第65話「スラニ湿原で、資金稼ぎ(3)」


 その後も俺とテオは、スラニ湿原にてスライム族の魔物をひたすら狩った。


 タイニィスライムやスモールスライムを見つけてはすぐ、テオが魔術で瞬殺。見つけては瞬殺。見つけては…………流れ作業のように何度も何度も同じことを繰り返し続け、そろそろ飽き飽きしてきた昼下がり。



 またもや数m先に、魔物出現の兆候であるキラキラ粒子が現れた。

 気だるい溜息をつきつつも戦闘態勢に入る。




 だが数秒後。



「「……!!」」



 俺達は目を見開いた。


 現れた魔物スライムは、タイニィスライムなどよりも明らかに大きく強そうで、その体長は1m強もあったのだ。




 すぐに俺が鑑定結果を伝える。


「ミディスライム、LVは32!」

「おっ! レアもんじゃん!」

「じゃあしばらくは、スライムの欠片かけらを回収するぞ!」

「はいよー!」


 先程までと打って変わり、2人揃って嬉々としてスライムに飛び掛かった。




 スライムから入手可能な素材アイテム『スライムの欠片かけら』は、タイニィスライムから入手した場合は『タイニィスライムの欠片かけら』、スモールスライムから入手した場合は『スモールスライムの欠片かけら』というように、元となったスライムにより名称と価値が変わる。


 ただしタイニィスライムやスモールスライムの欠片かけらは、正直そこまで高く売れるわけではない。

 そのためスライムの出現頻度が高いスラニ湿原では、これらの小型スライムが出た場合はわざわざ欠片かけらを回収するより、速攻で倒してドロップ品の透明魔石を1つでも多く回収したほうが効率よく稼げるのである。



 だが中型スライムであるミディスライムから入手できる『ミディスライムの欠片かけら』ともなれば話は別。

 魔力伝導率が高く、質の良いアイテムが作れると人気の素材のため、状況によっては透明魔石よりも高く売れることもあるのだ。




 俺とテオで挟み撃ちするようにミディスライムを囲み、まずはテオが鞭でフェイントをかける。

 すかさず俺が剣でスライムの体の一部を切り離し、切り離した体を【収納アイテムボックス】で回収。


 スライムはそこそこ素早さが高く普通に武器で攻撃しても避けられがちなため、このような形をメインに攻撃パターンを使い分け、俺達は『ミディスライムの欠片かけら』を集めていった。





**************************************





 15分ほど経ったところで、鞭をふるいながらテオが言う。


「ん~……そろそろ倒しちゃっていいかな?」


 俺は「ああ」とうなずいた。



 ミディスライムの体は当初の半分以下の大きさになっていた。

 スライムの素早さは、その肉体が小さくなればなるほど早くなる。

 2人の攻撃も段々当たりづらくなっていたため、とどめを刺してもいい頃合いだと俺も思っていたのだ。




 テオは鞭を魔法鞄マジカルバッグへと片付け、魔術での攻撃体勢に切り替える。

 

「そんじゃいくよっ! ……土霧包ランドフォッグ、GO!」


 素早く【土魔術】を発動し、具現化した砂球をミディスライムへとぶつける。

 


――パンッ!



 当たった砂球は綺麗にはじけ、細かい砂がスライムの体を覆って吸い込まれていったのだが、スライムは痛くもかゆくも無い様子だった。

 仕方ない。霧包フォッグ系は“対スライム特化術式”とはいえ威力は非常に弱い上、術者テオのスキルLVは1である。あのミディスライムに通用するはずもないだろう。


「やっぱ全然効かないかー。つぎっ!」


 テオは気にする様子もなく、すぐに次の魔術を準備する。




「……岩石爆裂ロックバーストッ!」



 気合いを入れるように指先に魔術を発動したところ、今度は両手で何とか掴めるサイズの岩石が現れた。

 先程の魔術と同じ要領で「GO!」とテオが合図を出すと、岩石は一直線にミディスライムの元へ飛び込んでいく。

 


――ドカンッ!



 スライムに当たった途端、激しく岩石が爆発。

 辺りはもうもうと砂煙に包まれた。



「……やったか?!」

「たぶんっ!」


 息をのんで見守る俺とテオ。



 『爆裂バースト系』は、それぞれの属性魔力を強く圧縮して具現化し、特定の対象や空間で爆発させてダメージを与える術式だ。

 テオが扱える術式の中では、攻撃力が高いほうなのだが…………砂煙が消えた後に現れたスライムは、まだまだ元気そうにしていた。



「うっ!」


 ほんの少しだけテオがくじけそうになった瞬間。




「ギャハハハハッ!」

「だっせー!」

「兄ちゃんには無理なんじゃねぇーの!」

「何ならアタイが代わりに倒してやろうか?」


 外野から聞こえてきたのは、悪意に満ちた笑い声や野次やじ


 バッと声のほうを振り返る俺達。

 すると見知らぬ5人のガラが悪い冒険者達が、少し離れた所に立って意地悪そうに笑っているのが見えた。




 冒険者達にも色々とルールがある。

 そのうちの1つは「魔物は、第一発見者が所属するパーティの獲物となる。そのパーティから許可をもらう、もしくはそのパーティが戦闘から離脱するか魔物にやられるかしない限り、他のパーティは手出ししてはいけない」というもの。


 おそらく笑っている彼らは、あわよくば獲物を横取りしようとミディスライム――倒せば高価な戦利品が得られるレア魔物――を狙っているものの、このルールを守っているため手出しができないのだろう。




「あのな――」



 ムカついた俺が言い返そうとした途端、テオが無言でサッと止める。

 そして能面のような顔をしたまま、小さく強めにつぶやいた。



」 


「……分かった」



 正直なところ、納得はできない。

 だがテオの静かに怒るような空気を察し、大人しくスルーしておくことにした。






 嫌味な野次が続く中。


 集中するように瞳を閉じたテオは、丁寧に魔術を組み上げ始める。




「……岩石爆裂ロックバースト……旋風爆裂サイクロバースト…………【魔術合成ハーモナイズ】」




 左手にベースとなる岩石爆裂ロックバーストを、 右手に素材の旋風爆裂サイクロバースト――爆裂バースト系の風魔術――を発動。

 注意深く威力調整してから合成すると、合成前とは比べ物にならないサイズの巨大な岩石爆裂ロックバーストが出来上がった。


 テオは完成した岩石を、左手から利き手の右手に持ち替え、渾身の力をこめるように「GO!!」とミディスライムへぶつける!




――ドガァーーーンッ!!!




 辺りに響き渡る轟音。

 膨大な量の砂煙。



 それが全て消え去った後、残っていたのは魔物の残骸である僅かな粒子と、大きめの透明魔石だけ。


 気が付けばいつの間にか、ヤジを飛ばす冒険者達は黙り込んでいた。




 俺とテオはニヤッと笑う。

 そして、どちらからともなく拳をぶつけ合うのだった。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る