食事
禁忌の館に戻った2人だったが、ミラの表情は浮かない。
「あ……あの、さっきの野盗たちに言ってたこと……冗談ですよね? 少しお灸を据えようとしてあんなこと言っただけですよね?」
オズオズと少女が答える。
「……なんで君がそんなことを気にする?」
「だ、だって……人が死ぬところなんて、見たくないです」
「はぁ……君はどれだけお人よしなんだ。君を犯そうと襲ってきたのだろう? ハッキリ言って、僕は慈悲を施す価値がないと思うがね」
「でも……なんか……嫌なんです」
「……」
ここで、性悪魔法使いはしばし考える。もちろん、言葉に偽りはなく、野盗たちはアシュの魔力に寄ってくる魔獣に食い殺されるだろう。しかし、このアホ少女の意味不明な倫理感、理解不能の正義感でも発揮されてごねられても面倒くさい。
「ふぅ……わかったよ、ミラ。君の優しさに免じて、彼らを助けようじゃないか」
そう答えて、闇魔法使いは、目を瞑る。
<<神よ 彼らを牢獄へ送り 人生の 悔いを あらためさせたまえ>>ーー
「……これで、よし」
「ど、どうしたんですか?」
「魔法で彼らを首都ヴェイバールの牢獄へ移動させた。そこには僕のしもべがいて、衛兵につきだすよう、言っておいた。さあ、これでいいだろう?」
「はい!」
嬉しそうに頷く美少女。
「……」
もちろん、嘘である。
単に魔法っぽい超適当な言葉を並べただけ。そんなご都合主義ヨロシクな魔法などあるわけはなく、アホだから、まあ騙されるだろうとは思っていたが、本当に、超簡単に騙された。
性悪魔法使いは思った。
天地無用のアホだ、と。
「あの……言うのが遅れてしまいましたが、助けてくれてありがとうございました」
ミラは、深くお辞儀をする。
「……礼には及ばないよ。僕は君との契約を守ったに過ぎないからね」
「最初、破ろうとしたじゃないですか」
「ふっ……忘れたね、そんな昔のことは」
遠い目をして、15分前の出来事を、懐かし気に答える御都合主義魔法使い。
「……まあ、でも! 助けてくれましたし。結果オーライです」
美少女は弾けるような笑顔を見せる。
「ふーむ……惜しいな」
「えっ?」
「いや……なんでもない、気にしないでくれ」
「なにかお礼をしなくちゃいけませんね……調理場ありますか?」
「ああ、それはこの先にある――ってお礼など必要ない――「じゃあ、お借りします。料理得意なんです。楽しみにしててくださいね」
アシュが制止する前に、美少女は颯爽と調理場へと消えていった。
「……なんだ、アレは。まあ、邪魔者が消えたから、ちょうどいいか」
そうつぶやき、自室へ戻り、再び書物に研究成果を書き始める。
・・・
「アシュさーん! アシュさんアシュさんアシュさーん!」
「な、なんだねうるさいなぁ!?」
「チーズはどこありましたっけ?」
「調理場の冷蔵室の上の段にあるよ! 頼むから邪魔しないでくれるかな!?」
「わかりました! ありがとうございます!」
「まったく……なんなんだ、あの小娘は……」
ブツブツとつぶやきながら、再び机にかじりつく。
・・・
「アシュさーん! アシュさんアシュさんアシュさーん!」
「さっきのことを君は忘れたのかな!?」
「ごめんなさい! でも、お砂糖とお塩って――「ああああああ! わかった。書くから! 少し待っていなさい」
忌々し気に、メモ用紙に、書きなぐる。
「ありがとうございます!」
「……」
天然なアホ。性悪変態サディスト魔法使いの苦手なタイプである。
「砂糖も、他の食材や調味料の場所は、ここに書いてあるから。他にはないかい? 他に足りないものは? 僕の研究を邪魔するほど、重要なものはないかい?」
「うーん……豚肉も入っているし……大丈夫です!」
「……」
豚肉と自身の研究を同列で語られたことに、言いようのない想いを抱く性悪魔法使いだった。
・・・
「アシュさーん! アシュさんアシュさんアシュさーん!」
「なんなんだ!? 一体全体、今度はなんだというのだね!?」
「これ! この文字、なんて読むんですか!?」
「……っ」
結局、調理場の横で、研究成果をまとめる羽目になった
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