第11話「優しい心を失わなかった男」

 翌日の朝。

 俺達は大魔王の城へ向かう事にした、が


「王様、これがそうなんですか?」

「そうじゃ。我が国に伝わる由緒正しき自動車じゃ」

「由緒正しき……へえ」 

 俺達全員が乗るとしたらマイクロバスかなあ、と思ってたが、用意されたのはトラックだった。

 しかも電飾ゴテゴテのデコトラで、側面には天翔ける龍の絵が描かれていた。


「うわー、何て言えばいいのよこれ」

「にゃあ……」

「オ、オラは格好いいと思うけど」

 ドンタさんを除いた全員が微妙な反応だった。


「ま、まあとにかくこれに乗って行くか。運転は俺がするよ」

「オ、オラも運転出来るよ。後で交代する?」

 ドンタさんが自分を指差して言う。

「え? 運転出来るって、そっちの世界にもトラックがあるんですか?」

「い、以前までは無かったけど、つい最近作られたの。オラが運転手第一号だよ」

 マジかよ、それなら助かるな。

 俺一人でも大丈夫だけど、やっぱ疲れるしな。

「じゃあ前半は俺がしますから、後半お願いします」

「う、うん」


 そして俺とドンタさんが運転席、他の皆は荷台に乗ってもらう事にした。

 この荷台って窓があるみたいだから、外の景色を眺める事も出来るだろし。

「皆気をつけてな。武運を祈っておるぞ」

 王様やお城の皆さんに見送られ、俺はトラックを発車させた。



「うお、由緒正しきとか言うだけあって運転しやすいわ」

 それにほぼ一本道で迷うこともないし、道も整備されているから揺れて皆が乗り物酔いする事もないだろう。


 

 それからしばらく進んだ時、俺はドンタさんに幾つか聞いてみたい事があったので尋ねてみた。

「あの、奥さんとは何処で知り合ったんですか?」

 神の目で見えなくもないが、それに頼ってばかりじゃコミュニケーション取れないよな。


「え? あのね、オラ前にニコが住んでる世界に呼ばれたの。レイカとはそこで出会ったんだ」

「へえ~、誰に呼ばれて、って神様?」

「そ、そうだよ。オラの力が必要だったからって。そしてニコや他の友達に息子や娘、レイカと一緒に問題を解決したの」

 そっか。この人って全ての世界で一番の術者だもんなあ。って?

「あ、あの? お子さんがいるんですか?」

 レイカさんってもう二人も産んでるのかよ? しかも旅の途中で?

「う、うん。養子で十二歳の息子がいるの。娘が実子だよ」

「あ、そうでしたか。それで娘さんはお幾つ」

「今はまだ生まれてないよ」

 は?


「えと、すみません。意味がちょっと分からないんですけど」

「あ、ごめんなさい。娘はオラが十四年後の未来から呼んだの」

「え!?」

 そ、そんな事まで出来るのか、この人は?


「えっとね、娘は二年後に生まれるの。その話を王様にもしたら喜んでくれた」

「へ、へえ……あ、そういえば王様と仲良くされてたんですね」

「う、うん。あのね、オラって王様の弟さんによく似てるんだって。だからオラといると弟さんが帰ってきてくれたみたいで嬉しかったって」

「そうだったんですか、あ」

 そ、そうだったのか。


「ん? ど、どうしたの?」

 ドンタさんが心配そうに俺を見つめる。

「い、いえ何でもありません。すみません」

「そ、そう。あの、疲れたなら言ってね。運転代わるから」

「ええ。ではもう少ししたら」


 神の目で見えたけど、実はドンタさんのお父さんが王様の弟さんその人だった。

 お父さんはどうやら自己犠牲呪文を放った際に出来た時空の歪に落ち、異世界へワープしてしまったらしい。

 瀕死の重傷を負い、名前以外の記憶を失って倒れていたお父さんを見つけて介抱したのがドンタさんのお母さん、某国の貴族の一人娘だった。

 やがて二人は恋仲になって結ばれ、ドンタさんや妹さんが生まれたが……。


 この人の人生って相当過酷だったんだな。

 それでも優しい心を失わなかったって、ホント凄い人だよ。



 ってやはりだ。

 俺、こんな話を何処かで聞いた事ある。

 でも思い出せない。

 もしかして転生した影響なのか?




「あ、あれ? トウマさんからオラと同じ何かを感じたけど、気のせいかな?」

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