第44話 神の軍勢

予め言っておこう、健の起こした核反応は核融合 、水素やヘリウム等を使用する比較的放射線がすくないクリーン核エネルギーである。

所謂原子爆弾や熱核爆弾と言ったウランやプルトニウムを使用する核分裂とは別物である。

だが当然核反応中は広範囲にプラズマが発生する為に、その場だけはガンマ線といった人体に影響を及ぼす有害な放射線が発生するが、即死とは程遠いレベルである。

また核融合と言えば水爆を連想しがちだが、健が行ったのは水爆は水爆でも、一般的に言われる水爆とは違う。

一般敵に言われる水爆は、発火爆発にプルトニウムを使うが、健の行ったのは重水素、所謂液化水素を使用した物である。

ただ威力は原爆等と比べると桁違いに大きい。



「もう許さないぞ、あんなふざけた魔法撃ちやがってーーーーーー!」



リグの火詮槍が遂に健を捉える、健はそのまま体を焼ききられる


「ぐはっ!」


鎧を通りこし、肉をかなりえぐられる


「へ、何興奮してんだよ、何ならもう一発お見舞いしてやろうか?次ぎは外さねーぞ!お前の本体にキッチリ食らわせてやるぜ?」



勿論こんなのは健のハッタリである、今回健があんなものを打てたのは、ブローマからカツアゲした神器、紫綬仙衣が有ったからこそだ。

それが無ければ健の体は粉微塵に吹き飛んでいた。

撃った本人と言えど、核融合の爆心地にいたのである、無事ですむ筈はない。

そしてリグに対する牽制でもある。


「お前、知ってるのか?」


リグは混迷極まっていた、かすった程度とは言えもう数十発は火詮槍を健に当てている、火詮槍の威力を知っているリグにとっては信じられない後景だった。

そして今リグはラフィーネ達にも使っていなかった混天綾まで使っているのだ、だが健はまともに自分と打ち合っている。

そして今健は本体と言った。


「さあなぁ!試しに撃ってみるか?『早くしてくれ!もう持たねーぞ‼』」


同時に健も困惑していた

『リグが無事って事は本体も無事って事だ……クソ‼どうなってやがる……』



瞬時に距離を取るリグ



「別にびびって距離を取る訳じゃないよ、君にあの魔法はもう打てない。

いや、正確には打てるんだろうけど、君自信打てば只では済まない筈だ!

あれは自爆技だ、だが君は無事だった、それはブローマから奪い取った紫綬仙衣が有ったからこそだ。紫綬仙衣とて無限に攻撃を無効化出来る訳ではない、それは先程僕の槍を受けて証明された!」


『ちっ!こいつバカだと思ってたら多少知恵が回りやがる。

遠距離からのヒットアンドアウェイに持ち込まれたら、勝ち目ねーからあんなの最初にぶっぱなしたってのに、マジで早くしてくれ!』


「さあ、どうする?僕は君の自爆技には付き合うつもりは無いよ?こうして何時でも離れられる位置から君を攻撃しては放れる、こんなふうにね?」



「健兄さーん!これどうするのー?」


来たーーーーーー!

「そのままこっちにブッカケロー!」


「え!本当にご褒美?」


「ふざけんな!状況見りゃわかんだろ、もう持たねーんだよ!」



アンナが桶を奪い取り、そのままハンマー投げの要領でこちらに飛ばした。健は自分の体にわざと火詮槍を受けた


「君?何を?」



「俺と一緒にご褒美貰おうぜ‼」



健はリグと一緒にそのままラフィーネ達のそれを頭からざぶりと被る!その時

リグが溶け出した!



「え?何、あれ、リグが溶け出してるわよ?」


「リーアーーーーーー!本体はそこだーーーーーー!打ち抜けーーーーーー!」


健は金色に光っている何かを指差した


「え?あー!わかりました!」




「うわゎゎゎ!まずいーーーー!ぐはっ!」


リグ本体は金色に光る鎧を着用していたのだ、リーアは瞬時に鎧には貫通しないだろうと見抜き、アンナに補助魔法をかけて貰い、高速の弓を放って、リグ本体の露出した足を狙った。



健は腹を押さえながら

「イテテテテ、チキショー!アンナ!」



「はい!今回復致します」



「久美!捕まえろ!逃げようとしてるぞ!」



「え?待てー」


「うわぁぁぁぁ」


「捕まえた!え?女の子?」



アンナに回復して貰った健は邪悪な笑みを浮かべながらリグ本体に近づく

「さーて今度は本当にお仕置きの時間だ‼

覚悟は出来てんだろうなーガキ?人の体に風穴空けやがって」



「君だって僕の服や髪の毛こんなに焦がしたじゃないかー」


「うるせーガキ‼安全な所でこそこそ人形いじってたテメーに言われたくねー!しかもこんなチートな鎧着込みやがって、ブラフマーが通じなかった時は正直焦ったぜ……」


「そんな凄い鎧なの?これって」


「ああ!多分サイトウゲイの元になった鎧だろう、水滸伝の徐寧が使ってたって言う一切の攻撃を通さないって鎧だ!」


健はリグ本体を持ち上げた


「うわぁぁぁぁエッチー助平、変態」


「オラッ!行くぞ!1.2.3.」


尻を叩き出す健


「とりあえず尻叩き30発だ!4.5.6.」


「うわぁぁぁぁん痛い、痛い、痛いよー、もうしないから許してよー」



「あぁぁん?何言ってんだか聞こえねーなー」


「はー、、、まさかこの様な子供とは……九美様、大丈夫ですか?回復はしましたが、私のは応急措置なので」


「大丈夫よ、戻ったらセリナ婦人がいるしね」


「25.26.27.28.27.26.25.24」



「減ってるよー!ずるいじゃないかー、バカバカバカバカ」


「あーん?バカだとこのクソガキ!11.12.13」


「嘘、嘘だよ、カッコいいお兄ちゃん、だから許してー」



「最初からそう素直になればいいんだよ!25.26.27.28.29.30」

バッチーン!


「ウギャァァ!」



最後の1回を猛烈に叩いた健



「良いか、金輪際アスラとは手を切ると約束したらもう叩かない!どうだ、約束出来るか?」



「でもあたし行くとこ無いもん……」



「あなた名前は?まさかリグが本名じゃないでしょ?」



「マリナ……」


「そう、マリナ、じゃー私達とくる?宝貝は返せないけど……」



「いいの?」


「良いわよ、マリナちゃん可愛いし、健兄さんもさすがにあなた位小さい子にはエッチな事しないと思うから」



「あん?何で今それが関係あるんだよ!」


「それにしても健様、ちょっと臭います、こちらで水魔法で洗いますので」



ーーーーーーーー


時間は少し戻る



「ラムダ将軍、戦況は?」


「は!ナーナ様、現在敵300がこちらの右備えに集中、一進一退の攻防を続けております」



「報告!敵300、新たに右備えに突撃、右備え崩壊、エルドワーグ軍200が応援しておりますが、敵の勢い激しく時間の問題かと」


「ならば参りましょう、ナーナ」


「はいお姉様」



「帝、ナーナ様、危のうございます、本陣にて式を」



「健様も命がけで闘っているのです、ラムダ将軍、この戦程度跳ね返せず、私は健様の傍らに立つことなど出来ましょうか」



「お姉さま!参りましょう、ルチル様達はこの本陣にて、近衛が必ずやお守り致しますのでご安心してください」


「あっ!あの……私……」



ラムダが大声をあげる

「馬引けー帝が出陣致す」


「ナーナ、参りましょう」


「はい!お姉さま」


ルチルは迷っていた、健が闘っている、ラフィーネもアンナも……自分にも出来る事がある、でも一度健を失った時の恐怖が踏み出す勇気を殺す



ーーーーーーーー


右備えに帝とナーナが現れた

「皆さん、恐れる事なかれ、今皆様に勇気を‼」


帝とナーナの体が光り輝く


そして二人は詩を紬だした

「たかあまはらにましまして、、てんとちにみはたらきおあらわしたまうりゅおうは、、だいうちゅうこんげんの…………」


兵達に溢れんばかりの力が沸きだしてくる

「おぉぉぉ力が溢れて来るぞー帝ーーーーーー!

ナーナ様ーーーーーー!」



これが神道魔法の力だった。

一見すると戦闘補助魔法に見えるが、神道魔法は根本が違う。

補助魔法とは人間の身体能力を一時的に上げるのに対し、神道魔法は神がかる。詰り八百万の神々や龍神を降臨させ、その力の一端を対称にかける。

詰り神々の力を使う魔法なのだ、当然補助魔法との差は歴然たる物となる。

だが神道魔法にも欠点があった、降ろす神々は一柱につき一日に一度きり、祝詞のりとの間だけだ。

太古の昔には魔力が続く限り行使出来る祝詞もあったが、それは現在もう伝承されてない。


「お姉さま、押されている様です、このままでは」


「諦めてはなりません、健様も久美もまだ、ほら 、あんなにも激しい戦闘を行っているのです!」




ーーーーーーーー



「ねぇルチル~……恐くないよー?」


「ミーシャさん、わ、私は……」


「ルチル?何もしないで何かを失うのが一番恐いことなのではないですか?私はそうお姉さんから教わりましたよ?」


「シエラさん……」


「行って来なよルチル、あなたの本当の力、今使わないでいつ使うの?ここは健様が帰ってくるとこなのよ?貴女は健様をもう失いたく無いんでしょ?私も嫌よ?健様を失うのは……」



「セナさん…………わかりました、私、健様を守ります」



「うん、頑張って~ルチル~!」

ルチルは帝の後を追ってはしりだす



ーーーーーーーー



「帝ー!お引き下さい、ここはもう」


「駄目です、ここを抜かれる訳には」



そしてルチルが転びながらも追い付いた

「帝様!龍神祝詞ではだめです、ハア、ハア、ハア」



「ルチル様?何故ここに」


「私が謳います、でも私には魔力がありません、帝とナーナ様はわたしに魔力を」



二人は目を丸くしながらお互いを見つめる……

そして意を決した様に

「わかりました、ナーナ、魔力をルチルさんに送ります」


「はい!お姉さま」



そして三人が金色に光輝く

「ひーふーみー、よーいーむなやーこ~とーもちろらね

しーきーるー、よーいーつーわーぬ、、

そ~をーたーは~めか

うーおーえーにーさ~りーえーて…………」



とてつもない量の金色の魔力の渦が上空に出現しだす

「この祝詞は………………お姉さま?」



「失われた神代の祝詞です、そうだったのですね、ルチーナ様がみずからをおかくしなさったのは、神代の祝詞を敵から守る為」



「それにしても、お姉さま、根こそぎ魔力を持っていかれます……」


「耐えなさい!ルチーナ様はお一人でヴァルキュリアの方々にこの祝詞をお掛けあそばされていたのですよ‼」



そして……

形勢は逆転した、神代の祝詞と言う反則級の魔法を使った、言わば神の軍勢に、ベスティア軍ごときが太刀打ちなど出来る筈もなかった……





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