第174話「打倒!魔王な、安心安全攻略の道」
ザーリダーリ火山での用事を済ませた俺たちは、数日中に次の目的地へ向けて出発するつもりである。
というわけで試練クリアの翌日、俺とテオは昼過ぎからニルルク魔導具工房の応接間を借り切って、出発前の作戦会議をおこなうことにした。
現状の資料と地図とをテーブルの上に広げてから、まずは俺が口火を切る。
「……さて、作戦会議だが。諸々の状況をふまえると、そろそろ俺たちは“打倒!魔王”を視野に入れ、具体的な道を絞り始めてもいい頃合いだと思うんだ」
「お? タクトってば珍しく勇者っぽいこと言ってんじゃん!」
淹れたばかりの紅茶を片手に、テオは素で意外そうな顔をした。
「まぁこれでも一応勇者だからな……テオも知っての通り、俺たちは旅の中で着実に強くなってきたし、スキルやアイテムをはじめ使える手札も充実してきただろ。この段階で最終的な展望を見据えることで、今後の計画をより具体的に、より効率よく進められるはずなんだ」
「最終的な展望って?」
「えっと……例えば『魔王城に乗り込むパーティに誰を加えるか』とか『魔王戦ではどんな装備や魔術やスキルを使って、どんな戦法で戦うか』とかだな。このあたりを事前に決めておけば、よく使う魔術やスキルを集中して鍛えたり、メンバーに合わせた連携攻撃を試したりできるだろ?」
「なーるほど。必要な装備や消費アイテムを揃えたりってのも、メンバーや戦法が決まるとやりやすくなるよねー。確かに大事かも!」
うんうんうなずくテオ。
どうやら重要性は分かってもらえたらしい。
ゲーム『
キャラの育成状況、使用する装備・スキル・魔術・アイテムなどを変えていけば、戦法のバリエーションだって自由自在。プレイヤーの数だけ、周回の数だけ、戦い方があると言ってもいい。
正直なところ俺のゲーム知識を総動員しさえすれば、仲間候補には割と心当たりがあるし、とっくに有力者のリストアップは終えている。
だけど最初から決め打ちすると「じゃあどうして彼らを知ったのか」という知識の出所をテオに説明するのが大変そうなんだよな……ってことで、少し様子を見ながら、“偶然”とか“神のお告げ”とかの口実を駆使しながら仲間を増やしていくのがベストな気がする。今回の作戦会議はそういう動きの布石程度になれば十分だろう。
「となるとメンバーはまず俺とタクトが確定で……あ! ダガルガも確定だねっ!」
「ああ。ダガルガさんは戦闘経験も豊富だし、間違いなく心強い仲間だよ」
エイバスの街の現ギルドマスターであるダガルガ。
俺はダンジョン『
ゲームの彼は、他のユニークスキル持ちな強キャラにこそ埋もれるものの、決して弱いわけじゃない。ちゃんと装備を整え育成しさえすれば、魔王戦でも
冒険者としても大ベテランで、ギルドマスターとしての人脈もあり、各地に顔がきくらしい。とはいえ交渉とかは苦手らしいが……まぁあれだけ迫力があれば、横に立っててもらえるだけで心強いよな!
さらにダガルガはかつてのテオのパーティメンバーでもある。10年も共に旅をしていたという彼らなら、戦いにおける連携だってお手のもの。
そんな強力で信頼できる戦士なダガルガが「色々片付いたら俺も加勢する」と申し出てくれたのだ。断る理由はないだろう。
ただしエイバスのギルドマスターとしてのダンジョン浄化の後片付け――本人いわく様々な調査だの調整だの通常業務だの――がなかなかに大変らしく、合流はもう少し先になりそうだが。
「それと安全かつ確実に戦いを進めるなら、やっぱり専任の
この世界の回復魔術というのは、ゲームと違って相当専門性が高い。
回復魔術は、使用時に非常に詳細なイメージをしなければ成功できないため、人体についての知識が無いと大怪我などは回復できないのだ。
色々と調べたのだが「日本でいうところの医者クラスの知識」がないと
「あ~……俺とタクトとダガルガだけだと、誰もまともに回復魔術を使えないもんね。ダガルガなんて魔術適正すらゼロだし!」
ただし物理は最強だけどな!
「まぁとにかくアイテムで回復するにも限界はあるし、大量に
「う~ん、どうかなぁ……けっこう昔に
ちょっと寂しそうな表情を見せたテオ。
だがすぐにいつものニコニコ笑顔へ戻ったかと思うと、お気に入りのナッツ入りチョコをぽいっと口に放り込んだ。
俺はそれ以上、何も聞かないことにした。
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考慮すべき点は、パーティメンバーだけじゃない。
あれもこれもと言い出せばきりがないけど、話し合った結果、俺たち2人については最低これぐらいはやっておきたいところ、という結論になった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
●【光魔術】【剣術】【火魔術】強化(俺)
●生産系スキル強化、必要アイテム生産、材料調達(俺)
●各種魔術&【
●強力装備の調達(2人とも)
●LVアップ(2人とも)
●その他スキルの鍛錬(2人とも)
●必要な情報収集(随時)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
まず魔王戦の攻撃の要となる、俺の【光魔術】と【剣術】の強化は必須。
攻略サイトのレシピで作ってみたいアイテムも大量にあるし、俺の生産系スキル強化&必要アイテム生産も外せない。生産のための材料も全然足りてないから、色々採集しにいく必要がある。
さらにテオは魔王戦で戦うにあたり、どう考えても「魔術メインのサポート要員」が適任だ。ここまで臨機応変に多種多様な手数を出せるヤツもなかなかいないし、強みを最大限に活かすなら、必然的にそのポジションになる。
そのための能力底上げとして、まずは各種魔術と【
そして2人とも、魔王に挑むには圧倒的に戦力不足。ということで能力を底上げするために、強力装備の調達と、LVアップでの基礎能力値上昇も不可欠だな!
「……なぁタクト、大事なこと忘れてるぞ?」
ひと段落ついたところで、テオが首を傾げた。
「ん? あと何かあったか?」
「決まってんじゃん、
「何言ってんだよ、受けるわけないだろ」
「へ? なんで?! 試練を全部突破して、精霊王の
信じられないと言わんばかりに目を見開くテオ。
俺は溜息交じりに口を開いた。
「あのな、そもそも魔王ってのは、勇者の
「ええっそーなの?!」
「闇の魔王に効くのはあくまで光の魔力だからな……別に剣じゃなくても【光魔術】を使えば十分なのさ」
なんたって俺はゲームで100回も魔王を倒してきた。
その100回とも使った攻撃は原則【光魔術】のみ……そもそもゲームでは『勇者の
しかもゲームでは、火の試練だけがやたら難易度が低くて、それ以外の3属性の試練は恐ろしく難しい。ノーデスでの試練突破はほぼほぼ無理だ。
そういうわけで
テオはさらに食い下がってきた。
「で、でもっ“封印された真の力”とか絶対カッコいいやつだよ?! せっかくなら全部の証を集めて力を解放したいじゃん! ってか勇者ならちゃんと解放しろ!!」
「やだよ! 1番簡単なはずの『火の試練』があんなに難しかったんだぞ! 今の俺が他の属性の試練なんか受けたら確実に死ぬ! 絶対死ぬ! だからやだッッ!!」
「うぅ~……」
何とか押し切ったことで、ようやくテオを説得できたようだ。
本人は“納得できない”と言いたげな表情だけど、まぁしょうがない。
とはいえ、もし謎の少女リィルの話――
でも俺はまだ彼女の話を信じ切れてはいないし、例え死なないとしても、先陣切って危ない行動を取れるほどの勇気はないって……。
……これは現実だ。
ゲームみたいに気軽に試せるわけがないだろ。
それと“俺が死なないかも”ってのをテオに共有したら最後な気がする。
もしテオの耳に入ってしまえば「タクトのために!」とか暴走して、『
――なるべく安全第一に、この世界を楽しむ!
俺にとって絶対に譲ることのできない方針は、旅立ちの日から依然として変わらないのである。
――――――――――――――――
<お知らせ 2023/02/09>
次話より「新たな目的地」へと向け旅立つ彼らを描くにあたり準備期間を設けたい関係で、次話更新日が少し先になります。再開日未定ですが、そのうちふらっと連載再開するかと。もしよろしければブックマーク登録のうえ、気長にお待ちいただけますと幸いです。
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鳴海なのか https://twitter.com/nano73
ブレイブリバース!~会社員3年目なゲーマー勇者、器用貧乏系な吟遊詩人。男2人で気ままに世界を救う旅。 鳴海なのか @nano73
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