♪34 ニンジャ? ナンジャ? 劇場版より・後編

 少女2人の快進撃は、天を突くような大男と、それとは対照的にかなり小さな男を連れたずんぐりむっくりの親分の登場によってあっさりと終焉を迎えます。


 『カエン』と呼ばれた大男は、その巨体からは想像もつかないほど素早く、『ツキヨ』と呼ばれた小男は武器の扱いにとても長けておりました。

 カエンは素早く回り込んでエリを捕まえてしまいます。それを助けようとあんずが投げた『激辛唐辛子玉』はツキヨの鎖打棒によって打ち返され、やっと縄を解くことに成功した忍太郎のお口の中へホールインワン。


「かっ、辛ぁぁああああ~~~~~~~~っ!?」


 口から火を噴きながら辺りを走り回れば、やや優勢だった山賊共は血相を変えて逃げて行きます。その後ろを竹筒に入った水を持って追いかける泰蔵と、「どうして忍太郎はいつもこうなのよ!」と突っ込みを入れるあんず。そうこうしている間に、エリを担ぎあげた親分はガハハと笑いながら側近の2人と共に「この娘は儂がもらった」と連れ去ってしまうのです。


「あっ、エリ! ちょっとアンタ達、遊んでる場合じゃないでしょ! 行くわよ!」


 水を飲んで一息ついている忍太郎の首根っこを掴んで引きずり、鼻息荒くその後を追うあんずに、おろおろしながらその後に続く泰蔵。この3人の力関係はだいたいいつもこのような構図になります。


 その後は舞台を裏山に移し、エリを賭けての3対3の決闘です。


 先鋒は大男カエンVS忍太郎。

 目にも止まらぬ速さで忍太郎の周りを駆け、分身したかのように見せて翻弄するカエンでしたが、忍太郎が破れかぶれに投げつけた竹筒が木にぶつかって跳ね返り、偶然にもそれを踏みつけてその勢いのまま大木に激突し再起不能。勝者、忍太郎。


 次鋒は小男ツキヨVS泰蔵。

 泰蔵は果敢にも覚えたばかりの火遁の術を使おうと、懐から火打石を取り出します。……が、1回2回打ち鳴らしたところで火花が散る前に粉々になってしまいます。それを見てツキヨは高らかに笑い、今度はこっちの番だと小刀を投げつけ、泰蔵を大木に磔にしました。15本ほどで充分に彼を固定したツキヨは厭らしい笑みを浮かべて、どこから取り出したのか大金づちを片手にじりじりと泰蔵に近づきます。さぁ、これで止めだ、とツキヨは大金づちを振り上げましたが――、泰蔵は磔にされたままの状態で大木を根っこから引き抜き、彼の脳天に一撃。勝者、泰蔵。


 さて、こうなれば最早大将戦というよりは卑怯にも3対1の構図です。

 しかし、親分も悪役らしくエリを盾にしてどうにか戦況を有利に持っていこうとします。懐に手を入れ、手持ちの武器をまさぐるあんずに気付き、こいつの命が惜しかったら武器を全部捨てろとのたまい、忍太郎が泰蔵から回収した小刀までも返せという始末。


「卑怯よ! この不細工!」


 事実、親分は360度どこから見ても不細工なのでした。

 あんずが事実をありのままに叫ぶと、それまではまだ余裕があった親分は急にぶちギレ、怒りに任せてエリを引き寄せ、その首元に脇差を当てます。


 やはり自分達だけではどうにも出来ないのか。

 どうしよう、エリが。

 誰か、エリを助けて。お師匠様……!


「下賤の者め! 余の姫に触れるな!」


 そう言うや否や、突風のように現れたのは、美しい白馬に跨った精悍な顔立ちの青年でした。


「だ……っ、誰だっ!?」

「柑橘城11代目当主、甘夏あまなつ章之進しょうのしんだ。我が妻、エリ姫を助けるため、ただいま参上仕った! 覚悟!」


 彼はひらりと馬から飛び下りると、その着地と共に親分に向かって踏み込みながら刀をすらりと引き抜きます。その流れるような動きに言葉を失っていた親分でしたが、彼が再び刀を鞘に納めると、その不細工な顔を醜く歪めて笑いました。


「……が、ガハハハハハ! なぁにが『覚悟!』だ、優男め! 脅しのつもりか、それで?」


 虚勢を張るように声を荒らげた親分には目もくれず、章之進はエリの方へと身体を向け、じっと彼女を見つめます。無視されたと感じた親分はエリの首元に当てていた脇差を今度は章之進に向けました。と、その時。

 はらり、と音も無く親分の着物が袈裟懸けに裂けました。


 しかし、安心してください。もちろんそこは子ども向けアニメ、最後の砦である6尺ふんどしだけはしっかりと残ります。章之進は居合い切りで親分の着物のみを切ったのです。彼に恐れをなした親分は傍らで伸びている側近達の首根っこを掴み、情けない声を発しながら逃げ去って行くのでした。



 その情けない撤退に、会場にいる子ども達は声を上げて笑った。

 もちろん良い大人である湖上こがみも口元を押え、肩を震わせていた。

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