第8話 その手の中に

握りしめた手の中にある

錆び付いた古い鍵は

体を這う重い鎖を

無重力へと解き放った


生まれて初めての自由を知った

傷だらけの白い体は

新鮮な酸素を求めて

遙かな宙を身軽に泳ぐ


もう拘束されることもなく

もう故意に傷付けられることもなく

そんなことを思い浮かべたら

温かい涙がこぼれた


握りしめた手の中にある

錆び付いた古い鍵は

想像もしなかった未来への

分厚い扉を切り開いた


きっとその鍵は昔から

その手の中に握られていた

誰にも気づかれないまま

その手の中に潜んでいた


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る