第16話「二つの力」

「な、何あれー!?」


 イリアが叫びながら指差した先、玉座の上に四つのモニターが現れた。


- ふふ、言ったであろうが。仲間達の最後を見せてやろうとな -


「な?」


ー それに助けに行こうとしても無駄だ。既に結界を張ってあるからな ー


「それ、大魔王からは逃げられないというお約束か!」


ー そうだ。さあ、そこで指を咥えて見ているがいい フハハハハ ー


「く……って、皆がやられる訳がない。てめえこそ部下達がやられる様を見てろ!」


- 何? -




 その頃一階では小次郎とアシュラが一進一退の攻防戦を繰り広げていた。


 アシュラは六本の腕それぞれに剣を持ち、六刀流で攻撃していく。

 それを小次郎が祖父、巌流佐々木小次郎の如く長い刀を巧みに操ってさばいている。


「うわ、流石というか何というか」

 トウマは小次郎の剣技に見惚れていた。

「そうだねー。しかし小次郎さんって魔物がいない世界から来たのに、よく堂々と相手に出来るよねー」

 

「いや、魔物ってか妖怪はいるみたいだが」

「えー? あ、妖怪って妖精みたいなもんでしょ?」

「よく知ってるな……ん?」

「ん、どうしたのー?」

「いや、その話どっかで聞いた事あるような、あれ?」




 しばらくの後、アシュラが間合いを取ってから小次郎に話しかけた。

「やるではないか。貴様程の剣士は俺の知る限り、他にいなかったぞ」

「それは光栄だな。だが私の住む世界にはもっと強い者がいるぞ」

 小次郎が身構えたまま言うと


「そうか。ではその世界へ侵攻の折には粗奴と一戦交えるとするか」


「何? ……だがそれは叶わない事だ。お前は今私に倒されるのだからな」




「な、何だって! おい大魔王! お前の目的ってまさか!?」


ー そうだ。余の目的は全ての異世界を制圧し、全てを混沌へと変える事だ ー


「ええー!? だ、だから邪魔されないように結界を張って勇者が来れないようにしたって事ー!?」

 イリアがそう叫ぶと


ー その通りだ。まあ結局貴様等が来てしまったが、覚醒していない今なら余の敵ではない ー


「それはどういう事だ!?」


ー ふふ、少し喋りすぎたな。では続きを見るとしようか ー




「これでもくらえ!」

 アシュラは叫びながら右三本の腕を後ろに大きく構え、そして横切りに振りかぶる。

 するとそこから大きな竜巻が起こり、小次郎を襲う。


「ぬ? はあっ!」

 だが小次郎はそれを縦一文字に斬った。

 

「甘いわ!」

 アシュラは素早く左三本、また右三本で竜巻を起こし連続攻撃を仕掛けると

「な!? うわああ!」

 今度は間に合わず、竜巻に巻き込まれて後方へ吹き飛ばされてしまった。



「ぐ……」

 小次郎が立ち上がって睨む。

「ほう、あれを喰らって立ち上がるとは大したものだな。ではこれならどうだ!?」


 アシュラはそう言って六本の腕を広げると、それぞれの剣先が光り出した。




「な、何だあれは!?」


- あれはアシュラの究極奥義。奴にあれを出させるとは大したものだな -


「あ、あれって異なる六つの魔法を合わせて放つ、極大六芒星呪文に似てる?」

 イリアが記憶を辿るように言うと


ー その通り。奴自身は呪文は使えぬが、魔剣に気を乗せて同じ事が出来るのだ ー


「そ、それってヤバいじゃんか!」

「ちょ、小次郎さん逃げてー!」




「逃げたければそうするがいい。ただし逃げ切れるならばな」

 アシュラがニヤりと笑いながら言う。


「ぐ……ど、どうするか、え? ……ああ」

 小次郎は一瞬何かに驚いた後、上段の構えをとった。


「ほう、逃げずに立ち向かう気か……ん? 今もう一人誰かいたと思ったがまあいい、くらえ!」

 アシュラが六つの剣先を合わせると、そこから強大な気が放たれた。


 だが

「……はああっ!」

 小次郎が気合を入れると、その剣先に「紅」と「蒼」、二つの光が現れた。


「な!? そ、それは!」

 それを見たアシュラが驚きの声を上げた。




「ねえトウマ、あれって『炎』と『水』の力じゃないの!?」

「ああ。神の目で見たけど、小次郎さんのお母さんは炎を操る妖狐。つまり小次郎さんは人間と妖怪のハーフだったんだよ。そして水の方はおそらく」

「あ、そういう事なの? ねえ、小次郎さんの相手って何者なの?」

「元は河童で今は人間だ(ああ、やはりこれも何処かで聞いたことある)」

「はあ? ま、まあとにかくあれなら。小次郎さん、やっちゃえー!」




「……くらえ、『巌流火水波!』」

 小次郎が大きく刀を振り下ろすと、「紅き炎」と「蒼き水」の力が渦を巻くように合わさり、アシュラ目掛けて飛んで行く。


 そして彼が放った気と激しくぶつかり合い、互いの気が消滅した。


「なあああ!? お、俺の究極奥義があ!?」


「はっ!」

 小次郎がその隙を逃さずにアシュラに斬りかかる。

「む、させるかあ!」

 彼はすぐに気を取り直し、六本の剣でそれを防ごうとしたが


「秘剣・燕返し!」

 小次郎が刀を素早く振り下ろし、右腕三本の剣を。

 そして素早く振り上げ、左腕三本の剣を円を描くように打ち落とした後


「どうだ?」

 小次郎はアシュラの首筋に刃を当てた。


「……俺の負けだ。さあ、そのまま首を刎ねろ」

 アシュラは観念したかのように言うが、小次郎は首を横に振る。

「そうしてもいいが『斬ってはダメ』と言っているのでな」

「誰がだ? ここには俺とお前以外、あ」

 アシュラは小次郎の腹部を見つめた。

「そうだ、お腹の子がだ。さっきの技はこの子と二人で放ったものだ」


「……そうか」

 アシュラは一瞬だが笑みを浮かべ、その後深く頭を下げた。


「さて、他の仲間の元へ向かうとするか」

 小次郎はアシュラがもう何もしないと思って背を向けたが


「だが、甘い!」

「な!?」

 彼は小次郎の腕を掴み、そして


「どうせ生きていても処刑される身だ。せめてお前達を地獄への道連れにしてやる!」

 そう叫んだ後、辺り一面が吹き飛ぶ程の大爆発が起こった。


 そして一階の映像が途切れた。




「こ、小次郎さああーーん!」

「今のって自爆呪文……あ、あれじゃあ……うう」



- フハハハハ。よくやったアシュラよ。これで残り八人だ -

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