制圧


 少し離れた森林内の湖付近で。リリーとシスは突如として現れたゴーレムに対峙していた。土から作られ、主人に与えられた命令を忠実にこなす木偶でく。その体格は巨漢の男より遥かに大きく、巨大な拳で岩石をも破壊する。


「……な、なんだろうね、この展開」


「アシュ先生かな?」


「多分ね」


 彼女たちの意見は即座に一致した。どうせ、あの闇教師のしわざだろうと。


 だからこそだろう、彼女たちは非常に落ち着いていた。とりあえず、シスは自分の方に意識を向けるために回し蹴りを一撃。


 いとも簡単にゴーレムのこめかみに入ったが、効いた様子はない。


「えーっと……とりあえず、弱点よね」


 リリーは腕を組んで思考を巡らす。


「うん。確かゴーレムは、身体にルーン文字が記されていてるから、それを消せば主人の命令も解除されるはずだよ」


 格闘美少女は、容易にゴーレムの攻撃をかわしながら答える。もちろん、攻撃が鈍いわけではない。しかし、常にミラと修練している彼女にとってはわけもないことである。


「なら……これなら」


<<大地よ その慈しみをもって 新緑の芽吹きをもて>>ーー大樹の息吹きウォール・ブレス


 彼女の詠唱と共に、周辺の植物や木々が呼応し、ゴーレムの手足に蔓や枝が巻きつく。見る見るうちに身動きが取れなくなる。


「今のうちに……あった! リリー、あったよ」


 シスが文字を発見。すかさず、優等生美少女が駆け寄って確認する。


「……『真実』。なんて、あの嘘教師に似合わない言葉なのかしら」


「じゃあ、消そうか」


 そう言ってシスが手を伸ばした瞬間、リリーがその手を掴んだ。


「ふふふ……うふふふふふ、うふふふふふふふ」


「だ、大丈夫?」


 聖母美少女は不気味な微笑みを浮かべるリリーを色々な意味で心配した。


「いーこと、思いついちゃったー。新魔法よ、新魔法」


「し、新魔法?」


            ・・・


 その時、ベスパは全力疾走していた。


「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」


 ゴーレムの動きは早くはない。その知識を有している彼女は持久力勝負に打って出た。


 走りながら、どうせあの闇魔法使いのしわざだと考える。さて、どう切り抜けようかと算段していた時、真正面の草むらからガサガサッと音が。


「きゃあああああああ」


 そう叫びながら必死に止まろうとするが、あまりに急停止だったのでズドッと転ぶ。すぐに、立ち上がろうとするがその視線の先にはゴーレムの胴体が。


「ひっ……ごめんなさい降参です降参です許してくださいアシュ先生―――!」


 必死に頭を押さえてうずくまる優等生少女。


「ジスパ」


「ごめんなさいごめんなさい痛いのやだ痛いのやだ」


「ジスパ!」


「ひいっ……シ……ス? リリー?」


 顔をあげると、ゴーレムの肩に2人の美少女がちょこんと乗っている。


「ジスパ、リリーってば凄いのよ! アシュ先生が作ったゴーレムのルーン文字を書き換えて味方にしちゃったの」


「へへ……無機物だから、幾何学式を応用してそこに魔力を媒体にして思考回路を変化させれば結構簡単だよ」


「……」


 それのなにが簡単なのか、小一時間かけて説明して欲しい気分のジスパである。


 そんな中、敵のゴーレムが追いかけてくる。


「さあ、ゴレちゃん!」


 リリーが命令すると、ゴレちゃんの方がゴーレムを羽交い絞めにする。


「ジスパ、この部分。ほら、この『真実』のルーン文字に向かって……ほらっ! 魔法言語学教科書の584ページの第6章の3行目を応用して――」


「……簡単に言わないでよ! ええっと……ええっと……確かルーン文字幾何学性の個所でしょ」


 リリーには及ばないが、そこはホグナー魔法学校特別クラスの優等生。必死に脳内をフル回転させて、ゴーレムに記されたルーン文字に魔力を込めて書き換え始める。


「グ……グオオオオオオオオオッ!」


 やがて、ジスパの念ずるとおりに動き出すゴーレム。


「やった! できたじゃない」


「け、け、結構簡単だったわね」


 おっかなびっくり強がりながら、制圧に成功。彼女はゴーレムを命令して自在に動かす。


「でも……新魔法の授業なのになんでゴーレムが?」


 心に余裕が生まれたところで、シスが至極当然の疑問をつぶやく。さすがに、いろいろとおかしい点が目につきだす。


「いくらなんでも酷すぎない!? 許せない」


 キレている。リリーは、キレている。


「決まってるでしょう! 嫌がらせよ! い・や・が・ら・せ。見てなさいよ最低教師! その嫌がらせを10倍返ししてやるんだから」


 超優等生美少女の決めつけにジスパは100%同意した。












 こうして、アシュへの冤罪と生徒たちの逆襲が始まった。


 




 


 



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る