第145話「山頂に巣食う、焔岩鳥(1)」


 ダンジョンと化したザーリダーリ火山に足を踏み入れた俺とテオとムトト。

 まず中腹のニルルク村の魔導具工房を訪れ、工房長のネグントはじめニルルク村に残る村民達の協力を取り付けることができた。この日は夕食後に全員で情報交換しつつ作戦会議を行い、早めに就寝。


 そして翌日の早朝。万全に体調を整えた俺達は、ダンジョンボスを討伐すべく、火山の山頂を目指して出発したのだった。






 ゲームと同様、ニルルク村から山頂へと向かう登山道には、強力な魔物が少なからず出現したのだが……今の俺達の敵ではなかった。

 特に「火山の現況を最もよく知っているから」との理由で先導を買って出た、熊と猪の大型獣人コンビの猛攻がすごくてさ!


「そいヤッ!」

「逃がすものカッ、おラッ!!」


 彼らの得意技はムトトと同じく、各々の愛用武器による物理攻撃と、強力な【火魔術】による魔術攻撃だ。魔物を見つけるたびに息の合った激しいコンビネーションで先制攻撃を仕掛けては、こちらが有利な陣形フォーメーションを強制的に作り上げていく。

 だから後続の俺とテオとムトトが仕掛ける頃には、あまり考えることなく単純に攻撃をぶつけるだけでOKだった。


 どんな敵が現れても怯むことなく安定した戦況を実現する姿を見るに、彼らはこの辺りの地理に加え、現在の周辺の出現魔物を高精度に把握していると断言できる。




「わぁお、やるねぇ~♪」


 昨日の道中は神妙な顔で周囲を警戒していたはずのテオも、今日はすっかりリラックスムード一色で最後尾を歩いている。

 ま、それだけ俺達が戦力アップしたってことなんだろうな。





「それにしても、ニルルク村の皆さんって何でこんなに強いんだ?」


 十数回目の戦闘がひと段落したところで俺がつぶやく。

 間髪入れずに振り返ったのは、俺の前を歩くネグントだった。


「当然ダ。我らハなのだからナ」

「いやでも、あのお2人もムトトさんも魔導具職人のはずですよね? 魔導具を作るのが本職で、戦闘は専門じゃないのでは?」

いナ、我らは戦士でもあル。戦士が強いのは当然だろウガ」


「……へ?」

「全く……何故お前はすぐ斯様かように間抜け面を晒すのダ……はァ」


 俺がきょとんとすると、ネグントが深い溜息をついた。



「そんな事を言われましても……だって皆さん魔導具職人ですよね? いきなり戦士って言われても意味が分からないですって」

「確かに魔導具生産においテ、我らの右に出ル者はおるまいナ。だガ魔導具なんぞハ手段に過ぎヌ……むしロ、我らニルルクの民の本質は、こノ火山の守護だト言えヨウ」



 あっ、そういえばネグントは昨日「ニルルクの使命は火山噴火の制御」的なことを言ってたな。

 究極魔導炉アルティマストーブもそのための魔導具だって話だったし……。



「……もしかしてニルルクの皆さんは代々、火山が噴火しないよう守るために、戦闘技術や魔導具生産技術を磨いてきたってことですか?」

「うム。噴火制御のみなラ魔導具のみで実現可能だガ、現実はそウ上手く事は運ばヌ。魔導具生産には素材が必須であリ、そのためにハ凶悪な魔物を倒さねばならヌ。また悪しき者から究極魔導炉アルティマストーブを守護するにモ、戦闘力が要求されルからナ……だからこそ我らニルルクの民は幼き頃よリ魔導具や魔物についテ深く学ぶのダ」


「ムトトさんが『昔、冒険者として修業していた』ってのもそういう事情でしょうか?」

「あア。我が村ではムトトのみならず、職人の半数以上は、冒険者として戦闘経験および素材採集経験を積んでおル。無論、僕も例外では無いガ」

「えっ?! ネグントさんも冒険者だったんですか?」

「2年程と少々短めだがナ」


「じゃ、じゃあもしかしてネグントさんも戦えるってことですか?」

「馬鹿にするナ。当然だロ」

「いやだってネグントさん、昨日の作戦会議でそんな事言ってなかったですよね?」

「誰にも聞かれなかったからナ。そもそモ仮にお前が『事前に把握しておきたイ』と考えるなラ、自ら質問すれば良いではないカ。昨夜の会議中に幾らでモ機会は存在したはずデ、単にお前の落ち度だロ」

「うっ……」



 ネグントの言うことには一理ある。

 彼とは昨日が一応“初対面”だったわけだし。


 ゲームにおけるネグントは「生産スキルを教えてくれるNPC」として有名だが、俺が知る限りパーティの仲間に加える方法は発見されていない。そういう意味でも確認しておくべきだったと言えるわけだが……。



「……で、でもネグントさんはさっきから俺達にばっかり戦闘を任せて見てるだけですし! 戦えるんだったらちょっとぐらい手伝ってくれても良くないですか?」

「僕が出るまでもなく、お前らだけで十分倒せる雑魚魔物ばかりだったからナ。現に怪我人は誰もおらヌだロ?」

「そりゃそうですけど……」



 確かに昨日――俺とテオとムトトの3人行動だった――と比べて、今日の戦闘は安定感と安心感が段違いだったし、ネグントが加わらなくても何とかなってはいた。

 別に「1人だけサボってずるい!」とかそういう子供じみた文句を言いたいわけじゃないけど……何となく、釈然としない。



「……まア。僕の出番も、そノうち来るさ」


 とネグントは涼しい顔で笑い、強制的に会話を終わらせたのだった。

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