第157話「勇者のお仲間、選抜します(5)」

 ザーリダーリ火山ふもとの宿場町にて、勇者に無断で『勇者同行者選抜大会』が開催されようとしていた。


 俺とテオは大会を中止させた上で、参加を希望している冒険者の暴動を防ぐべく、大会を運営するギルドマスターのビエゴや町長らと接触。多少の行き違いはあったものの、町民代表者たちは大会中止希望を受け入れてくれた。


 しかし、いざ中止に伴う具体的な対策を話し合おうとしたところ、いきなりテオが“真逆の内容”を提案。一同は首を傾げたのであった。





「……おいテオ、『大会を開く』ってどういうことだよ? 今はどう見たって『大会中止の方向性で何とかしていこう!』って一致団結して話し合う感じの空気だったよな?」

「そうだけどさー。よくよく考えてみたら、この際、大会開いちゃったほうが手っ取り早く解決できるかなって♪」


 頭を抱えつつ俺がたずねる。

 テオは自信たっぷりに答えた。



「何を言うか。あの勇者様が選抜大会中止を希望しておる……そう伝えてきたのは他でもないお主らだろう」

「そうじゃそうじゃ! 全く意味が分からんじゃろ!」


 真っ先に食いついたのはビエゴと町長。

 他の町民たちもざわついている。



「もうちょっと詳しく説明してもらえるか? たぶんテオのことだから、何か考えがあって提案してるんだろ?」


 俺の問いかけに、テオは「当然っ★」とウインクしてから言葉を続ける。


「1番の問題は『優勝特典を用意できなくなった』ってことなんだよね?」

「まぁそうだな……」



 今回の大会には、相当な数の冒険者が揃っている。そもそも冒険者ってのは戦闘力が高い者が大多数である現状をふまえると、この人数の中から勝ち残る優勝者は「相当な実力者」となることだけは確かだ。


 だけど勇者は、“確実に信頼できる奴”以外をパーティに加えるつもりは断じてない。

 大会参加を希望する冒険者たちの騒ぎっぷりを見てると、あいつらと仲良くやっていける気がしないんだよなぁ。


 この点に関しては昨日までにさんざん一緒に話し合ったこともあり、テオだって俺の希望は分かっているはずだ。



「……今回の大会優勝者への特典は“勇者パーティへの加入権”だったわけだけど、勇者は優勝者をパーティに加入させるつもりはないから優勝特典を用意できない。そういう意味では間違ってはないと思う……そうですよねビエゴさん?」

「ああ、大会の準備は滞りなく進んでおった。後は優勝特典さえあれば、すぐにでも大会を開催できる状態である」


 戸惑いつつも、俺の言葉にうなずくビエゴ。

 一斉に騒ぎ始める町長はじめ町民たち。


「そこまで理解しておるなら、開催不可能だと分かるじゃろ!」

「勇者同行権は大会における最大の目玉なんだ! 特典を用意できないのに大会を開こうもんなら、それこそ参加者の不満が爆発するだろうに――」

「む? まさか大会の優勝特典を変えるということか?」

「ありえんよ。町に集まる冒険者共の士気は『勇者様のパーティに入ることで自分も生きる伝説になれる』というただ1点のみで保たれておる。俺らにそんな凄い特典を用意できると思うか?」

「無理に決まっとるなァ……」



 不安そうな町民たちをなだめるように、笑顔のテオが口を開く。


「だいじょぶだいじょぶ、優勝特典は変更なしでOKだぜ!」

「っていってもこの状況じゃ用意できないぞ」

「関係ないさ! だってに優勝させちゃえばいいんだから!」


 鼻高々に胸を張るテオ。



 一同の目からが落ちる音がした。



「な、なるほどのう!」

「優勝者が我らの意図を組んでくれる者であれば、敗北者たちは文句を言えなくなるという寸法かッ!」

「各種調整は必要だが、その手なら確かにほぼ解決できるな」

「こりゃ1本とられたわい!」

「でもそもそも勇者様は大会の中止を希望しておられるのでは? 開催してよいのじゃろうか?」


「それはだいじょぶだと思う! 勇者様は『優勝者を連れていくことはできない』ってのが最大の希望で、大会休止については希望の中でもおまけっぽい感じだったから……、タクト?」

「まぁ、そうだな……」



 勇者としてはパーティメンバーの意図せぬ加入さえ防いでくれれば、大会自体に対する注文は特にない。


 まぁここで「勇者の名を勝手に使って大会を開くとは許せん!」とか言おうと思えば言えるんだろうけど、そこまで勇者のネームバリューに対するこだわりを持ってるわけじゃないからなぁ……面倒ごとにならなきゃそれでいいよ。




「ならばテオ殿の提案通り、大会は予定通り開催するとの事で良いだろうか?」


「おう!」

「異議なし」

「俺もだッ!」


 ビエゴの問いかけに全員一致で賛成が集まる。

 町民たちは打って変わって安堵の空気に包まれたのだった。







「……待てよ」


 ここで俺は気づいてしまった。

 計画のに……。






 恐る恐ると俺はたずねる。


「ところで皆さん、その『優勝してくれる』にってありますかね?」




「「「……あ」」」


 フリーズする一同。

 辺りは再び重苦しい空気に支配されたのであった。

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