ったような歪んだ笑みを浮かべる。


「っ……」


「仮に僕が君を騙しているとしても、悪魔召喚で僕を出し抜こうなどと。非常に無謀で愚かな手段だよ」


「グギギギギ……」


 悔しそうに優等生美少女は歯ぎしりをする。


「契約を結んだ相手が複数いる時、悪魔はどうするか? 答えは、より深い結びつきを持つ契約者に従うということだ。べルシウスと100年以上も前から主人関係を成立させていた僕に対し、不利を働けるわけがないだろう」


 グリグリ。リリーの頭をグリグリ。


 グウの音も出ないリリーは、泣きそうである。


「いいかい? それに悪魔召喚とは、常に代価を伴う。相応の覚悟がない限りイタズラに呼び出すものじゃない。よく、そのチッポケな頭に刻んでおきなさい」


「……う、う゛う゛っ」


 瞳に涙をいっぱい溜めて、リリーは闇魔法使いを睨む。


 一方、非常にスッキリした顔を浮かべるキチガイ魔法使い。


「観念したまえ。君たちは明日からこの制服を着てくるのだ! はーっはっはっは、はーっはっはっは!」


「いやあああああああああああっ!」


 リリーの断末魔の叫びが響き渡った。












 翌日……


 生徒たちはみんな、スカートの下にズボンをはいて登校してきた。


 


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