その努力
一方、校庭で走っている特別クラスの生徒はというと。リリーは40周目。シスは30周。その他の生徒たちは15周から20周と言ったところ。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
爆走美少女はすでに、声も発せないほど疲弊している。完走後、聖闇魔法をぶっ放して、最低魔法使いを粉々にしようという決意だけが彼女を支えていた。
その光景を眺めながら、エリート生徒たちの想いは複雑である。そもそも彼女は特別クラスの中でもトップだったにも関わらず、アシュと出会ったことで成長著しく、その実力は今や他の生徒とは比べ物にならないほどだ。
「はぁ……はぁ……リリー、あんまり無理しないでね」
生徒の一人であるジスパ=ジャールが並走しながら声をかける。クラスでの立ち位置は優等生少女。リリーを気遣う気持ち半分、あんまり目立って教師アピールしてほしくない気持ち半分だ。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
無視。と、言うより反応する気力すら惜しい爆走美少女。そのまま速度を上げて、ジスパを置き去りにする。
「な……なんなのよ」
唇を尖らしながら、不満を漏らすジスパ。元々、リリーは圧倒的上位貴族の一人娘。下級貴族の娘である彼女は、嫉妬心でいっぱいの中、幼き頃から培った優等生特性で気遣ったに過ぎないのに。
もう、声かけない、と心に誓う若干性悪少女である。
・・・
しかし、さらに3時間が経過。
リリーの頑張りを目の当たりにして徐々に触発され始めるエリートたち。元々、競争心は旺盛な……いや、大陸でもトップクラスの持ち主と言っていい。こうまで必死に走る背中を見せつけられ、なにも思わない生徒は皆無である。
「はぁ……はぁ……おい! みんな、リリーにばっかいい格好させていいのかよ!? こんな事じゃ、またあいつばっかり評価されるぞ」
そう叫ぶのはダン=ブラウ。いじめっ子気質の強いやんちゃ男子生徒である。しかし、その一言で、生徒たちのくすぶっていた心に火をつけた。
「そうだよ! 俺たちだって頑張らなきゃ」「みんな! アシュ先生に俺たちのこと見せつけてやろうぜ!」「そうよ! 私たちの頑張りをみせてやるのよ」「もっと、もっと頑張って走ろう」
一通り生徒たちが認識を共有したところで、スピードアップ。エリート生徒たちの速度が一気に早くなる。
一方、そんなやり取りがあったなど知る由もないアシュ。コソコソと生徒に見られないように、戻ってきた。
「ただいま、どうかね? 彼らは」
先ほどから、幻影で創り出された最低教師の世話を演じていたミラに尋ねる。
「頑張っていますよ。特に、リリー様の頑張りに触発されて他の生徒たちの――」
「そう言うのは要らないんだよ。現状の経過だけでいい」
生徒たちを一瞥すらせず、アシュは再びハンモックに寝転ぶ。
ミラ、思う。
超最低教師、と。
「……失礼しました。1位は、リリー様で67周、2位はシス様で56周。3位はダン様で48周。他は40~30周あたりと言ったところでしょうか」
「ふむ……では、少々寝る」
「……はっ?」
思わず聞き返すミラ。キチガイご主人の言動がいちいち理解できない人形である。
「もう少し先だろうからね」
「……なにがでしょうか?」
「ふぅ、ミラ……僕が見たいのは、彼らの頑張りなんかじゃない。僕はね……彼らの心が折れる瞬間を待っているんだよ」
歪んだ表情で笑うサディスト魔法使い。
「……」
絶句。二の句がつけない有能執事。
「あの様子だと、リリーは80周あたり。他の生徒たちは60周あたりで心おれるね。唯一、シスだけは完走するかもしれないな。僕は彼女の精神力は評価しているからね」
「……やはり、私はあなたが教師をやっていること自体が間違えだと思います」
「それは、僕でなく理事長のライオールに言ってくれ」
「言います」
淡々と答えるミラを、大きな目を見開いて観察するアシュ。
「……やはり、君の
そのまま寝転がって熟睡を始めるアシュ。
ミラは、またしても、このキチガイ魔法使いの死を願った。
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