第116話「耐性スキルと、毒鼬の穴蔵(5)」


 街道沿い最初の宿場町に泊まった翌朝、俺とテオは『毒鼬どくいたち穴蔵あなぐら』へ到着した。


 穴蔵に潜り始めて数分経過した頃。

 ようやく俺達は、1体目の魔物ターゲットを発見したのだった。




「……普通の毒イタチだねー」


 岩陰から素早く【鑑定】を使ったテオが、小声で言った。



「LV24……この穴蔵だと標準ぐらいの強さか……」


 俺も同じく毒イタチのステータスを眺めながらつぶやく。


 鼻先がとがった小さな顔の上には、丸い耳がちょこんと2つ付いている。

 細長い胴体に短い手足、そして胴体と同じぐらいの長さのフサッとした尻尾。

 尻尾を別にして体長は30cmほどと、魔物としては小柄なほうだろう。 

 壁際に何かあるのか、うつむいて匂いを嗅いでいるようにも見える。





「1体目ってことで、俺がサクッと片付けちゃっていいんだよな?」

「ああ、頼む」


 毒イタチは、非常に癖のある行動を取ることで有名な魔物だ。

 よってまずは様子見も兼ね、1体目は「毒イタチなら楽勝だぜっ!」というテオが倒し、俺は見学に徹することにしようと決めていたのだ。



「んじゃ、すぐ終わるから見逃すなよ…………氷凍結フリーズ!」

 

 押し殺した声のまま、テオが【水魔術】を発動。



――カキィッ!



 瞬間、毒イタチは厚い氷に包まれ動きを止めた。

 テオは続けざまに短く指示を出す。


「……CRUSH!」



――パリィーーンッ



 砕け散る氷の塊。

 同時に毒イタチも、キラキラ輝く粒子へ姿を変え消滅した。




 テオは「よーしっ」と満足げに小さく笑ってから、先程まで魔物がいた地点へと近づき、ドロップ品を拾い上げて俺に手渡す。


「はい、これが『毒紅菊どくべにぎく』だよっ」

「サンキュー」



 受け取った実は直径2cmほどで、ぶ厚く硬い殻に覆われていた。

 ゲームの『毒紅菊の実』は、どす黒い赤色をしていたな。今はスキル【暗視】の効果で視界がモノクロになってしまってるから、色の確認はできないけど。



「あ、この状態なら直接触ってもだいじょぶだけど、中身が猛毒だから、下手に殻を割っちゃわないよう気を付けてね?」

「分かった、注意するよ」


 テオの助言にうなずいた俺は、【収納アイテムボックス】に実を放り込んでおく。


 ゲームでもこの実には猛毒があるという設定だった。

 毒成分を利用し毒薬を作ったり、逆に解毒薬の材料にしたりと使い道は様々だ。



「でさタクト、さっきの毒イタチ戦はどうだった?」

「【水魔術】さえ使えれば、本当に楽に倒せるんだな。聞いてた通りだった」

「まぁ同時に何体も出現した時はもうちょい工夫が必要だけど……それでもうまく時間差で凍らせちゃえば楽勝だと思うぜっ」

「確かに、テオなら余裕で倒せそうだな……」



 火の魔力で構成された体を持つ毒イタチは、水の魔力に非常に弱い。

 またHPが低いこともあって、テオが放ったスキルLV1の氷凍結フリーズ――対象を氷で覆い、凍り付かせる術式――だけで十分に倒せた。


 だがこれはあくまで【使の話。


 今の俺には真似できない倒し方なのだ。






 1戦目を終えた俺達は、再び穴蔵の中を歩き出していく。

 程なくして、展開する【気配察知】に次の魔物が引っかかった。


「……50m先、魔物が3体か」

「ま、毒イタチで十中八九間違いないと思うぜっ」

「ああ、おそらくな……」



 ゲームにおいてこの穴蔵に出現する魔物は『毒イタチ』のみ。

 確認したところ、それは現実世界でも同様らしい。



「予定通り、今度はタクトが1人で突っ込むってことでOK?」

「おう。例のスキルを習得したらすぐに知らせるから、その時は頼むぞ!」

「まかせとけっ」


 テオはニヤッと笑った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る