アシュがホグナー魔法学校特別クラスの担任になって一か月が経過した。彼の授業は相変わらず背信主義的な要素が多く当然反発もあったが(特にリリーが)、その刺激的な授業を聞き漏らす生徒は誰一人としていなかった。


「ああ! 腹立つ腹立つ腹立つ! なんなのあいつは……」


 明らかな怒り肩をしながら廊下を歩き続けるリリー。隣でシスが微笑みながら、それをなだめる。


「まあまあ。アシュ先生も悪気は――」


「あるに決まってるでしょう! アリアリよ、アリアリ!」


 つい先ほどの授業、背信主義の歴史と言う名の授業でナルシスト魔法使いは自分自慢をクドクドと。苦言を呈したリリーに嫌味と皮肉のオンパレード。結局、性悪魔法使いに論破され怒りの矛先のないリリーである。


「でも、アシュ先生もリリーのことなんだかんだ言って――」


「ば、ばっか! そんなわけないでしょう! あいつは私のことが嫌いなの。大っ嫌いなの。べ、別にいいけどね。私だってあんな奴のことなんとも」


「リリー、顔がまたリンゴみたいよ」


「……もーいい」


 頬を膨らませたリリーは、益々リンゴみたいだ。


 今日は天気もいいので、サンドウィッチの入ったバスケットを片手に、校庭でランチと洒落こむ計画の2人である。


 校庭へ出ると、大きな日傘の下、ハンモックの上に寝転がっているアシュを発見。


「……何をやっているんだアイツは」


 リリーが忌々し気につぶやくと、


「日光浴でございます」


「ミ、ミラさん!」


 いつの間にか、リリーとシスの背後にいたミラ。相変わらずその無表情で淡々とした物言い。


「お二人もよろしければ」


 そう言って、リリーとシスにカフェオレを注いで差し出す。


「あ、ありがとうございます。あの、ミラさんは……アシュ先生とは長いんですか?」


 リリーがオズオズと尋ねる。


「……アシュ様に興味がおありですか?」


「ばっ……ちょ、ちょっと気になっただけです」


「あの方が私を創りだしたのは、80年前です」


「そんなにも長く……」


「それ以前のあの方を、あの方はあまり話したがりません。ライオール様とは同じ師であるヘーゼン先生と言う方に師事されていたようですが」


「へ―ゼン……ってあの!?」


 へ―ゼン=ハイム。史上最高の魔法使いの一人として常に名前が上がるほどの大魔法使いだ。アークドラゴンの討伐を行った彼の魔法は聖と闇の属性を混合させた彼のみが扱える聖闇魔法を操っていたと伝えられる伝説的な人物だ。


「リリー様、シス様。一つだけ……差し出がましいようですが、一つだけご助言をしてもよろしいでしょうか?」


「は、はい。なんですか?」


「あの方のことを信用してはいけません」


「だ、大丈夫です。あんな人信用しません」


 リリーは強く同意した。


「あの方を信頼してはいけません」


「わかりました。それだけは約束します」


「あの方に気持ちを傾けてはいけません」


「あ、あの。なんでミラさんはアシュ先生のことをそんな風に」


 シスが自信なさげに尋ねた。


「あの方の気持ちを推し量ろうとしてはいけません」


「ミ、ミラさん?」


「あの方の心を知ろうとしてはいけません」


「「……」」


 二人は彼女に異変が起きたことを察知した。


「あの方のことを信用してはいけません。あの方を信頼してはいけません。あの方に気持ちを傾けてはいけません。あの方に心を許してはいけません。あの方に想いを奪われてはいけません。あの方の気持ちを推し量ろうとしてはいけません。あの方の心を知ろうとしてはいけません。あの方のことを信用してはいけません。あの方を信頼してはいけません。あの方に気持ちを傾けてはいけません。あの方に心を許してはいけません。あの方に想いを奪われてはいけません。あの方の気持ちを推し量ろうとしてはいけません。あの方の心を知ろうとしてはいけません。あの方のことを信用してはいけません。あの方を信頼してはいけません。あの方に気持ちを傾けてはいけません。あの方に心を許してはいけません。あの方に想いを奪われてはいけません。あの方の気持ちを推し量ろうとしてはいけません。あの方の心を知ろうとしてはいけません。あの方のことを信用してはいけません。あの方を信頼してはいけません。あの方に気持ちを傾けてはいけません。あの方に心を許してはいけません。あの方に想いを奪われてはいけません。あの方の気持ちを推し量ろうとしてはいけません。あの方の心を知ろうとしてはいけません。あの方のことを信用してはいけません。あの方を信頼してはいけません。あの方に気持ちを傾けてはいけません。あの方に心を許してはいけません。あの方に想いを奪われてはいけません。あの方の気持ちを推し量ろうとしてはいけません。あの方の心を知ろうとしてはいけません。あの方のことを信用してはいけません。あの方を信頼してはいけません。あの方に気持ちを傾けてはいけません。あの方に心を許してはいけません。あの方に想いを奪われてはいけません。あの方の気持ちを推し量ろうとしてはいけません。あの方の心を知ろうとしてはいけません。あの方のことを信用してはいけません。あの方を信頼してはいけません。あの方に気持ちを傾けてはいけません。あの方に心を許してはいけません。あの方に想いを奪われてはいけません。あの方の気持ちを推し量ろうとしてはいけません。あの方の心を知ろうとしてはいけません。あの方のことを信用してはいけません。あの方を信頼してはいけません。あの方に気持ちを傾けてはいけません。あの方に心を許してはいけません。あの方に想いを奪われてはいけません。あの方の気持ちを推し量ろうとしてはいけません。あの方の心を知ろうとしてはいけません。あの方のことを信用してはいけません。あの方を信頼してはいけません。あの方に気持ちを傾けてはいけません。あの方に心を許してはいけません。あの方に想いを奪われてはいけません。あの方の気持ちを推し量ろうとしてはいけません。あの方の心を知ろうとしてはいけませんあの方のことを信用してはいけません。あの方を信頼してはいけません。あの方に気持ちを傾けてはいけません。あの方に心を許してはいけません。あの方に想いを奪われてはいけません。あの方の気持ちを推し量ろうとしてはいけません。あの方の心を知ろうとしてはいけません。あの方のことを信用してはいけません。あの方を信頼してはいけません。あの方に気持ちを傾けてはいけません。あの方に心を許してはいけません。あの方に想いを奪われてはいけません。あの方の気持ちを推し量ろうとしてはいけません。あの方の心を知ろうとしてはいけません。あの方のことを信用してはいけません。あの方を信頼してはいけません。あの方に気持ちを傾けてはいけません。あの方に心を許してはいけません。あの方に想いを奪われてはいけません。あの方の気持ちを推し量ろうとしてはいけません。あの方の心を知ろうとしてはいけません。あの方のことを信用してはいけません。」


               ・・・


「ふぅ……魔力の流れがおかしくなってしまったか……なっ!」


 アシュがミラの心臓に手を当てて、黒い光を注ぎ込む。


「……アシュ様。どうかされましたか?」


 ミラは正気を取り戻して、その黒い瞳をパチクリさせる。


「まったく……レディたちが怯えてしまっているではないか」


 リリーとシスは、青ざめた表情でミラを見ていた。


「そうですか。怖がらせてしまいましたね。申し訳ありませんでした」


 ミラは深々と二人にお辞儀した。


「でも……リリー様、シス様」


「ミラ、さあ行こう」


 彼女が何かを言いかけたが、アシュは優しく彼女に肩を貸し歩く。それは、事情を知らない人が見れば、2人が非常にお似合いの恋人同士のように見えた。


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