♪107 部屋に一人
「今回の衣装もまたなかなか派手だな」
着替え終えて姿見に全身を映す。
アキの方はいつもシンプルなのに、どうして俺の方はこんなにも派手なのか……。まぁ、別に嫌いじゃないけど。
飲み物買って来るって言ってたけど、アイツどこまで行ったんだ。
時計を見るとまだ時間に余裕はあったが、念のため電話をかけてみる。
ヴヴヴ……、ヴヴヴ……というバイブレーションの音が聞こえ、その音のする方を見ると、備え付けのテーブルの上で小さく振動している晶のスマートフォンがあった。
「アイツ……!」
苦笑しながら学理と肩を落とす。こういうところが本当に晶らしい。
携帯を手に持ったまま、ドアの方へ向かう。少しだけ開けて顔だけ出し、廊下にいないだろうかと見回した。
「いないか……」
自販機は何階にあるんだったか。まさか外のコンビニまでは行ってないよな?
鍵は一つしかないので下手に探しに行って行き違いになったら大変だ。章灯は部屋の中に入った。
ベッドで横になりたいが衣装にシワがついてしまうので我慢する。晶が戻って来るまでイベントで歌う曲の歌詞を確認することにした。
今日のイベントは昨日発売したシングルの販売促進で、トークとミニライブを行った後はそのままサイン会に突入する。デビュー直後、サインを書いてくださいと言われて、馬鹿正直に『
新曲の『Up To Me!』は『歌う! 応援団!』2期のオープニングテーマである。このアニメは1期のオープニングで2曲担当させてもらい、反響が良かったので、そのまま2期も依頼が来た。このアニメで一気に知名度が上がったようなものなので、本当に晶サマサマである。
歌詞を目で追うだけのはずが、無意識にメロディーに乗せてしまう。今回のもまた高校を舞台にしているだけあって爽やかな曲だ。カップリングの2曲はそれに反して重めのロックナンバーと物悲しいバラードという構成で、歌詞の方も我ながらよくぞ頑張ったと思える1枚に仕上がった。
ただ、イベントでは2人のみのため、披露するのは『Up To Me!』とバラードの『
「喉の調子、良いですね」
急に聞こえた晶の声に驚く。
どうしてそんなこっそり入ってきたんだ。忍者か、お前は!
晶はコンビニの小さな袋を手に提げていた。
「何だ、わざわざコンビニまで行ったのかよ」
「近くでしたし、それに、これが売ってないんで」
そう言うと、袋の中から栄養ドリンクを取り出す。
「章灯さんの分もあります」
差し出されたドリンクを受け取って、蓋をひねる。
「これを飲むってことは、お前相当疲れてるな?」
「まだ疲れてませんが、今日はサイン会まであるというので……」
晶はふぅ、と勢いよく息を吐いてからドリンク剤を一気に飲み干した。
「……俺も気合入れるか」
そんなに広い店でもないし、そこまで大変じゃないと思うんだけど。そう思いつつも章灯は目を瞑ってドリンク剤を呷った。
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