第75話「フルーユ湖と、ヒュージスライム(2)」


 人々が寝静まった深夜。

 ナディと、彼女の護衛としてジェラルドとイザベルを別荘に残し、俺・テオ・ネレディは霧に包まれたフルーユ湖の島へと再度向かった。

 そして島の中の草原を調べたところ、突如強烈な風の渦が巻き起こり、地面の下から大きなスライムが現れたのだ。



 草原には直径5mほどの穴が開き、先程までそこに埋まっていたと思われるスライムは、禍々まがまがしい黒紫色の闇魔力のオーラに包まれ、不気味にグネグネと動きながら浮いていた。



 変身が終わったらしいスライムへ、俺とテオは素早くスキル【鑑定】をかける。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・

名前 ヒュージスライム

種族 スライム

称号 臆病者:ひたすら戦いを避け、逃げ続ける者に与えられる

   スライムの一族:種族がスライムである者

   水の魔物:肉体が水属性の魔力で構成される者

   魔王のしもべ:肉体が完全に闇魔力で覆われている者

状態 【魔王の援護LV5★】発動中

LV 27


 ■基本能力■

HP/最大HP 1778/234+2100

MP/最大MP 2106/ 76+3950

物理攻撃  82+136

物理防御 208+210

魔術攻撃  14+274

魔術防御   5+210


 ■スキル■

<称号『臆病者』にて解放>

隠密おんみつLV4:半径6mの気配を消せる

<称号『スライムの一族』解放スキル>

合体LV5★:核を除き、体の一部を切り離されても再び融合できる

<称号『水の魔物』にて解放>

水特性LV1:自身の全ての攻撃が水属性攻撃になる

       土属性攻撃で受けるダメージ増加

       火属性攻撃で受けるダメージ軽減

<称号『魔王のしもべ』にて解放>

魔誕の闇LV5★:周辺の魔力を増幅し、攻撃的な魔物を生み出しやすくする

魔王の援護LV5★:特定の条件下で、魔王の援護により強化される


 ■装備■

なし

・・・・・・・・・・・・・・・・・・




 小鬼こおに洞穴ほらあなやゲームでの経験をふまえると、おそらく風が巻き起こっていた間はスキル【魔王の援護LV5★】を発動中だったのだろう。


 ゲームにおいて【魔王の援護LV5★】は、特定の条件下――勇者が討伐パーティーにいること――で、魔王の援護を受けて強化されるスキルだ。その際『援護対象の魔物の能力数値』に『その時の魔王の能力数値の10%』が加算される。

 なお魔王の強さは『魔王自身の現在LV』によって確定し、そのLVは『勇者の現在LV』と等しくなる。



 前回小鬼の洞穴で【魔王の援護LV5★】を持つボス魔物・ゴブリンリーダーと戦った際、予想以上に大幅強化――ゲーム上のの強化数値――された魔物達に、俺達は動揺した。


 なぜゲームよりも大幅強化されていたかは分からない。

 ただ、その時点でLV11だった勇者の俺も、『ゲームのLV11勇者の能力数値』のの能力数値を持っていたことから、おそらく何かしらの関連があるのだろうと。



 その予想が正しければ、ヒュージスライムが【魔王の援護LV5★】で強化された場合の数値も、事前に見当をつけることが可能――ボス能力の強化値はゲームの約2倍――となる。

 もし仮にヒュージスライムの攻撃力&防御力の強化数値が想定外に高かった場合、いったん戦わずに逃げて対策を練ればよい。


 事前に俺達が話し合った際、このような結論に落ち着いた。





「数値はほぼ予想通り……これなら何とか倒せそうだ」


 鑑定を終えた俺がつぶやく。

 同じく鑑定結果を確認したテオも「だな!」とうなずく。




「じゃあネレディさん、テオ、作戦通りお願いします!」


 俺が剣を抜きながら指示を出すと同時に、ようやく戦闘準備を終えたヒュージスライムがゆっくり穴の横の地面に着地。

 そして間髪入れず、俺達へと体当たりで勢いよく襲い掛かってきた。



――ぼよっ!



 体長4mほどと大きいのに、素早さはかなり高い。


 俺達がサッと分散するように避けたため、ヒュージスライムは草原にぶつかって跳ねてから着地。

 その着地地点めがけ、一同は3方向から時間差で斬りかかっていく。



 まずはネレディがハルバードで派手にビュンとぎ、スライムがかわした瞬間に背後から俺とテオが片手剣でスライムの体の一部を切り離し、切り離した体を【収納アイテムボックス】や魔法鞄マジカルバッグで回収。


 普通に斬りかかっても素早さが高く物理攻撃を当てづらいため、スラニ湿原での戦いと似たような立ち回りで攻めることにしたのだ。



 特に長く重い両手持ちのハルバード――先端が鋭く尖った槍に、斧刃と鉤爪ピックを取り付けた武器――を使ったネレディのフェイントのかけ方は見事だった。

 ハルバードの重さを上手く活かしながら、まるで華麗に舞うかのように突いたりいだり、振り回したり。


 1人で絶え間なく様々な種類の攻撃を繰り出すネレディの猛攻に、スライムは避けるだけで精一杯のようであった。

 その隙に俺達は、とにかく『ヒュージスライムの欠片かけら』を回収しまくる。



 

 ヒュージスライムの体の一部を切り離し、【収納アイテムボックス】などへ収納する事で入手可能な『ヒュージスライムの欠片かけら』は、ゲームで発見された中では最も魔力伝導率が高い素材としてプレイヤー達に知られていた。


 そして俺がこれから作りたいアイテムの制作に欠かせない素材のため、ヒュージスライムの欠片かけら入手も今回の討伐目的の1つでもある。





**************************************





 しばらく攻撃を繰り返し、ふた回りほどヒュージスライムのサイズが小さくなったところで、魔術メインの攻撃に切り替えた。



 切り替えた理由の1つは、ヒュージスライムの欠片かけらの必要量が十分に回収できたから。

 もう1つは、これ以上欲張って欠片かけらを回収してしまうと、肉体が小さくなるのに伴ってスライムの素早さが上がり、攻撃がどんどん当たりにくくなることから、倒しづらくなってしまうという理由からだ。



 武器を剣から鞭に持ち替えたテオも、ネレディと共にフェイントがけに加わり、俺はひたすら閃光爆裂フラッシュバースト――それぞれの属性魔力を強く圧縮して具現化し、特定の対象や空間で爆発させてダメージを与える術式・爆裂バースト系の【光魔術】 ――を発動しては、逃げ惑うヒュージスライムへとぶつけていく。


 鍛錬を続けた結果、小鬼の洞穴のボス戦の頃よりも、LVアップで魔術攻撃力が上昇したり、スキルLVが上昇したりしたことで、俺の【光魔術】の威力は何倍も上がっている。

 それにそもそもスライムは魔術に極端に弱い魔物ということもあり、10回ほど閃光爆裂フラッシュバーストをぶつけたあたりで、ヒュージスライムを包み込む闇魔力のオーラは極々薄いものとなっていた。




まばゆき光達よ。集え、そしてぜよ、力の限り。閃光爆裂フラッシュバーストッ!」



 まだまだ余力たっぷりな俺が魔術で光の球を発動し、そしてヒュージスライムへと投げてぶつける。



――ビカァーッ!!



 ぶつかった途端に光球が弾け、ヒュージスライムが光に包まれた。

 眩しさから守るため、腕で軽く目をガードする俺達。




 そして光が消えた瞬間。



「あ……霧が……!」


 ガードを解除したネレディが、うわずった声を出す。

 光と共に、周辺を包んでいた灰色の霧――スキル【魔誕の闇】発動の副産物――が、まるで嘘だったかのようにスッと消え去っていたのだ。



 俺とテオは、すぐにヒュージスライムを鑑定する。



 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

名前 ヒュージスライム

種族 スライム

称号 臆病者、スライムの一族、水の魔物

状態 疲労

LV 27


 ■基本能力■

HP/最大HP 205/234

MP/最大MP  38/ 76

物理攻撃  82

物理防御 208

魔術攻撃  14

魔術防御   5


 ■スキル■

隠密おんみつLV4、合体LV5★、水特性LV1


 ■装備■

なし

・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 ステータス欄からは、『魔王のしもべ――肉体が完全に闇魔力で覆われる者――』という称号および、その称号で解放されるスキル【魔誕の闇LV5★】【魔王の援護LV5★】という表示が消えていた。



「よっしゃっ、浄化かんりょー!」


 いち早く喜びの声を上げるテオ。

 俺は油断せず、すかさず次の魔術攻撃を繰り出そうと詠唱を始める。



まばゆき光達よ。集え、そしてぜよ、力の限りっ! 閃光爆裂フラッシュバース……――」


「だめえぇぇぇーーーーッ!!!」

「?!」




 突如、背後から響く叫び声。

 俺は思わず振り返り、発動しかけた光球は空中で霧散してしまう。


 振り返った先にいたのは。



「「「ナディ?!」」」



 同時に驚きの声を上げる俺・テオ・ネレディ。




 呆気にとられる3人をよそに、トコトコ一生懸命走るナディ。


「いじめちゃ、だめなの!」

 

 彼女はヒュージスライムを守るかのように、両手を広げ俺達の前に立ちふさがったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る