第194話 企み

分裂し始める敵、勝ち過ぎてもいけない戦いに、健と浩二はどう挑むのでしょうか?


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本文


ニビル軍本陣


「後退した⁉ 馬鹿な! アテーナーはどうした‼」


「主よ! お言葉ですがアテーナーは俺に軍を任せ自らの因縁の戦いに出掛けられました。

そして俺の目の前にジャネットが立ちはだかりました。主はお忘れですか? あの男に我がオリュンポス軍が何れだけ煮え湯を呑まされたのかを」


「い、いや、、、」


「それともまさか主はこの大事なる前に、我が特別隊に多大な犠牲を出してでも個人的な私闘を優先したアテーナーを待てとでも言うおつもりですか?」


辺りの神々がゼウスを見る、そしてオーディーンも…………


「ゼウスよ、そのジャネットとか言う輩の話は我も聞いた。だが所詮未来人とは言え人間であろう? そこまで警戒する必要が有るのか?」


「あの男の仕掛けた幾つもの奸計により、100を越す天使軍と50の我がオリュンポスの神々が命を奪われた…………強さもさる事ながら、あの者の恐ろしさは未来から持ち込んだであろう軍略なのだ。とてつもない発想力で敵を纏めて始末するあの軍略の恐ろしさは戦った者でなければ解るまい、火計、水計、時には地津波と、その自然の地形迄をも利用して様々な奸計を仕掛けて来る…………」


「だからこそ俺はこの大事なる前に無駄死にを部下にさせたくなくて撤退を選びました。恐れながら主よ! ナンムの一族と闘う前に特別隊の力なしに戦えますか?」


「そ、それは……無理であろうな……」


「ならばアテーナーの事は諦めて下さい。堂々と戦っての敗北ならばまだ良いでしょう、だが奸計等で命を落とす事など俺は部下にさせられません‼ 奴が出てきた以上こちらも力押し出はなく作戦を持って挑むべきなのです‼」


単なるアレースの詭弁であった、アテーナーの地位はオリュンポス軍の中でもゼウスに次ぐ物であった。アレースは同じ戦の神で有るが、神格でゼウスの娘であるアテーナーには引くしかなかったのである。アレースはこれが気に入らなかった、だからアレースは健二出現にかこつけてアテーナーを見殺しにしたのである。

だがこのアレースの言葉に周りは納得した、軍を放り出し、マルティアとの私闘を始めたアテーナーへの同情は皆無だった。

だがゼウスは心中穏やかでは居られなかった、可愛い娘であるアテーナーを事もあろうに敵軍の真っ只中にアレースは置き去りにしたのである、だがここでアレースを裁けば周りが自分を認めなく成ってしまう、そして必死で結んだヴォーダンとの協定すら無くなる危惧すら有るのだ。


実はゼウスとオーディーンはニビルでの覇権をナンムの一族から奪う計画を立てて居たのである。

これは数千年も前から企てていた計画だった。

現在パルスーはイナンナが持っていた。

そして前回の健との戦いでそのパルスーがイシュタル、そして帝の手に有る事を突き止めたのだ。

そこでゼウスがたてた企みはムーから人間達の手を通してパルスーを奪わせ、ナンムの一族から覇権を奪おうと言う算段だった。

だからまずイナンナの復活を阻止すべく、マナの壺を奪わせ冥界に隠した。

イナンナの後押しが無ければ健達に自分達へ抗う力は無いと判断したのだ。

だが其は間違いだった、思わぬ抵抗を受けたのだ。

浩二…………この男の存在はオリュンポスに取って驚異の一言だった。

健だけ始末すれば後はどうにでもなると思っていたのだが、何度も健の始末に失敗した。

その度に邪魔をするのが浩二だった。

そして健達は負けたと思っているが、オリュンポス達はそうは思わなかった、健を現代に取り逃がしてしまったのだ、詰りオリュンポス達に取っては敗北したのは自分達だ。

そして今回、苦肉の策で結んだのがヴォーダンの一族との協定だった。

ナンムの一族と闘うには前回浩二の奸計により失った戦力がスッポリ足りないのである。

だからオリュンポス族の多くに取って重要なのは女神一人ではなく、ナンムと戦える複数の者達だ。

だからこそ今回アレースが取った行動はオリュンポスの一族に取っては受け入れられる行動であったのだ。実際上では愚策であったのだが…………


「ゼウス、アレースの言う通りです、アテーナー一人の為に無駄に特別隊の者を減らすのは愚か、ナンムとの戦をしないのであれば別ですが」


「デーメーテール…………」


「貴方達何を言っているの? アテーナーは私達十二神の一人よ? アテーナーを欠いてナンムの一族を倒せるとでも思っているの? ちょっとおかしいよ⁉」


「お黙りなさいアルテミス、其よりお前の兄アポローンはどうしたのですか? 裏切りでは無いでしょうね?」


「兄さんの事は今関係無いでしょ⁉ 今はアテーナーの事を…………」


「アテーナーを失う事は痛いが、アテーナーは部隊を放り出し私闘を演じた。そんな無責任な女神より現在は特別隊の方が重要だ‼ それに戦の神は俺が居る‼」


「く! …………どうなっても知らないわよ!」


この亀裂がオリュンポスの一族に取って最悪の結果に繋がって行く…………


アルテミスは地球のとある村に来た、そう、ここに今アポローンが身分を隠して潜伏していたのだ。


「すご~い、お兄ちゃん楽器の演奏得意なんだね~」


「そろそろママが心配している頃だよ? サーシャ、お家にお帰り?」


「うん! お兄ちゃんまた教えてね? 約束だよ?」


「ああ、約束だ!」


「バイバイ!」


「気お付けてお帰り、バイバイ」


「アポローン様、アルテミス様がお見栄に成りました」


「オルペウス、様は要らないと言わなかったかい? 君は養子とは言え僕の息子何だ、そう畏まられては何の為に養子にしたのか解らないよ?」


「は~、少しはご自身の立場をお考え下さいアポローン様、貴方は神なのですよ?」


「そう言うのは嫌いなんだよな~、早く大和君に合って見たいよ、彼となら気が根無しに様々な事を騙り会えそうだ! ボクシングだっけ? ただ拳だけで殴り合い勝者を決める! 素晴らしいじゃないか、戦争など止めて皆それで勝負を決めればいいんだよ‼」


「早く行かないとアルテミス様がまた激怒されますよ?」


「ああそうだったね、そう言えばアルテミスが来てたんだった、、、そうだ! アルテミスを大和君の嫁に出そうじゃないか! そうすれば僕と大和君は兄弟だ! 素晴らしいよ、何でこんな簡単な事を思い付かなかったんだ‼ そう思わないかい? オルペウス」


「アルテミス様は純潔の女神ですよ? そんな事より早く行かないとアルテミス様がそのドアを蹴飛ばしてまた…………」


ドガーーーーン‼


「いつまで待たせるのよこのボケ兄‼」


バキ‼


「グハ‼」


「…………だから言ったのに…………」


「おお妹よ…………そんなに乱暴だと嫁の貰い手が無くなる…………」


バキ‼

「グホ‼」


「大きなお世話よ‼」


「このやり取りは何処でも見ますね…………」


「何処でも? 何処で見たの? オルペウス」


「この間迄いたムーの軍で毎日のように見ていましたよ、私としてはアポローン様とアルテミス様を見ている様で楽しかったですけどね」


「大和君かい?」


「はい、大和君と妻の久美です」


「それよ! 兄さん私決めたわ! ムー軍に行く」


「おお妹よ、やっと決心してくれたんだね?」


「アテーナーがムー軍に捕まったわ」


「其は本当かい?」


「ええ、アレースが置き去りにしたのよ、どう考えても態とよ!」


「だろうね、アレースは同じ戦の神としてアテーナーを疎んじていたからね、でも何故アテーナー程の女神がそんなドジを?」


「そこが解らないのよ、部隊をほったらかして私闘を演じたと言ってたけど」


「パラス様でしょう」


「パラス⁉ 転生していたの?」


「今はマルティアと名のってムー軍の将軍に成っていますが」


「成る程読めたね、彼女とならアテーナーは決着をつけるのを優先するだろうね、アテーナーは常に罪の意識を彼女の持っていたからね」


「反対していたナンムの一族との戦もパラスの仇を取るつもりで最後は賛成に回ったものね」


「しかしこれでアテーナーも純潔の女神ではなくなってしまうね~」


「何でそうなるのよ?」


「大和君がアテーナー程の女神に手を出さない訳が有りませんよ」


「そのよく聞くアグディスティス様の息子、何れだけ女の敵なのよ‼」


こうしてまた健達の側に着く神々が増えて行くのであった。

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