3-2

【六番目の小夜子】

恩田陸による小説。それをもとにしたテレビドラマ。ある学校での不思議な出来事を巡るストーリー。あることに選ばれた生徒は、ある役割を果たす。ということが物語の要素。

―――――


 『秘密の部屋』で大邑崎さんと向かい合って座っていた。ちなみに、この部屋にはスノー・スマイリーの本体が格納されている。雪村恵美としての住居は別に用意してあるそう。調べられた場合に備えてのカムフラージュだって。


「あなたの呪文はきっかけの一つよ」

「きっかけ?」

「確かにあなたの行為と呪文はあの四人を苦しめた。でも、あの四人を今苦しめているのは『その他大勢』の思念のようなものよ。今まであの四人に苦しめられてきたものや、煩わしいと思っていた者達の思念があなたの作った回路に乗ってしまっている。最早あなたの回路とは言えない複雑さを持ってしまった。解除は困難ね。あなた一人じゃ」

「じゃ、じゃあ、どうすれば?」

「治療の回路を作るほかないわね」

「治療の回路?」

「どうにか、その思念を別のところに逃がす。もしくは、反対のエネルギーを流す。それは、私の協力を得たとしても、あなたが関与しなければならない。最初に行ったものは大きな権利を得るけど、責任も残ってしまう。残酷かもしれないけど、今の現状を見るとどうしてもそうなってしまうみたいね。これが今の私の限界。すまないわね」


 いや、あやまられても……どう反応すればいいのやら……


 一息つきながら色々と考えてしまった。そして、不意にくしゃみ。


「ストップ!!」

「ひぃ!」


 大邑崎さんが私に詰め寄る。ギラギラした目で私の目を覗きこむ。


「あなた、答えを出したわね」

「な、なにを」

「私にはわかる。今、あなたは治療の回路を作る方法を見つけた。でも、すでに消えかかっている。あなたはいつもそう。力を持ちながら、それを振るおうとしない。今、私が取りだして見せる。さあ、何を思ったか言いなさい!」

「うーん……」


 目をそらすと、首を強引に動かして彼女の方を見せた。いたたた、わかったよ。


「多分、今思いついたというより、前に何となく思い描いていたのが、不意に浮かび上がったんだと思う。私が見つけたものを、数式にしてみようとして……」

「ちょっと待ってて」


 大邑崎さんは生徒手帳を取り出しメモが出来る体制になる。

 私は三つの数式を示した。


「……で、どういう意味なの?」

「さあ?」


 大邑崎さんは私につかみかかって来た。


「さあ? じゃないでしょ! どういうことなの!? 教えなさいよ!」

「いや、その、私にもよく―――」


 ドタバタとしながら、大邑崎さんを落ち着かせることが出来た。そして、彼女は同好会のメンバーとなり、強引に私のライバルになり、友達になった。呼び方はカヨラでいいそうだ。


 それとさっきの数式だけど、結局のところ私もわからないんだ。ただ、唐突に何かが浮かぶことはある。そんなことが繰り返されてきた。感覚で捉えたんだ。きっと。


 一つ目は質量、重力、エネルギーの調整の式。とても単純なんだ。グラフにすると負の二次関数が上に突き出たようなものになる。y=-x^2 と比べると右にずれていることになる。何かがこれを指し示しているように感じた。それが何なのかはわからない。

 つまり、私が行うべきは全体を鍛えつつエネルギーを増やしていくこと。そう思ってやって来た。わからないよね。私もわからない。


 二つ目。もしも何らかのものとして現れたとしても、それは時々刻々と変化するということ。つまり、それは私自身も変化することになる。その結果最初の式で現れたものも変化し、私自身にも変化をもたらし、世界も変わることになる。すべては巡りゆく、ということ。


 そして最後のは、結果として非ゼロ和になると信じたい想いだろうね。

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