「 蓮華の花守 - 姫鷹とライル 」(二十三)

 

 

「 ――― 起きた? 」

 

 

「 !!? 」

 

 

―――――― 五日目、辰の上刻( 七時 )


睡蓮スイレンが目覚めると、見慣れて来た相部屋に 武官着に着替え終ってたたずんでる白夜ハクヤの姿がった。


「 !? ――― 私、医院に居ませんでしたでしょうか…? ――― ??? 」


「 そうだよ? 」


「 あの…どうやってここまで戻って来たのでしょうか? き…記憶が無くて… 」


睡蓮スイレンは、自身がまた記憶を失ったのでは無いかと考えて 焦りを感じつつ蒼褪めた。

「 それは…――― 」説明しようとした瞬間、葵目アオメによる " 全女性を敵に回す " 発言を思い出して白夜ハクヤは口籠る。

の思想が睡蓮にも当て嵌まるかは判らないが、話した後に彼女が赤くなるか逃走する反応は容易に想像出来たので、彼は彼女を刺激しない様に「 他の人に聞いたほうが良いかもね? 」と、言い残して そそくさと廊下に出て行く ――― 。


「 え…!? 」


はぐらかしただけの彼の言葉が意味深に聞こえた睡蓮は、自分が 白夜や医院に何か迷惑をかけたり失態をしてしまったのでは無いかと不安になり、顔の蒼に深みが増して行く。

泣き顔と泣き姿を見せてしまった事が 睡蓮にとっては法令を破ってしまったかの様に感じられており、何時いつも通り、これ以上 彼の手を煩わせる訳にはいかないと固く誓いながら寝台から下りて支度を始めた。




「 やっぱり、来ていたのか…… 」白夜ハクヤは食堂で蒼狼せいろうから光昭こうしょうの話を聞くなり、しかめっ面でいきどおりによる溜息を吐いた。

自分は桔梗ききょうもとへ行けなかったのに、よりによって 光昭が行けている事も腹立たしい。

宮中で一緒に過ごす中で 白夜の心情の変化を読み取れる様になって来た睡蓮は、不機嫌な様子の彼に僅かに緊張すると、この場合 どの様に接すれば良いのか解からずに蒼狼の様子をうかがう事にする。

しかし、蒼狼はあっさりした様子で「 あ! 彼の中では 俺、桔梗さんの弟って事になってますんで ――― 」と白夜を困惑させる一言を発し、彼の顰め面を 増々 顰めさせるだけだった。


( 白夜さんの妹と言われる私と似てる…のかな? )

――― こうして、睡蓮による蒼狼の観察は彼に親近感を覚えただけで終わりを迎える。



「 御二人は? 何か変わった事とかありました? 」

「 無いよ? 」「 ……ありません! 」


同時に答えた白夜と睡蓮の姿に 何かった様な予感がした蒼狼は「 御二人の仲の事じゃなくて、宮中で変わった事が無かったか聞いてるんですけど…――― 」と、遠慮がちに突っ込みを入れると " 昨夜の自分の行動は正しかったな " と満足そうに微笑んで心の中で自画自賛した。


「 ……変わった事じゃ無いけど、藍晶らんしょう翡翠ヒスイが見回る時も組んでた。 」白夜は蒼狼の突っ込みを聞き流して報告する。


「 へぇ…気が合わなそうなのに ――― 武器が同じだから組まされてるんですかね? 」


「 そういえば、睡蓮 ――― ロータスの言葉が解かるんだって? 」白夜が訊ねると睡蓮は( !? ――― 何故、ご存じなのかしら…?姫鷹ヒメダカ先生かしら…? )と驚きながら「 は…はい! 」と返事をした。

白夜と蒼狼に、昨日 起こったままを話すと蒼狼は「 凄いじゃないですか!? ――― 記憶を無くす前から勉強熱心な方だったのかな? 」と睡蓮に微笑んだが、白夜は 何故これだけ一緒に居るのに 自分にぐに教えなかったのだろうかと軽く凹み始めていた。


縮まった様で縮まる事の無い 睡蓮との距離感に、桔梗への想いも重ねて ――― 複雑な心境で白夜は食堂を後にする。





睡蓮が何時いつも通りに女房(女官部屋)に向かうと、深刻な表情の女官仲間達が五日目の予定が全て中止になった事を告げる。

彼女達が真顔なのは、予定が中止になったからだけでは無く、昨夜の花蓮カレン女王を思い浮かべての無意識の心労の表れでもあった。


「 昨日の雨で、王子さまが風邪ひいちゃったんだって! 」蝶美チョウビ何時いつも通り明るい口調で睡蓮に話し掛けた。

他所よその国の王子殿下に風邪引かせるってマズイですよね…? 」緋鮒ひぶなは腕を組んで眉間にしわを寄せる。


「 …女王様は大丈夫なのですか? 」睡蓮スイレンの問いに紅魚ホンユイが「 ええ、大丈夫だと思うけど… 一応、姫鷹先生にお越し頂く事にしたわ。 」と答え ――― 珠鱗しゅりんも「 でも…中止になって良かったかもしれませんわね? 御二人が廻られる予定だった水辺が、昨日の雨で濁り水になっているそうですわ。」と苦笑いを浮かべた。

珠鱗の言葉に女官達は「 ああ~… 」と言いたげな表情を揃える。

雨によってリエン国の池や川などの水が濁り、水花の情景が無残な姿になるのは日常的な事である。

誰も気が付いていないが、睡蓮もの情景を把握しているらしい。


「 宮中の水場も濁ってたわ…――― 確かに、アレは お客様にお見せ出来ないわね。 」紅魚ホンユイの心配は虚しく ――― 本当は 風邪など引いていないライル王子は、濁りまくった宮中の水場をしっかりと眺めていた。


( 酷い有様だな……この国で 俺は 女どころか、花を愛でる事さえ許されないと言うのか……? )


「 ちょっ…!王子!! ――― サボりの我儘わがまま聞いてあげたんですから、せめて 寝てて下さいよぉ~!? 」部屋から姿を消したライルを探しに来たナジュムが駆け付けると「 お前こそ、何 仮病がバレるような事 大声で叫んでんだよ!? 」と、僅かに背徳感を持つライルは 周りにリエン国の人間が居ないか焦った様子で確認した。


「 姫鷹先生が診に来るらしいんですけど、どうやって切り抜けます!? 」


「 断りゃ良いだろ!? ――― てか、誰? ヒメダカって 」


「 医院の医院長先生ですよ? 」


「 ……因みに、女か? 」「 分かりました!ただちに断りますね!! 」


「 待て!!答えろ!! 」全速力で走り戻るナジュムを捕まえるべく、ライルは彼を追いかけて 彼の思惑通りに まんまと部屋へと走り戻った ――― 。




花蓮女王とライル王子殿下の診察の任務を与えられた姫鷹ヒメダカは、身を清める為に医院内にある医官専用の浴室で自主的に ――― と言うより、完全に自分都合で湯浴みを行っていた。

自宅では無い医院での彼女の入浴は介助人が必要な為、東天光トウテンコウは姫鷹によって強制的に ――― 医官の女性数名は同様の患者が現れる事に備えて、学びの為に近くに待機している。


「 これで、王子殿下に見初められて 強引に寝台の中に引き寄せられても、何も気にせず受け止める事が出来るわ…!! 」

「 自分が強引に引きずり込まないようにね? 」野望と湯で高揚した姫鷹の自身では手が届かない身体部分の水滴を布で拭き取りながら東天光は念を押す。

医官の女性達が姫鷹に付け方を学びながら義足を装着させ、衣や診察具を整えると、 の日は補佐役として数名の医官を引き連れて姫鷹は医院を出発した。


「 先生~~!ちゃんと先に花蓮様の所に行くんだよ~!? 」東天光トウテンコウ葵目アオメは独身であるが、娘を初めてのお使いに出す様な気持ちで 遠のいていく姫鷹ヒメダカの晴れ姿にも似た後姿を見守り続けた ――― 。



「 わっ…!先生、今日は何かカッコイイですね!? 」女王の私室前で白夜ハクヤと見張りを務めている蒼狼せいろうが医官を引き連れて来た姫鷹を見て、思わず感想を口にすると「 でしょ? 」と、得意気に返答し、男性の医官だけ廊下に残して白夜の顔をニタニタと見つめながら姫鷹は女王の部屋へと入って行った。

( 何故だ? ――― 何故、医院長は 今 俺の顔を見て笑った…!? )睡蓮の頭を撫でた事と横抱きの情報が洩れている事を白夜は知る由も無い。


「 姫鷹先生 ――― お待ちしておりました! 」女官達が揃って姫鷹に頭を下げると、姫鷹は睡蓮に視点を合わせて微笑み、までと違って 花蓮女王の姿が無い事を疑問に思う ――― 。


「 ちょっと…花蓮様は? 」早くライル王子のもとへ行きたい姫鷹は 少々苛立ちながら訊ねた。

「 それが…熱も何の症状も無いのですが、風邪を引いたと仰って起き上がろうとはされなくて……寝室へ御案内致します。 」


珠鱗と姫鷹が女王の寝室へ入室すると、寝台の中に横たわる ――― まさしく一輪の花の様な花蓮の姿がった ――― 。

何時いつも通りに姫鷹に対して花蓮が言葉を発する事は無いまま診察が始まると、間も無くして「 健康そのものですね? 」と姫鷹が診断結果を口にする。


「 そんなはず無い…!風邪よ…! 」


女王の専属医になってから初めて女王の声を聞いた姫鷹は " 声小っちゃ!! " と第一印象を感じながら新鮮な会話を続ける事にする。

「 いいえ、健康そのものです。強いて言うなら寝不足かしら? ――― 何故、風邪だと思われるのですか? どこか痛みでも? 」


「 ………。 」


「 陛下…どこかお悪いならお薬を用意しなければなりませんので…… 」珠鱗が声を掛けると、花蓮は彼女をキッとした瞳で睨み「 風邪なのっ!! 」と主張を繰り返し、不貞寝する様に布団の中へと潜り込んだ。

( なんか、機嫌が悪いわね…… )姫鷹は面倒くささに襲われ始めると「 わかりました!風邪ですね~? でも、お薬は必要無いみたいなんで 取り敢えず、ゆっくり休んでれば良いんじゃないかしら? 」と、適当に話を合わせて診察具を速やかに仕舞うとライル王子の許へ行く為に寝室を飛び出して行った。


「 まあ、何かあったら また呼んで? 」女官達に告げながら、姫鷹は次の目的地に向かって足早に去って行く ――― 。

「 看病の必要が無い風邪ねぇ…… 」紅魚が呟くと、珠鱗は「 たぶん、予定が中止になってしまったので悲観的になられているのではないかしら? 」と苦笑いを浮かべた。


「 じゃあ、私達は 今日は どの様に過ごせば? 」緋鮒が女官仲間全員に視線を向けると「 ん~っと。。。お見合いのお着替えが無いなら、アタシは仕立て師さん達の所に行ってみよっかな? 」と、蝶美は申し訳無さそうな瞳で呟く。

女官達が今後の予定について話し合う中、ロータス国の臣下達もライルの部屋で同じ内容を話し合っていた。



「 ――― まっ、テキトーで! 」


ナジュムの言葉に全員が頷いて話し合いが数秒で終了すると、臣下達は思い思いに散り始める。

「 で、俺はいつまで寝てなくちゃいけないんだ? 」ライルが退屈そうに訊ねると「 え? ずっとに決まってるじゃないですかぁ!? ――― バレたら国際問題に発展しかねませんよ? 」と、観光に行く準備を始め出したナジュムが答える。


「 はぁ~!? もう勘弁してくれよ…… 」


「 自分が選んだ道じゃないですか? ――― お土産は買って来ますから! 」


「 おい、待て…お前も遊びに行くのかよ!? 」


「 え…!? やだなぁ、責任者の俺がそんな事する訳 無いじゃないですか~! 」ナジュムがとぼけながら支度を続ける中、姫鷹達が到着したのでライルは小声で「 追い返せ! 」と叫びながら寝台の中に身を隠した。


追及から免れたナジュムは、扉を開くなり「 助かりましたよ!姫鷹先生!! 」と大きな声で姫鷹を歓迎すると、彼女も昨日の船酔いの話だろうと思い「 当然の事をしたまでよ! 」と誇らしげに答え ――― 感動の再会を果たした二人は燃え上がる様な熱い握手を交わす。


「 あの~…ウチの王子、" 超 " が付く 恥ずかしがり屋で女性に診られたくないそうなんで、お薬だけ出してもらうとかって出来ます? 」


「 恥ずかしがり屋も大好物よ!! ――― あ!いや…大歓迎よ! ――― 大丈夫よ?男性も連れて来たから 」と言い直しながら 姫鷹が入室を試みると、ナジュムが壁になり、彼女が右に行けば彼も右に ――― 左に行けば左にと、鏡の様に同じ動きをする為に なかなか前に進めない。


「 ちょっと…あなた何なのっ?! わざと邪魔してない? 」

「 え… 気のせいじゃないですかねぇ? 」


「 ナジュム、通せ……! 」女性の声に気が付いたライルが外面そとづら全開の落ち着いた様子の声を掛けると、ナジュムは溜息を吐きながら「 先生、ごめんね…!守り切れなかった… 」と嘘泣きをする仕草で姫鷹と医官達を部屋に通した。


期待で胸を膨らませて飛び込む様に王子の部屋に足を踏み入れた姫鷹は、ロータス国で日の出に焚かれる香に包まれると「 あら、乳香にゅうこうね? 気が利いてるじゃない ――― 」と、甘い香りに微笑んだ。


乳香とは、樹木から分泌される乳白色の樹脂の事で、ロータスの人間からすれば 毎朝の日課で焚いているだけなのが、医者である姫鷹からすれば 薬剤にも使用されており、風邪に対しても効果があるとされている乳香を焚いている事は感心せずにはいられない。

何より、甘い香りが恋の始まりを感じさせ、姫鷹は上機嫌となった。


「 へぇ…わかるんだ? さすがですね。 」


女っ気に飢えていたライルは、決して絶世の美女で無ければ目を背けたくなる様な容姿でも無い姫鷹を見るなり " ま…たまにはこういうのも良いか " と妥協する事にした。

容姿は平凡だが、片脚は義足、宮中の医院長という肩書、そして、香りを言い当てた事が 丁度、退屈していた彼を惹き付けるには充分だったのだ。


姫鷹は、念願のライル王子 ――― と、言うより 麗しき男性患者を目前にした感動と欲望を押し殺して、落ち着いた様子で彼に一礼して微笑んだ。

( この超幸運は、昨日 塩撒いたおかげかもっ……?! )


「 さっ、皆さんもこちらへ! 」ライルはにこやかに医官の女性達に手招きして人数を数えると、独りで充分 相手出来ると判断し「 ほら、ナジュム ――― その他の皆さん(男の医官)を連れて、さっさと出て行けよ? 」と、テキパキとした様子で自ら衣を脱ぎ始めた。


「 行くわけが無いでしょっ!? 」


見合い中にるまじき、王子の如何いかがわしい欲望を察知したナジュムが大声で突っ込みながら扉を叩き閉めると、ライルと姫鷹は同時に舌打ちするのだった ――― 。



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