♪6 集計結果

「さぁ! 視聴者の皆さん、投票をお願い致します!」


 演奏後はもう良いだろうと定位置である奥へ引っ込もうとするのを竹田に阻止されたあきらは、隠しきれないほどの不満をにじませた顔でMoGの隣に立った。もちろん、すぐ近くには章灯しょうともいるのだが、MCという立場上、べったりついているわけにはいかない。


 出演者全員が固唾を呑んでモニターに表示される集計結果を見守る。AがMoG、BがORANGE RODである。


 両者の票数は拮抗し……と言いたいところだが、圧勝だった。

 ――Bの。


 そりゃあそうだよ。オリジナルを超えられるわけがないんだ。アキが『接待』なんて言葉を知っているわけがないから手を抜くわけはないし、第一、わざと手を抜かれたところで彼らも良い気持ちはしないだろう。ていうか、そもそも手を抜く必要なんてどこにもないわけだし。


 結局、結果は覆ることはなく、圧倒的大差でB、つまりORANGE RODが勝利した。


 確かに上手かった。天才の名に恥じぬギターだった。ギターの音はほぼ同じであったし、晶にしても余計なアレンジは加えていない。ということは、まったく同じ演奏と言っても差し支えないだろう。そうなると最後は、まったく同じ音には出来ないヴォーカルで勝負となる。


 ORANGE RODのというの曲はすべてが章灯のために作られている。晶が惚れ込んでいるその声のためだけに。ならば、どんなに上手に歌えたとしても章灯の声を持たない者に勝ち目はない。


 スタジオ内は一瞬で通夜状態である。


 せめて僅差であったなら、かける言葉もあっただろう。しかし、こんなに水をあけられては……。まして、彼らはどこぞの大御所でもあるかのように大威張りで登場したのに、だ。


「……すっごく上手でしたよね? 山海やまみさん!」


 取り成すように明花さやかが笑顔を向ける。


「いや、ほんと、とても高校生とは思えない迫力でした!」


 こんな時、一体どんな言葉をかければ良いんだ。

 いくら数々の修羅場をくぐって来たとは言っても、こんな『自分達に挑んできた一回り以上も年下の人間を、しかもそれが彼らの最も得意とする分野であるにも関わらず完膚なきまでに叩きつぶし』てしまったのは、今回が初めてである。


 微妙な空気になりかけたところで楓が声を張り上げた。


「そうなんです! とても高校生とは思えないですよね? しかも、MoGのメンバーがギターを始めたのは、何と、去年なんですよ! そうですよね?」


 その言葉にスタジオがどよめく。驚いていないのは章灯も含め、ORANGE RODの面々のみである。もちろん章灯は表面上、驚いた素振りをしたが。


 その程度なら、ここにもいる。むしろ、天才の癖に1年もかかったのかよ、というのが本当のところであった。


 『うえま』と『健人』は大人達の反応に気を取り直し、照れたように笑った。その表情はまだあどけなさが残る高校生らしく、実に爽やかである。しかし、『リンコー』だけはまだ態度を崩さなかった。



「お疲れさまでした、皆さん!」


 CMに入り、明花が席を立って頭を下げた。


「無理を言って本当に申し訳ありませんでした!」

「いーって、いーって、明花ちゃんが頭を下げることじゃねぇよ」

「そうそう。むしろ、下げんのはあっちだろ」


 長田おさだ湖上こがみはニヤリと笑って大慌てで走って来た小太りのプロデューサーを指差した。


「そうそう、プロデューサーですがな」


 竹田はへらへらと笑いながら悪びれた様子もなく横やりを入れて来た。それを章灯がもの言いたげな目でじっと見つめる。睨むでもない、凄むでもない、ただ、その目に言いたいことのすべてを乗せて、じぃっと。


「わ……悪かったて……。そんな見つめんといてや、山海はん……。堪忍やて……」

「そろそろ学習してくださいよ、竹田さん。僕はともかく、アキは巻き込まないでください」


 ため息まじりでそう言うと、竹田は性懲りもなくへらへらと笑った。


「だって、皆さんお揃いやし、そんなごっつイカした恰好してはったら、OKなんやと思うやないですかぁ」


 ダメだコイツ……。


 そう思いながらも、晶の私服姿を『ごっつイカした恰好』と評されるのは決して悪い気はしない。

 何だかんだとやらかしているにも関わらず未だこの番組に出られるだけあって、竹田は丸め込むのが抜群に上手かったのである。

 

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