第23話:「タイトルだけコンクール(9月)」の総評および結果発表
「タイトルだけコンクール(9月)」の結果発表です。
今回も60作ほどのエントリーをいただき、有難うございました。
前回の総評で、タイトルについて書きたいことはほぼ書き尽くしたのですが、今回あらためて、
「かつてあった作品と似てしまっているタイトル」
について考える機会が多くなりました。
結論を書いてしまうと、先行する有名作品に似たタイトルを思いついてしまって、仮に気付かずにそれを使用したとしても、良し悪しや損得は半々といったところです。
悪い点としては、どうしても知名度の点で勝てない上に、二番煎じのような印象を与えてしまう点、意識的な引用でなければ作者の無知がばれてしまう点、安直な印象を与える点などです。
「異世界の幽霊探偵」
「ローレライの鱗粉」
「くるいざきピンク」
「あ」
などは、パッと見て、
「幽霊探偵」シリーズ
「終戦のローレライ」福井晴敏
「狂い咲きサンダーロード」石井聰亙
「ぺ」谷川俊太郎
を想起しました。
しかし、似たようなタイトルがあったとしても、先行する優れたタイトルを本人が全く知らなかったのであれば、「ほぼ同じタイトルを思いつけた」という力があるわけで、見方によっては優れた創造性があるといえなくもないです。
また、タイトルに関しては後発だから絶対にダメ、という厳密なルールがなく、さらに外見からは「引用」「借用」「盗用」「リスペクト」「もじり」「無知による事故」「偶然の一致」の区別がつきません。
ほぼ同じタイトルでも、時代やジャンルが異なれば通用する可能性はかなり高いので、たとえば昔のラジオドラマで映画化もされた「君の名は」と、2016年の「君の名は。」を比較してダメだという人はさほどいないと思われます。
SF短編「世界の中心で愛を叫んだけもの」が「エヴァンゲリオン」に引用され、その後また「世界の中心で、愛をさけぶ」に流用されたようなケースもあります(こうなると初代と二代目と三代目のような関係ではないかと思われます)し、「女王陛下の007」「女王陛下のユリシーズ号」「女王陛下のピチカートファイブ」など、定型のように引き継がれて長く使用されるタイプもあります。
ですので、「似たタイトルが既にありますよ」というコメントがついている方は、とりあえずそのままのタイトルでも、露骨な盗作でない限りは「それなら中身で勝負だ」と考えていただいて構いません。最初に書いたように、是非や良し悪し、損得はほぼ半々といったところです。
かつて「村上春樹」は、「村上龍」と「角川春樹」を足したような名前だから改名した方がよい、その方が本人のためだ、とする意見があったそうですが、いまや「村上春樹」という名前は世界的なブランドになっていますので、気にせず前を向いて精進してください(ここまでの説明で挙げられているタイトルは「残念賞」あるいは「ニアミス賞」としてお考え下さい)。
ここからは優秀あるいは問題作といったゾーンです。
「のろまとう」「愛するズペペクニョン」
この二作は同じ方です。先に「のろまとう」があって、ひらがなでこのタイトルだと動詞に見えますね。「呪う」「つきまとう」といった言葉を連想しやすいので、そういうものかと思っていましたが実際は違っていました。ある程度はタイトルに誤解・誤読の入る余地も計算しないといけないのですが、誰にとっても難しい課題といえます。
もう一つの方と合わせて「のろまとうズペペクニョン」とすれば「造語+造語」でさらに危なっかしい筈ですが、かえってその方がバランス的にすっきりするようにも感じられました。何とかホラー大賞受賞作!「のろまとうズペペクニョン」!という本があったら、とりあえず書店で手にとって見ることは確実です。
「機心のユートピア」
パッと見た感じ「機龍警察」シリーズを連想しました。
なぜかというとHNが「桐生龍次」様なので。
よりによって「桐生(きりゅう)」で、そのうえ「龍」次です。
先月も参加された方なので、二ヶ月かけて伏線を張って、落ちがこれか??と一瞬思いましたが、どうも偶然のようなので「このニアミスがすごい!大賞」、略して「このミス大賞」を差し上げます。どこかで聞いたような名前の賞ですが、これも偶然なので追及しないでください。
「どら焼きシンチレーション」
「ブブント・モリ」
この二作は別々の方です。タイトルだけでは少々弱いものの、いずれも説明が軽妙で面白そうだったので印象深く、本編を読みたいという気持ちになりました。
原則として本コンクールは本文はまったく書かなくて、白紙でも構わないのですが、本文が短いながらもサービス精神に溢れており、スーッと読めて楽しい印象を与えてサッと終わっています。そういう文章力があるというのは羨ましいかぎりで、説明だけでも魅力的な「期待もたせる賞」といったところです。
続いて、
銅賞は!
二作品あります!
どーん!
「水銀の上のモルフォ」!
これはクリーンヒットという感じで、綺麗にまとまっていますね。
第一印象がよくて優等生的なタイトルです。
「オムニバス形式の幻想小説の一編として、これから書き下ろそうと思っている中の一つ」ということなので本編にも期待がかかります。
そして、
「二十四回で彼女(あいつ)を逃がすゲーム」!
こちらは「彼女(あいつ)」という、表記として思わせぶりな謎がタイトルに入っている点や、ゲームそのものの説明でポイントを稼ぎました。
「二十四回」という条件が入っているのも分かりやすいと思います。こういう一種の制約があると、読む側は読みやすいんですよね。書く側は大変そうですが、とにかく興味をかきたてられるタイトルでした。
続いて、
銀賞は!
ドドーン!
「エレベーターで巡る異世階ガイドブック」!
「メカニック・グラップリング・クラブ」!
以上の二作です!
「エレベーターで巡る異世階ガイドブック」
は、「異世界」でなく「異世階」という部分で「?」と思わせておいて、きちんと理由があるという、広大さと軽さを兼ねているタイトルです。
長いようですらっとした、シンプルな佇まいですね。
この「世階」を知りたい、行ってみたい、読んでみたいと思いました。
続いて、
「メカニック・グラップリング・クラブ」!
は本文が一切なしで、
「残酷描写有り」「暴力描写有り」「格闘技」「強化外骨格」「グラップリング」「青春」というタグと、
「心を燃やせ頭は冷やせ、具足纏えや若人ども。」
というキャッチコピーが手がかりの全てです。
その潔さとセンス、スピード感と熱気、そしてタイトルに「ク」や「グ」や「ブ」や「プ」が乱舞する語感の良さなど、いずれも見事です。
最小限の「タイトルだけ」で、ここまで表現できるという凄さ。
あえて難をいうとしたら「グラップラー刃牙」「ファイト・クラブ」を想起させやすいかなという程度で、変える必要はないのでぜひ本編に取りかかっていただきたいです。
さあ、
いよいよ、
金賞は?
……残念!
今回も該当作はなしです!
という訳で皆さんお疲れ様でした!
また来月も、できれば上旬にお会いしましょう!
その日まで、さようなら~!
最後におまけの一言を。
前回おすすめしたブルボン小林による「俳句ホニャララ」もお勧めします。
http://www.likethis.jp/author/bourbon-kobayashi
とりあえず連載中ですが、バックナンバーをすべて読めば、あなたのタイトル力(りょく)アップ間違いなしです。
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