偶発性の召喚士はまだまだ未熟

 三


 召喚士とは、己の魔力を犠牲に契約を結んだ霊獣、聖獣、精霊、妖精などを喚び寄せる魔術を修めた者を指す。


 召喚術を行うのに必要なのは多大な魔力と制御力、そして喚び寄せるモノへの正しい知識である。


 この三つを持ち合わせていれば、必ずしや召喚術の道は開けるであろう。


 ーー召喚術士への一歩(著ヘイゼル・ヴァーム )冒頭より抜粋。


 ☆


 ユーグス・コーネリアは今年で十八になる、《アファリア》の傭兵の一人だ。所属してからまだ二年目の新人でもあり、今は討伐者を目指して魔獣掃討の依頼を多く受けている。


 そんな彼が主とする武器は召喚術だ。その他の魔術、魔法、体術は一切使えないが、召喚術士の適性は高く、《アファリア》の傭兵試験も深い知識と召喚術だけで乗り切った。それだけの能力はある。


 しかし、彼の召喚術は少し特殊だ。まず一つに、彼は決まった契約獣を持っていない。普通の召喚術士であれば、最低でも二体は契約獣を持っているもの。だが彼はそれを持たない。一般的に、自由召喚と呼ばれる召喚術を使っている。


 契約召喚は、意思疎通ができる魔獣、あるいは精霊などと契約して召喚する方法である。契約内容を違わなければ大きな問題が起きることも無く、最も普及している召喚術と言える。


 対して自由召喚。これは魔力を対価にし、無契約状態の精霊や妖精を使役する召喚術だ。自由召喚は手軽ではあるものの、消費する魔力が多く、また魔獣、幻獣の類を召喚する事ができない面も持ち合わせている。


 しかし、彼の召喚術は違った。


 召喚するまで何が出るかは分からない。スライムと呼ばれる危険度の低いものを喚びだす事もあれば、逆に危険度が高いワイバーンを喚びだす事もある。自己申告であるが、過去には高位精霊を喚び出した事もあると言う。


 これは、自由召喚ではありえない事だ。精霊、妖精以外の存在を喚び出す召喚術は、契約召喚以外に今までない。これが、彼の特殊性を表すもう一つの理由。彼の召喚術は無作為に頼るところが大きい。これは彼が自由召喚を好んで使う、というより自由召喚しか使えない弊害とも言える。


 普通の召喚術士であれば魔力が足りない存在も、彼の持つ膨大な魔力によって喚びだす事が可能になってしまう。彼の召喚術は特殊だ。特殊すぎて師事するものがいない。故に、彼は《アファリア》の門戸を叩いた。


 危険な存在の自分を鍛えるために。そして同じ召喚術士がいる《アファリア》なら、何か対策が打てるのではないかと期待を持って。



「……それが、この様ペンね」


 目の前には明らかに通常種とは違うオーガが五体、《アファリア》の敷地から出ようと結界を荒々しく叩いている。《アファリア》の敷地には外部からの攻撃を防ぐため、そして内部から害意のある者が逃げられないようにと特殊な結界が張ってある。いくら亜種のオーガとはいえ、壊される確率は零に等しいのだが、


「……壮観ですね。オーガ種がこれ程まで近くで見られる経験は、そうできませんから」


「言っただろ? 面白いものが見られると」


「何で早く報告しなかったんだペン。これは一大事だペン」


「所長なら容易く場を収められる。それにあの結界はオーガ如きには破られないだろう。信頼からの行動だ」


「……いらん信頼だペン」


〈さざめき亭〉を追い出され、シャガリアに言われるまま早足で《アファリア》へと向かったソフィアとメメア。避難していた職員から事情を聞くと、つい最近入った少年が関わっているらしい。


「召喚術の暴走かペン」


「クラス無しの何人かがユーグス・コーネリアを馬鹿にした事がきっかけみたいですね。無意識に召喚術を行使してしまう、未熟な召喚術士にはよくある事みたいですが」


「あの少年は莫大な魔力を持っている。制御も難しい」


「まだ十八だから仕方ないと捉えるしかないペンね。あれだけの数のオーガが召喚できる程の量なら、魔力制御は至難の技ペンよ」


 件の少年はオーガの足元で何とか制御しようと声を張っている。が、オーガは一向に拳を止めようとはしない。召喚獣の暴走。状況を見れば、その結論に行き着くのは容易かった。


「ま、とりあえずあのオーガを止めるペン。他の奴らは何も手を出してないペンね?」


「そのようです。所長の判断待ち、といったところですね」


「そうしてくれて助かったペン。普段の教育の賜物ペンね」


「オーガ亜種が数体。そして場所は街中。上級クラス持ちじゃないと対処は無理だ。手を出したくても出さないだろう」


「パーティーなら何とかできそうな気もしますが。……まぁ、わざわざ手を出して怪我はしたくないですね」


「……お前らは黙ってろペン。何でこんな時だけ息が合うペン。これは普段の教育の賜物、それで決まりペン」


 暗にそれは違うと言われ、言葉に険を滲ませて青い目を細めるソフィア。メメアに召喚術士の少年を貶した奴らの捕縛を命じて、スッと前に出た。


「……全く、なんで昼飯もゆっくり食えないペン。最近無駄に痩せた気がするペン」


「気がする、じゃない。明らかに痩せている。特に胸回りが……」


「シャガリア! お前はさっさと帰って報告書を提出しろペン! そうすれば依頼を押し付けてとっととどっかに飛ばしてやるペン!」


「現実を見るべきだ。毎日やっている豊胸体操は無駄だと、いい加減気がつく……」


「くたばれペン!」


 翼状の手を握り締めてシャガリアの金的に拳を放つソフィア。それを華麗に避けられた後、シャガリアの存在は無視を決め込んで一跳びし、オーガ達の前に着地した。


 ソフィアの登場に、周りを囲んでいた傭兵達がどよめく。クラス持ちの傭兵はやっと来た、と言わんばかりに息を吐き、言われる前にクラス無し達を下がらせた。


「手際が良くてよろしいペン。さて、それじゃ……」


 ソフィアはオーガ達の足元で喚くユーグスを見据えた。


「ユーグス・コーネリア! 今からそいつらを強制送還させるペン! 意義はないペンね!」


「は、はい! お願いします!」


「よし」


 下がってろ、と声をかけたソフィアは、更に一歩前に出る。そして手元で魔力を練り上げると、翼状の手で器用に指をパチンと鳴らした。


 事は一瞬で蹴りがついた。荷車ほどはあるオーガの頭が、大きな音を立てて地面に落ちたのだ。太い腕を振り上げた体制のまま硬直したオーガの巨躯も、後を追うように地面に倒れこむ。


 間を置かず、霧となって消えるオーガの体と頭。何とも呆気ない幕切れだ。


 目の前で行われた事が理解できず、辺りを囲んでいたクラス無しの傭兵や野次馬に来ていた観客は口を開いたまま黙ってしまう。


 ついさっきまで鳴り響いていた暴力的な音が止み、静寂に包まれる一帯。同じように唖然とするユーグスに、ソフィアは鋭利な青い瞳を向けた。


「ユーグス・コーネリア。お前は所長室に来るペン。そこでじっくり話を聞くペン」


 ソフィアの言葉に、ユーグスはただ頷くしかなかった。


 ☆


「さて、それじゃ事実確認をするペン」


《アファリア》本部の所長室。ソフィアはいつもの椅子に座り、ユーグスは床に正座をしている。そんな彼の顔色は青ざめ、俯きながらカタカタと小刻みに震えている。


「……ユーグス、そんなに畏まらなくてもいいペン。今回の件は軽い処罰で済ますって、もう決まっているペン」


 ちなみに、メメアは別室でユーグスの事を貶したクラス無し達を尋問している。別室にしたのは被害者と加害者、両方からの意見を個別に聞くためだ。


 ふぅ、と息を吐いたソフィアは翼状の手でペンを持ち、真っさらな紙にその先を滑らせた。


「それじゃ、まずは事実確認をするペン。お前はユーグス・コーネリア、十八歳、出身はトオガ村、師はいない、三ヶ月前に《アファリア》の試験に合格、これまでに達成した依頼は二つ。依頼失敗はゼロ、合っているかペン?」


「は、はい」


「職員の話だと、お前は晴空の月の三十五日、つまり今日の十三時頃にクラス無しの傭兵、ビリー、メンゾ・ロロアナ、ジェリアの三名に暴力行為を受け、職員が制止するより前に召喚術が暴走、オーガの亜種を五体喚び出した、らしいペン。間違っているところはあるペン?」


「い、いえ。ありません」


「ふむ。まぁ、今回は実質的に被害がなくてよかったペン。怪我人もいないし、建物にも損害はない。もしオーガが街に出たら大問題だったけどペンね。《アファリア》の敷地内なら大抵の事は身内で済ませられるペン。結界があってよかったペン」


 街中に魔獣を召喚する。例えそれが召喚獣だったとしても、騒ぎを起こした事で捕まる事は避けられない。しかし、《アファリア》に所属する者が《アファリア》の敷地内で起こした事件は、外に被害のない形で事態を収めれば不問とされる。


 これは《アファリア》が本拠を置くイブリア王国でのみ適用される法だ。どう見ても横暴でしかない法だが、そもそも《アファリア》はどこの国にも属していない組織である。対魔獣、その一点にのみ利が一致した故に今はイブリア王国に拠を置いているだけ。


 イブリア王国は魔獣に対抗する戦力を得るため、《アファリア》は土地と資金、そして情報を得やすいが為に力を貸している。だから、《アファリア》に属する者はその時点でイブリア王国の国民ではなくなる。もちろん、秩序を保つために敷地の外を出れば国民という扱いにはなるのだが。


 これは試験を受け、合格した者に最初に教えられる事でもある。国を捨て、《アファリア》にのみその腕を使え。受け入れられない者は出て行け。《アファリア》はあくまで傭兵。その事実を再認識させるための教育だ。


 ユーグスも《アファリア》の一員である。当然、それは知っていた。が、国からのお咎めが一切無いと断言され、つい口が開きっぱなしになってしまった。


「さて、それはどうでもいいペン。お前にする話はここからが本題だペン。お前が《アファリア》の傭兵になったのは、魔獣の掃討と召喚術を正しく扱う術を学ぶため、だったペンね」


 書き物を終え、ペンを置いたソフィアは青い目をユーグスに向ける。別に睨んでいるわけでも無いのに、彼は身を縮こませた。


「……この三ヶ月、お前は召喚術士の二人と一緒に依頼を受けているペンね。どうだペン? 進捗はあったかペン?」


「……あ、いえ、その……芳しく無い、です」


 予想通りの答え。多少でも進歩していれば、召喚術の暴走なんて起こるはずもない。とはいえ、たった三ヶ月で成長しろなんて、無理難題でもあるのだが。


「……先輩の召喚術士はなんて言っていたペン?」


「……ええと、あまりに体系が違いすぎて教えられる事がない、と。知識についてはお墨付きをもらっているので、あとは独学でやるしかないと」


「あの二人がお手上げか、ペン」


《アファリア》にも数人しかいない召喚術士。召喚術は修める難易度が高く、魔力量と素質が物を言う特殊な魔術体系の一つだ。言わば、専門家の絶対数がかなり少ない。


 ソフィアも、召喚術については門外漢だ。知識としてあるだけで、実際に教える事なんぞ出来るわけもない。魔術士、魔法士としては一流のソフィアでさえ、手が出ない召喚術。


 となると、彼は少なくとも2人の専門家が匙を投げた、従来の枠から外れた召喚術を扱ってきた事になる。十八になった今までで大きな事件を起こさなかったのは、ひとえに彼の運が良かったからであろう。


 彼の魔力量と件の召喚術なら、街が一つ滅びるくらいの事件が起きてもおかしくはない。これはおかしな組織に目をつけられる前に《アファリア》に来てくれたことを喜ぶべきか、あるいは厄介事が自分からやって来た事に頭を抱えるべきか。


 目の前で小さくなるユーグスを見て、ソフィアは椅子の背もたれにプギュッと身体を預けた。


「ランダム召喚、全く面倒な召喚術に巡り合ってしまったペンね」


「す、すみません」


「謝る事はないペン。それもまた、一つの才能ペンよ。それに、お前の召喚術の危険性を知っていて何もしなかったこっちにも責任はあるペン。だから今回の事件も軽い処分で済ませるんだけど……」


 ソフィアが、というより《アファリア》もユーグスの召喚術の危険性を認識していた。今までも何もしなかったのでは無く、できなかったという他にない。


 指導を担当した召喚術士の二人も、彼の事を報告はしていた。それで、《アファリア》が出来る事はなくなってしまったのだ。


「経過観察、が今までの処置だペンね。けど、事件が起きた以上、黙ってはいられなくなったペン」


「……と、言いますと?」


 震える声で尋ねるユーグスに、ソフィアは額の上から伸びる着ぐるみの嘴を一撫でして返した。


「お前が召喚したモノを抑えられる実力を持ち、且つ指導ができる奴をお前の師に当てる事にしたペン」


「……え? で、でも、俺の召喚術は誰にも……」


「そうだペン。お前に召喚術を教えられる奴はいない。少なくとも、《アファリア》には。だから、教導する方向を変えるペン」


 首を傾げるユーグス。召喚術は独立した一つの魔術体系。召喚術を教えられるのは召喚術士だけと言われる程に特異な魔術だ。多少、教え方を変えても意味がないのでは? 怪訝な表情をする彼に、ソフィアはもったいぶらず、すぐに答えを言った。


「とりあえずの目標は、感情が高ぶっても召喚術が暴走しないようにする事ペン。そのためには、お前の体内に腐るほどある魔力を制御する術を学ばなくてはならないペン」


「……た、確かに魔力を制御できれば、暴走はしなくなるかも、しれません。けど……」


「けど、何だペン」


「む、無理ですよ。俺は今まで召喚術の勉強と一緒に、魔力制御のやり方も練習してきました。……十年間やり続けても、魔力が漏れ出さないようにするのが精一杯なんです。召喚術を使う時だって、必死に魔力を練ってようやく……」


「まだまだ、甘いペンね」


「へ?」


「だから、甘いと、言ったんだペン」


 コン、と机を指で叩き、ユーグスに鋭い目を向ける。


「お前はまだ十八歳だペン。たかだか十年程度、修練を積んだところでまだまだ若輩でしかないペン。それにお前がやってきたのは独学。長い積み重ねで裏付けされてきた真っ当な指導でさえ、真理にたどり着くのは一握りの者だけペン。それをお前は独学で十年努力したからといって、悲観的になりすぎだペン」


 いいか、とソフィアは語勢を僅かに強める。


「お前は確かに、召喚術と魔力量に関しては天才的な素質を持っているペン。けど、それ以外は凡才もいいところだペン。どんな種族であれ、全てに秀でている者はいないペン。お前も知っているペン? あの有名な召喚術士、ヘイゼル・ヴァームは、百もの召喚獣を使役したと」


「は、はい。様々な召喚獣を使役して、あらゆる苦難を超えてきた人、です。召喚術の基礎を作り上げたのは、彼だと聞いています」


「そのヘイゼル・ヴァーム、使役できた数は百を超えていたペン。けど、彼は圧倒的に魔力量が少なかったペン。使役できたのは危険度の低い魔獣だけ。それも、スライムやゴブリン、ワーム種だったそうだペン」


 ありえない、とユーグスは思わず否定した。伝記に書かれているのは竜種や幻獣を無数に従える彼の偉業だ。それに、魔力量が少なければ使役できる数も少なくなる。


 ソフィアは、口角を吊り上げた。


「それは尾ひれがついたお話だペン。彼の直筆した日記、その原本には、確かにそう書かれているペン。使役できたのは有象無象の魔獣だけ。だけど、彼はお話の通りの偉業を成し遂げているペン」


 つまり、ソフィアは断言する。


「彼が優れていたのは魔力の制御と確実な召喚術を使いこなす腕があった事ペン。……お前とは全くの真逆だペン。けど彼は、後世に名を残しているペン。彼は晩年の手記に、こう記しているペン。」


 ーー私は決して優れた召喚術士ではない。今までで使役した召喚獣は、平民でも狩れるような弱いモノばかりだ。だが、魔力の扱いだけでなら私はどの種族の、どの英雄にも負けないだろう。たった八十年の人生で、唯一私が誇れるものだーー


「……彼が本当に重視していたのは魔力の扱い、制御。彼が召喚した魔獣は、ただのゴブリンでも一騎当千の力を持っていた。スライムはオーガを飲み込み、ワームはドラゴンを喰らい尽くした。何でそんな事ができたのか。それは今はどうでもいいペン。重要なのはーー彼が人族だった、という事だペン」


 ソフィアは続ける。


「人族の彼がたった八十年で辿り着いた境地。そして彼は頭は良かったけど、決して天才ではなかった。なら、何で同じ召喚術士のお前がヘイゼル・ヴァームに追いつけない道理があるペン?」


「……しょ、所長は、本当にそんな事が出来ると?」


「当たり前だペン。お前は召喚術に最も適した天才だぞ? 凡人の彼にできた事が、どうしてお前にできない?」


 あんぐりと、ユーグスは口を開いて黙り込んでしまった。


 今のユーグスに、ソフィアの言っている事の確証は得られない。ヘイゼル・ヴァームが本当に手記にそう残したのか、危険度の低い魔獣しか使役できなかったのか、そして本当に凡人だと言い切れる人だったのか。


 だけど彼の目の前に堂々と座る彼女は、そんな疑問すら瑣末な事だと消し飛ばすような、自信に満ち溢れた声音で告げた。


「お前には師匠をつけるペン。私が知る限り、誰よりも魔力の制御に長け、恐ろしく強い奴だペン。もしそいつが信じられないなら、そいつから教えられた事が信じられないなら私を思い出せペン」


 ソフィアは不敵に、不遜に、笑みを浮かべた。


「お前は私を信じていればいいペン。必ず、お前をヘイゼル・ヴァームを超える召喚術士にしてやるペン」


 ☆


 ユーグスが所長室から出て行って、数分後にはメメアが入ってきた。


 今のソフィアに、ユーグスが見たような自信のある姿はない。だらりと机に上半身を預け、大きな欠伸をしては小さな口を間抜けに開けている。


「お疲れのようですね、所長。殲滅者のシャガリアは既に家に帰ったようですよ」


「それは、朗報だペン。それよりメメア、ゼファロ・デリ・アファードを呼んでくれだペン」


「……【創り手】のゼファロですか? 彼は今、作品作りに向き合いたいからと休職届けを出していますが」


「構わないペン。ついでに、ユーグス・コーネリアを休職状態にしてくれだペン」


 メメアは鋭利な黒い双眸を、更に細めた。


「……それは、彼にクラス無しのユーグスの指導を任せる、という事でしょうか?」


「ご明察、だペン。ゼファロなら何とかしてくれるペン」


「随分と他人任せですね。【創り手】のゼファロといえど、召喚術に精通はしていないはずですが」


「あいつの召喚術はどうしようもないペン。誰も教えようがない。だから、ゼファロに魔力の扱い方を教えてもらうペン」


 そう言い切ると、話は終わりだと言わんばかりに顔を机に伏せた。こうなると、いくら付き合いの長いメメアとはいえ、動かす事はできない。


「……はぁ。どうせ、また説教でもしたんでしょうね。相変わらず年の功を見せたがると言いますか……」


「私は十七歳だペン。そこを、間違えるなメメア」


「はい、分かりました。では、十七歳の所長の命令を、私はこなしに行ってきます」


 踵を返して、部屋を出ようとするメメア。その背後から、ソフィアは顔も上げず言った。


「メメア。頰に血が付いているペン。職員が怯えるから、顔は洗っておけペン」


「……これは失礼しました。ちょっと、躾に苛ついたもので」


 そうして彼女は部屋を出て行く。別室でメメアが何をしていたのか、それは想像に難くない。

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