第10話「色々と」

 そして夕方になり、宴が始まった。


 うん、マオリが言ったとおり俺達をダシにしたいのもあったようだな。

 もう既にめちゃくちゃ騒いでるよ。


「ま、いいか。これで少しでも気が晴れるなら」

「そうだよねー。さ、トウマも飲んだらー?」

 イリアが俺にジョッキを差し出す。

 中身はキンキンに冷えたビールだった。

 俺はそれを受け取って喉に流しこむ。

「くうー、美味い。そういやこっちに来てから酒飲んでなかったわ」

「あたしもそうだよー。じゃ、飲もうっと」

「お、イリアも飲めるんだな」

「うん。そうだ、改めて乾杯しない?」

「ああ」

 俺達はジョッキをカチンと合わせた後、しばらくあれこれと話した。



「ふふ、あの二人は仲がいいな」

「そうですね。あ、小次郎さんはあまり飲まない方が」

 マオリが小次郎の体を気遣って言う。

「大丈夫だ。私は元々飲む方ではないので、代わりに名物のお茶を頂いている」

「なら安心ですね。このお茶って体にいいそうですよ」

 マオリもあまり酒が飲めないようで、そのお茶を飲んでいた。

「……ところで小次郎さん。あなたのお相手は知っているのですか? 赤ちゃんの事を」

「いいや、彼はこの子の事は知らない。あれは一夜限りの夢と思っている。彼もまた武者修行の旅の途中だったからな」

 そう言った小次郎の顔は本来の「鈴」となっていたが、本人は気づいていないようだ。


「……知らないのならいい方です。でもあいつは知っていて」

「ん?」

「あ、いえ何でもないです」

「そうか。まあ、今は思いっきり騒ぐとするか」

 小次郎はマオリの心にある何かを感じ取ったが、それを尋ねずに言う。

「ええ。そうですね」

 



「にゃあ~。ドンタさんってかなりの変態ですにゃあ~」

「マ、マウさんこそ。オラなんか全然敵わないよ」

 どうやらマウとド(ズキューン!)は飲みながら変態エロ話で盛り上がっているようだ。


「そんな事ないにゃあ。いくらあたしでもチョコまみれの女の子をペロペロなんてした事ないにゃあ」

「オ、オラだって美少年を何度も手で(ズキューン!)なんてした事ない」

「幼女に踏まれてハアハア、なんてあたし無理だにゃあ」

「う、ううん。インキュバスに何発も(ズキューン!)て、オラには無理だよ」


 その時


「あなた~。マウさ~ん。……これでも喰らいやがれー!」


「え、ウワアアアー!?」

「フギャアアアーー!」


 側で聞いていたレイカがどっからか出したマシンガンで変態二人を蜂の巣にしてしまった。


「プシュー」

 そして近くにいたニコは変態エロ話をモロに聞いてしまい、ショートしてしまった。

 彼は実年齢はともかく、精神年齢は十二歳位なので。



「ねえトウマ、あれってホントに死んだんじゃ?」

「いや、変態だから生きてるみたいだぞ」

「どんだけー……」




 翌日、朝食の後で俺達は王様の部屋に呼ばれた。

「では儂が知っている事を話すとするが、まず何を聞きたい?」

「あの、大魔王とはどんな奴なんですか?」

 大魔王の事は「神の目」でも見えない。


「……姿は知らぬが途轍もない力の持ち主じゃ。儂は以前大魔王を討とうと軍勢を率い、奴の城へ攻め込んだが、惨敗じゃったわ」

 王様は俯きがちになった。

「え? あの、王様だってかなりの魔法力をお持ちのはずじゃ?」

「流石勇者、見抜いておったか。そうじゃ。儂も魔法力には自信があったが、それでもな」

 

「あの、こう言っちゃなんですけど、よく生きて帰れましたね」

「ああ。儂の弟が撤退の際に敵の追撃を防いでくれたからな、自己犠牲呪文でのう。……お陰で兵士達に死者は出なかった」

 王様の目には涙が浮かんでいた。


「そ、そうだったんですか。すみません」

「いや、気にしないでくれ……さ、他に何かあるか?」


「では王様、大魔王は何処にいるのですか?」

 今度は小次郎さんが質問した。

「ここから西へ三百キロ程行った所に城があってな、大魔王はそこにいるはずじゃ」

「三百キロ? トウマ、それはどの位の距離なのだ?」

 あ、小次郎さんは江戸時代の人だもんな。キロメートルなんて知らないか。

「えーと、徒歩だと俺達の足で休み休み行って五日程の距離ですよ」

「そうか。なら馬でも調達するか? その方が」

 すると王様が

「ん? 馬より自動車で行けばもっと早いであろうが」

 は、はい? そんなものまであるの、この世界?


「自動車? それは何ですか?」

「からくりで動く馬車だと思えばいいにゃ。でも馬より何倍も早いにゃ」

 首を傾げている小次郎さんにマウが説明してくれた。

 そういや彼女は俺と同じような世界から来たんだっけ。

 それなら自動車くらい知ってるわな。


「何倍も? ではそれだとどの位で」

「車なら二時(四時間)、てとこじゃないですかね」

 俺は小次郎さんも分かる単位で言うと

「そ、そんなにか? そのような物があるとは……」

 そりゃ江戸時代の人だと信じられんわな。


 その後色々と聞いた後、車の方は明日には手配出来るというので今日は体を休めておく事にした。

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