「 蓮華の花守 - ライル 」(十)

 

三日目の夜 ――― 遊びに来ている訳では無いので当然と言えば当然なのだが、睡蓮スイレン白夜ハクヤは若い男女で有りながら恐ろしい程に何事も無く就寝し、四日目の朝を迎えた。



「 昨日は何の音も無かったみたいだね? 」


「 はい… 」


二人と共に、王族の居住棟に向う蒼狼せいろうは「 足音じゃ無いのかもしれませんよ? ――― 夜中に響く音って何でしょうね? 」と、沈んだ様な二人を励ますかの様に軽い調子と足取りで 何の音だったのかを考える。


「 みんな、おはよ~! 睡蓮スイレン~ 今日はアタシ達も ちょっと 特別な感じでいこうね♪ ――― またね!白夜ハクヤさん、蒼狼せいろうくん! 」


待ち構えていた蝶美チョウビさらわれる様に連れて行かれた睡蓮スイレンを見送りながら、白夜ハクヤ蒼狼せいろうは夜間の見張りの黒曜こくよう桃簾トウレンと交代する。


「 じゃ、僕達は休むんで 後の事は誰かに聞いてくださいね~! 」

閉じかかっている瞳を必死で開けようとする桃簾トウレンが、手にしてる彼よりも大きな金属製のづちを今にも落としそうで黒曜こくよう白夜ハクヤ蒼狼せいろうの三名は生返事で速やかに桃簾トウレンを帰らせた。


「 最近、あのかたの危なっかしい手付きの御蔭で 朝から完全に目が覚めるんで助かりますね。 」


「 あの武器を持ったままで居られる腕力はあるんだろうけどな……。 」


白夜ハクヤ蒼狼せいろうが 去りゆく桃簾トウレンの後ろ姿を見ると、ふらふらと手にしてる鎚ごと今にも倒れ込みそうな足取りで、通路の窓から差し込む ――― 白光の中に吸い込まれる様に彼は消えて行った ――― 。

 

 



 

―――――― リエン国 近くの海を走る一隻の船の上にて


ロータス国の第三王子・ライルは単眼鏡でリエン国の岸辺が見えたのを確認すると、大きな溜息を吐いた。


二十四・五歳と思われるライル王子は、ロータス国の人間特有の褐色の肌では無いが、自国の王子らしく、に焼けた浅黒い肌と 異国の者の目から見ても判る美貌で、肩まである黒髪と 白を基調とする装束に映える 煌びやかな金の耳飾りや首飾り等の装飾品を風でなびかせている。


花蓮カレン女王同様に 彼は結婚する気が無く ――― 自国の王位を継ぐ事も無いと思われるので王族としての責任感もさほど無く、王位を継承したいという欲も無いが、その他の欲は人並み以上に持ち合わせているので思ったままに自由に振る舞い、それが許されて生きて来た男だ。


しかし、彼の家族達は 彼以上に欲深い思想を持っていたようで、名高い ハチス王が支配していたリエン国の新しい女王が十五歳の天涯孤独の少女と聞いて、今の今まで放っておいた第三王子の存在を思い出し ――― 彼の意思とは関係無く、リエン国へ送り込んだのが此度こたびの縁談話の真相である。



「 王子! 間も無く着きますので御支度を…――― うげ ☆×※▼△◇%*※☆……!! 」


「 わかってるから、お前は その船酔いを何とかしろよ!? 頼むから 女王の前ではゲロ吐くんじゃねぇぞ…… 」


付き添いとなる臣下のナジュムの船酔い加減に不安を覚えながら、ライル王子はどうやって失礼の無い程度で花蓮女王に嫌われようか考えていた ――― 。


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