冬恋


「由紀~。寒くなってきたから早く帰ろ~」

 友達が首をすくめて急かしてくる。


 季節は冬。空は雲で覆われ、風が冷たくて痛い。由紀は友達と下駄箱を抜け校門に向かって歩いていた。


「今日は特に寒いね」


「ホントだよ。明日からは雪かもって言ってたし、もう冬眠したい」

 目からは光が失われ死んだ目で友達はうつむいた。


「雪?!やったー!」

 由紀は楽しそうに喜ぶ。


「何でそんなに嬉しそうなのよ」

 友達が意味が分からないという顔をしながら由紀を見る。


「だって、雪好きなんだもん」

 フフフ....と由紀の口元が緩む。



         ♪


 ある年の冬。由紀はまだ小学生だった。


「おい。皆知ってるかー雪って空の汚いモノが固まって落ちてくるんだってよー」

 ある一人の少年が教室に響く声で皆に伝えた。

 

 周りは口々に「へー」と呟き、知らなかった顔をしていた。


「だから由紀って雪みたいにきたねーんだ!」

 少年が由紀を笑いながら指を差した


 少年の一言から由紀はクラスでからかわれた。自分の名を、冬の時期は毎日のように「雪ってきたねーんだぜ」と声が聞こえるほどに言われた。


「私が考えたんじゃないもん....」

 由紀は帰り道うつむいて歩いた。その目は少し潤んでいる。


「俺は可愛いと思うぞ?」

 後ろから男の子が声をかけた。


「え....?」

 由紀は立ち止まり振り返った。


 由紀の後ろに居る少年も立ち止まる。


「俺は『ゆき』って名前可愛いと思うよ」

 

「どこがよ。皆バカにする。汚い固まりだって」


「じゃあ、何で皆雪が降ると喜ぶんだよ。雪が降ったら積もれって願って、積もったら何で皆雪で遊ぶんだよ。俺なら汚いと分かったら触らないよ」


 由紀は少年の言葉にビックリして声が出ない。


「俺は雪好きだよ。綺麗だし皆雪で遊んだりするから。だから、雪って名前は可愛いと思うよ!」

 少年は途中から顔が赤くなり、話終えると走って帰ってしまった。


 その場に立つ由紀。少年が走っていった方をずっと眺めていた。


「私も真っ赤なのかな。スゴく顔が熱い」

 由紀は自分の頬を触って呟いた。


         ♪


 そして現在。由紀は高校二年の冬。


「私、雪好きなんだよね」

 由紀は空を見上げて友達に話す。


「由紀は子どもだなぁ」

 友達が笑った。


「たぶん、あの時に好きになったんだと思う。寒さなんて忘れるほどに赤くなったあの時に」


「えーなにそれ」

 

 由紀と友達は冷たい空気の中を歩いて下校した。


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