第53話「スライムに、捨てるところなし」


 フルーユ湖の情報を整理し終えた俺とテオは、戦術や装備強化の方向性について話し合い始めた。


 テオの情報によると、現在フルーユ湖周辺に出現する魔物は『スライム族』が多いのだという。

 他にも『リザード族』や『スネーク族』など、地球でいうところの爬虫はちゅう類に近いような見た目の魔物も出現するが、スライム族に比べれば圧倒的に少ないらしい。




 

 さて、スライム族は、どろっとした流動性で半透明の体を持っている。

 そのため総じて物理攻撃が効きづらい。切っても殴ってもほぼ無効化してしまいダメージをあたえられないだけでなく、すぐにほぼ元の形状に戻ってしまうのだ。


 そんなスライム族の魔物にも弱点は存在する。

 体内のどこかにある『核』だ。


 核さえ破壊できればどんな攻撃でもよいのだが、スライムは本能的に核を守るように動くため、ピンポイントで武器を核に当てるのは至難のわざ


 最も有効で簡単な倒し方は、魔術で攻撃すること。

 スライムの体は非常に魔力を通しやすく、特に体全体を包むように魔術で攻撃を放つと、自動で核部分へと魔術が伝わりダメージを与えられるのだ。



 そのため俺達は今回、魔術をメインにした戦術を考えている。

 事前準備としては、MP切れに備えてMP回復薬ポーションをなるべく多めにストックしておいたり、魔術攻撃力を上げるための対策をしたりといったところだろうか。





 なおスライム族を倒すと確実に、ドロップ品として『透明魔石』を入手可能だ。

 一見ただの透明な石に見えるのだが、「何らかの属性魔術をぶつけると、その術式と魔力を吸い込み、半永久的に刻みつける」という特殊な性質を持っている。

 吸収可能な魔力量により等級が決まっていて、売却価格もそれに応じて変化。


 魔術を刻まれた透明魔石は、その刻まれた魔力の属性により『火の魔石』『水の魔石』等と呼ばれ、魔導具に欠かせない素材となるのだ。




 もう1つ、スライム族から入手可能な素材に『スライムの欠片かけら』がある。


 スライムを武器などで物理攻撃し、体の一部を切り離すと、切り離された体は自動で本体――核がある場所――へ戻ってくっつこうとする。


 ところが本体へ戻る前に、切り離された体をスキル【収納アイテムボックス】や魔法鞄マジカルバッグの中にしまうと、本体へ融合できなくなってしまうのだ。その状態で本体を倒せば、戻るべき核が無くなってしまった分体は動かなくなる。

 これが、スライムの欠片かけらだ。


 魔力を非常によく通すジェル状の物体は他に替えが効かず、大変重宝されている。



 ちなみにスライムの欠片かけらを特殊なスキルで加工すると、魔力を非常によく通す性質だけを残し、金属のように硬くなる。

 こちらは『スライムスチール』と呼ばれる素材で、魔導具や武器の材料になるのだが、加工が難しいため、あまりこの状態で使われることは少ないようだ。

 



 スライム族から入手できる素材は世界中で需要が高く、物によっては高額で取引されている。

 トヴェッテ王国が裕福なのも、世界有数のスライムの出現エリアだからなのだ。


 俺達も、道中で倒したスライム族の魔物達から、スライムの欠片かけらや透明魔石をいくつか入手済み。

 最も倒したのは雑魚ばかりであり、入手した素材の品質も大したものではないんだけど……それでも数を揃えて売れば、かなり良い金額にはなるはずだ。



 俺とテオが次の目的地にトヴェッテを選んだのは、今のうちに資金や素材稼ぎがしたいという理由も大きい。

 そしてここには、俺が何より手に入れたい素材が存在するのだ。






 資料から顔を上げたテオが聞く。


「……なぁタクト。本当にフルーユ湖のボスも、スライム族なのか?」

「ああ、ヒュージスライムのはずだ」




 ゲームでも同じようにフルーユ湖周辺に強い魔物が大量発生するという事件が起きていた。その元凶である【魔誕の闇】スキルを持っているダンジョンボスこそが、周りのスライム達より非常に大きな体を持つヒュージスライムだ。



 ヒュージスライムの確定ドロップ品は『最高級の透明魔石』。現在ゲーム内で確認されている透明魔石の中で最も等級が高く、非常に強力な魔術術式でも閉じ込めることができる。

 また戦い方次第では『ヒュージスライムの欠片かけら』も入手可能だ。こちらも現状ゲーム内では1番魔力伝導率が高い素材としてプレイヤー達に知られている。


 共に他ではなかなか手に入りづらい超激レアアイテムであり、俺が最も作りたいアイテム『自由転移扉テレポーテーションドア』の制作にも欠かせない素材でもあるのだ。




「昨日色々調べてみたけどさー。そんな目撃情報、1つも無かったぞ?」

「だろうな……」


 テオの言葉に深くうなずく俺。


 実はゲームのフルーユ湖でもボスが見当たらず、冒険者らによる捜索が行われ続けていたのだ。




「あいつは……普通に探したんじゃ、絶対見つかりっこないからさ」


 ゲーム中でのヒュージスライムの行動を思い浮かべながら、俺はしみじみ言うのだった。

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