第1-9話 世界を救うより大切なこと

ラウンド3までもつれ込んだ戦いも、始りを告げた。

FIGHT!!

文字が消えたタイミングで、両者はバックステップを行い距離を置くと、雷撃刃とウィンドウショットを撃ち出した。

撃ち出したタイミングが一緒だったからか、画面中央でぶつかり弾けて消えた。

お互いに撃ち出した飛び道具が消えると同時に次ぎの弾を撃ち出し、また画面中央でぶつかり弾けて消える。

三度、四度と繰返し、お互いにまだ動かない。

相手の男は大吾に対してかなり怒りの感情を持ちながら、チャンスを待構えることが出来た。

それは攻撃のタイミングでまた台を蹴って一度でも有利になれば勝てると考える余裕があるからに他ならない。

対して大吾は攻込めば勝てないことを前の戦いで理解している為、全神経を相手の行動に注ぐ必要があった。

その為、離れている現状は大吾に取っては休憩にも等しく、そして休憩は長く続いて欲しいと思うもの。

撃合い続けること自体を嫌がりはしない。

七度、八度、九度、十度。

ひたすら繰返される撃合いは見ている者を飽きさせてしまう。

当事者などは緊張感などから飽きることも無いが、見ている人たちは何を考えやっているか等分らないし、無責任に攻めろとか言出す。

そしてそれが返されると操作が悪いと言出すものだ。

相手を崩せないと思うから無理に攻込まないでいるものを見ているだけの人間が口出しして良いことなど無い。

所謂操者の判断、現場の判断が最優先されることだ。

相手の男は大吾がウィンドウショットを寸分狂い無く撃ち続けるのは誤算だったのか、苛立ちと焦りがより高まっているようだった。


「そろそろ動くかしらね、あの男」

「攻込んでくれば大吾君の方が有利だから有難いね」

「いえ、そうとも言切れないわ。実際大吾さんの眼だけが頼りだなんて、普通のプレイヤーだったら勝てる、だなんて思わないわよ」

「でも、木辛は思うんでしょ」

「ええ勿論。だって、私が育てている大吾さんなのだから」


十七度目にもなる撃合い後、ライガは前ジャンプをしてウィンドウショットを避けながら前へと進み始めた。

痺れを切らしたと言うことだ。

待ち戦法は見ている人間もつまらないと感じるが、やっている側も緊張感を持ってやっていても繰り返していれば飽きてくる。

堪え性が無いと出来ない戦い方でもある。

ライガのように様々に対応するタイプのキャラは様々な戦い方が可能な為に待ちもある程度出来てしまう。

が、堪え性が見るからになさそうなこの男にしては持った方だと思うが、やはり先に動いたのは相手だった。

まだ距離があるので1度の前ジャンプで間合いが無くなることはないのでウィンドウショットを撃って牽制を続けた大吾だが、違うのは撃った後にレバーを真後ろに倒し始めたことだ。

撃ち合うと言っても前にコマンドを入れるタイプのライガに対し、後ろに貯めて撃つシュウ。

距離を離そうとしているのだろう。

実際、ライガは雷撃刃で対応をし始めたのだが、少しずつシュウとの距離が開き始めた。


「ちっ!」


相手はイライラしているのが筐体を挟んでいても大吾まで伝わって来た。

が、彼は気にも止めていなかった。

大人としての余裕なのか、そう言う性格なのか、萎縮することなく対応をし続けた。

お互いガードさえしていないので、ライフは満タン同士。

タイムアップになればドローとして再戦となってしまう。

しかし、ポイントの移動は発生してしまうし、戦績は残ってしまう。

ドローであっても高いポイントの人間が低いポイントの相手にポイントが移動してしまうのだ。

勝ち負けに比べたら少ないポイントだが、ポイント差が広いと多くのポイントを持ってかれてしまう。

高い側に攻めさせる、動かさせる為のシステムだ。

消極的なことは戦術でもあるのだが、やはり推奨はされていないものなのだ。

時間だけが進み、お互いには飛び道具を撃合うだけではお互いにライフは少しも動かない。

そうなればドローとなり、再戦。

相手はかなり苛々が溜っているらしく、歯ぎしりをしているようだった。


「そろそろ相手の痺れが切れそうね」

「でも攻められた時にダイゴ君は対応出来そう? オレとやってる時は比較的投げ放題な印象だったけど」

「それは彼が投げに未だに馴れて無いだけよ。それに通常投げは全然していないわよ、あのクズ」

「呼び方が辛辣だけども今回はそれには賛同するしか無い。そう言えば、投げキャラじゃない人って一定レベルまで行かないと攻撃だけで組立てようとする人多いもんね」

「あのクズたち、多分初狩を繰返してポイントを貯めた口よ。攻め方が中下の二択だけの単調だったもの。同レベル帯との対戦経験自体少ないんじゃないかしら?」

「そうなると、負けたオレとか物凄く恥ずかしいな」

「ええ本当に。あら、何で何も被らずにここに起って二酸化炭素を吐出しているのかしら? 地上18mぐらいからジャンプした方が良いんじゃ無いかしら?」

「自殺しろと!? 犯罪だからね自殺の強要は!?」

「強要? ただ提案しているだけであって選ぶのは貴方じゃない覇王。まあ、何を選ぶべきかは重々分っていると思うのだけれど」

「完全に苛めだからねそれ!?」

「嬉しいでしょ。ほら、お礼言いなさい」

「ありがとうございます!」


そんなやり取りの間も2人の視線は画面から外れず、そして画面の2人も飛び道具を出して打消し合っている。

ライガが少しずつ前ジャンプを混ぜて距離を詰めてきているが、まだお互いの攻撃が届く範囲にな至っていない。

しかし、ジャンプ攻撃が届く範囲へと入り込み始めた。

シュウの後ろ溜めも後ろでは無くしゃがみながらに替り、いつでも迎撃してやるという意気込みを感じさせる。

ふいにライガが前ジャンプをして距離を詰めた。

反応出来なかったか、それとも見た上でやらなかったのか、シュウはウィンターソルトキックを使わず。

そしてライガもジャンプ攻撃を使わずに着地をして至近距離での飛び道具撃合いとなった。

お互いが飛び道具を、雷撃刃とウィンドウショットを打出せば、お互いの手が触合いそうになるような近さだ。

だが、これだけ近くても出の早い攻撃では届かないし、遅い攻撃では飛び道具の方が先に自分に当ってしまう。

殴り合うにはまだ少しだけ遠い間合いだ。

ただし、ジャンプして相手の飛び道具を超えれば確実に相手に攻撃を当てられる距離でもある。

お互い最速で飛び道具を撃ち出しているが、次の瞬間にはジャンプして襲いかかってくるかも知れない。

緊張感とプレッシャーが2人に重くのしかかる。


「時間も無いから、ここで当てた方がタイムアップ勝ちかしらね」

「うわ、オレだったら堪えられずにジャンプしちゃうよ」

「躾がなってないわね。目の前に食べ物を置いて3日ほど強制的に我慢させる躾、してあげましょうか覇王?」

「3日飲まず喰わずとか死んじゃうから!!」


由貴の言葉が終ったと同時にライガが飛上がった。

それは垂直に飛上がっただけの、前進をしないジャンプ。

この微妙な距離では釣られてシュガーソルトキックを繰出してもガードする余裕があり、無防備な姿を晒させる手段。

ただただ攻めるだけじゃない、と相手の男は自分のプレイを見せ付けたのだ。

いや、見せ付けたつもりでいただけだった。


「よく見てる、って相手にすると本当に嫌よね。折角釣ろうとしてるのに、微動だにしないんだもの」


シュウは構わずウィンドウショットを、落ちてくるライガ目掛けて放った。

ガードは出来る、とは言えケズリが発生してしまうのでこれでお互いのライフは対等では無くなった。

攻撃がヒットした訳でも無いので大きく時間を使った訳では無い。

2〜3秒程度のことであるが、残り時間が20を切った後の2〜3秒はかなり大きい。

全く釣られなかった大吾は機械作業のようにウィンドウショットを連打していく。

ライガもガードした後に雷撃刃で応戦するが、ガード硬直後となると飛び道具は自分よりにギリギリ迎撃しているのが精一杯だ。

それが近いせいもあって一瞬でも遅れたらヒットしてしまう最悪な状態に陥ってしまっている。

これではジャンプしてもジャンプ移行フレームに引っかかってダメージを受けるし、またガードをしたらケズリが発生して逆転には確実に攻撃を当てなくてはいけなくなる。


「この葛藤を一瞬で片付けられないから、その程度止まりなのよ」

「木辛ならどうするのさ?」

「ガードして整えるわ。だって、どの道攻撃は当てるつもりなんだから、今更ケズリが1回増えることなんてリスクだと思えないわよ」

「確かに。最初から当てる気なんだから、ケズリを意識するのはお互いが満タンの時ぐらいだよねぇ」


判断が遅れていく相手は最速で出すことにも失敗し、ウィンドウショットを相殺するのに失敗して一度ヒットしてしまった。

起上がりに合わせてウィンドウショットをシュウが放つことで再度ケズリが発生。

この頃には残り時間が5秒となっているが、攻撃が当って後ろに吹飛ばされた関係上、ジャンプ1回ではシュウまで攻撃が届かない。

棒立ちの相手ならまだしも弾幕を張る相手に飛込んだ所で5秒ぐらい直ぐ起ってしまう。

ある程度対戦に馴れている者ならば、焦るか、諦めるか。

選択にさえ迷いを生じさせればそれはもう、無駄な足掻き。


「くそがぁぁぁ!!!」


叫ぶと同時にウィンドウショットを避けて前方へとジャンプし、大きく足を突出したライガ。

叫ぶことで相手に一瞬でも怯ませたり押し損ねを狙ったのかも知れないが、大吾は淡々としゃがみから立ちガードへ切替えて攻撃をガードする。

続けて着地後にしゃがみキックを繰出したライガだったが、それもらライガに一瞬だけ遅れるだけでシュウもしゃがみ、攻撃をガードする。

立上がったライガはそのまま腕を振って殴りかかるが、中段では無く上段攻撃なのでしゃがんだままでもガードが可能なシュウは起つことさえせずに全てを守りきった。


「っざっけんなよなぁ!」


時間もほぼ無い中、ライガは最後に大きめに仰け反ってからパンチを打下ろし気味に放った。

中段攻撃なのでしゃがみガードではガード出来ないが、大きく仰け反る時間のせいで出来た隙間の時間。

大吾は逃すことなく、このタイミングでウィンターソルトキックを繰出した。

ライガの当り判定が発生する前に、攻撃を当て返す。

割込み、と呼ばれる芸当だ。


攻撃がヒットしたタイミングでタイムアップが宣言され、勝者として大吾の操るシュウが勝利を受けてニヒルな笑みを浮べている絵に変った。


「お、おおぉぉ! ジャイアントキリングじゃんか!」

「あら、英語を介するだけの知能があったなんてびっくりしちゃうわ」

「知った理由は漫画だけどね! 凄いよダイゴ君! 勝てちゃうなんて!」

「‥・・・・え、もうタイムアップする時間だったの?」


大吾はキョトンとして画面を見ていた。

初心者、いや初級者でもゲージまで見れても時間まで確認しないプレイヤーは多い。

確認しない、と言うよりも確認している余裕が無いのだ。

だからこそ、大吾は試合が終るまで戦っていたことに気付いていなかった。


「まあ、上々よ。派手な逆転が多く無いこのゲームとしては、大吾さんの戦法は正しいわ。五月蠅い人もいるけれど・・・ ほら」


そう言って梓は前方を、筐体の先を顎で指した。

相手の男が凄い形相で睨み付けている。


「サムイ戦い方やってんじゃねぇぞ負け犬!! そんなスタイルやるならゲームやんじゃねぇよ!! 楽しく無いだろうが!!」

「楽しく無いなら、辞めれば良いんじゃ無いか? 対戦なんだから、相手を喜ばす必要は無いだろ? と言うか負けたのそっちだし」

「あぁ!? ゲームなんだから楽しく無いと意味ねぇだろ!!」

「自分だけが楽しければ良いいってのはただの我儘よ、お猿さん」


梓は口元を押さえながらからかうような口調で割って入ると目を細めて相手を見た。

それから鼻で笑う彼女に激怒している。


「まだ一戦あるだろうが! お前ヤルだけじゃすまさねぇ! 2度と太陽拝めなくしてやる!」

「あらあら物騒ね。そしたら100くれるかしら? 負けた方が支払うんでしょう?」


物怖じもせずに梓はマジシャンがするかの様に人差し指から順々に、流れる様に指を曲げて行く。

滑らか過ぎで視線がその手へと集まってしまうぐらいだ。

パッと見は普通の動作なのだが、何故かエロスまで感じさせてくれる。

梓も分っていてやっているのだろう、相手もさっきまで威勢良く怒鳴っていたのにたじろぎ、眼が泳いでいる。

まだまだ若いんだな、と大吾は思いつつ、梓と席を入れ替った。

大吾は振向かなかったが、コインの弾く音が聞えたので観念してお金を渡してきたようだ。


「お疲れダイゴ君。いやー、まさか勝つ何て! 大金星だよこれ」

「ありがとう覇王さん。っつてもまだ実感無いけど。タイムアップだったし」

「それでも勝ちは勝ち。いやー、経験者が不甲斐なくて申しわけ無いよ」

「嬉しい限りだけどさ、何かもう勝った気でいない? まだ梓さんが」

「木辛は負けないよ。それこそ全国レベルの猛者が相手じゃないと。そう言う世界で戦っているような人なんだから」


まさしく言葉通り、圧倒的というのはまさにこのことだった。

本来、技をガードすれば削りが生じる為、パーフェクト勝利を収めることはそう多くはない。

適当に技させ間合で出せば削りでパーフェクトにならないからだ。

プロを相手にしても、このゲームであれば例え大吾だってパーフェクトにはならないだろう。


「・・・・・・えげつな! 二ラウンドダブルパーフェクト!? ちょ、ダイゴ君これは流石にあり得ないというか、凄いと言うか!?」

「あら、唯一負けた雄犬が発情期なのかしらね。耳障り過ぎて踏みたくなってくるわ」

「唯一負けた身だから言返せないけど、木辛に踏んで貰えるんだったら喜んで!」

「そう、なら寝そべって。ああ、大吾さん。そっちの重たそうな長椅子をその上に置いてくれないかしら。ええ、その犬の上に」

「足で踏んでよ!?」

「いや踏むのを辞めようか覇王さん・・・」


相手の男は顔が真っ青だった。

少なくとも相手は梓が強いことは知っていた。

なので3人の中では1番弱いの当てていた、捨て大将戦法を選んでいたのだが、基本的にこの3人の実力は団子状態。

誰が1番最後でも対して変らないのだ。

捨てていた、とは言えここまでのワンサイドゲームになるとは誰も予想しえなかったし、考えもしなかった。

大吾は試合を見ていて震えた。

牽制をし合っていた所、まるで分っていたかのように相手のモーションが少しだけ長い攻撃に合わせたしゃがみ蹴りからのコンボ。

相手を画面端にまで追いやってからは起き攻めを繰返し、スタンした相手には最大コンをぶち込む。

やっているのはそれだけにも関わらず、ガードさえせずに完封をしたのだ。


「凄いな、梓さん」

「あら、大吾さんもこれくらいやって貰わないと」

「ここまで強くなるのにどれくらいかかるのさ?」

「さあ。やってたらいつの間に、かしらね」


答える梓の笑みはいつもの余裕タップリの小悪魔的な悪戯っぽい笑みでは無く、意外と嬉しそうな感情が漏れ出ている。

パーフェクトは難しい。

それを両方のラウンドで行ったとなれば、相手との落差があったとしてもプレイヤーとしては嬉しい部分でもあるのだ。

梓ぐらい強ければチームを組んでくれる人も多いだろうし、容姿も美少女と呼んで差支え無く、家柄もゲーム業界から見てお嬢様。

これならば引く手数多だろうに何で素人である大吾と組んだのかは、大吾本人には全く理解出来なかった。

出来なかったが、彼女が嬉しそうに微笑む笑顔を見ていると、これを守れるだけは強くなっていいかもな、と思い始めていた。

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