第67話:五七五七七で「~話」

 若手歌人の短歌を集めた「桜前線開架宣言」という本に石川美南という人の短歌があって、五七五七七の最後がいずれも「話」になっている連作があった。

 こんな感じである。


 ↓


「発車時間を五分ほど過ぎてをりますが」車掌が語る悲恋の話



 乱闘が始まるまでの二時間に七百ページ費やす話



 コーヒーを初めて見たるばばさまが毒ぢや毒ぢやと暴るる話 



 上官が独り占めした乾パンを闇夜にまぎれ盗み出す話



 捨ててきた左の腕が地を這って雨の夜ドアをノックする話

  


 咽喉に穴をあけた子どもがひうひうと音たて歩く砂漠の話



 眠る犬のしづかな夢を横切りて世界を覆ふ翼の話


  

 大空に雲が記してゆきたれど真偽のほどはわからぬ話


  

 ↑


 これらはいずれも、短い小説の梗概のようでもあり、幻想的、ホラー的な味わいがあって私の好みに合っている。以前読んだ飯田茂実の「一文小説集」よりもさらにコンパクトである。


 最近あまり新しいアイディアが浮かばないのだが、考えてみると自分も以前は自作の短歌を元にしてショートショートを書いていたこともあったくらいである。この形式ならちょうどその中間のような感じでもあるので、やってみたくなった。


 ↓



 主観的には縮小し客観的には巨大化す醜男の苦い涙の話



 唐揚の中から出てきた巻物を読んだら世界が消えてる話



 写真機に閉じ込められてもそれなりに文明を築く獣の話


  

 わかった人は手を挙げて「キャズム!」と叫ぶ教室に転校生が来る話



【一等賞は絞死刑 二等は十億 宝くじ】大好評の国家の話


  

「天辺にアポロチョコを乗せい」と言ったら奴隷が実現しちゃった話



 家康にそっくりなのに人知れず年を重ねる老婆の話



 年末に小声の女子を集めては第九を歌わす教師の話


  

  観覧車しだいに速度を上げてゆき最後は中身がバターとなる話



 ↑


 本家には敵わないが、五七五七七の音数に沿うように調節しているうちに、思いがけない言葉が出てくることがあり、多少の手ごたえを感じる。

 やりやすいので、興味のある方はチャレンジしてみてほしい。

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