第63話 切迫
宮中近くに転送を終えたイオリと小村丸だったが、今回は連絡も無しに訪れたのだからそれなりの理由を考えなければならなかった。
「ふむ、妖刀の保管状況について打ち合わせの体で行きますか。突然来た理由は妻の御墓参りの帰りと言う事で良いでしょう」
理由は、どうでも良いのだ、不意打ちの訪問こそが今回の目論見であると小村丸は考えていた。
「じゃあ、先生、早速参りますか」
イオリは門の呼び鈴の紐をグイと引いた……
りんりんと鈴が鳴りやがて門下生らしき者が現れた。
奥の座敷に通された小村丸とイオリは、水無月師範と対面していた。水無月は、同然、武帝セツナが倒されたとは、露ほども思っていないのだろう。落ち着き払った態度で小村丸に話し掛けた。
「それで小村丸先生が突然来られた理由は一体何なのでしょうか?」
「連絡もせず、誠に申し訳ない。実は家内の墓参りもあり、近くに参りましたので良い機会だと思い相談に伺ったのですよ」
「ほう、そうでしたか、それで相談とはどのような内容で」
「ええ、まず妖刀の件なのですが当方では2本の妖刀を保管しております。一旦宮中にお預けすべきか否かを検討しておりまして今の保管状況を拝見させて頂けると助かるのですが」
「そ、そうですか、では早速準備させましょう」
「水無月師範、準備など必要ありません。保管室にご案内願いますか? そこで兄オビトの封印状態も一緒に確認させて頂きましょう」
小村丸は、わざと圧を掛けたような物言いをした。水無月は、小村丸の見据えた眼に気圧され妖刀の保管場所に渋々案内をする事になったのだ。
妖刀は、屋敷の地下室に封印されており以前イオリとミツキが来た時には6本の妖刀があるはずのところに僅か2本の妖刀しか存在しなかったのだ。
地下室には小村丸、イオリ、水無月と宮中師範代補佐の二ノ宮の4名で入ることになった。
「小村丸先生、どうぞご案内致します」
「済まないな、二ノ宮」
鍵のかかった地下室の扉を開けると濃い霊気が流れた。扉は中からも鍵を掛けられるようになっており、皆が地下室に入った後、二ノ宮は扉を閉めて鍵を掛けた。
「二ノ宮、小村丸先生がいらっしゃるのだから鍵を掛ける心配は無い。扉は開けておきなさい」
水無月は、折角掛けた鍵をわざわざ開けさせた。
小村丸の申し出に何かを感じ取ったのかも知れない
地下室の通路を進み妖刀の保管場所に着いた。
水無月は、小村丸達の方を向いて説明を始めた。
霊符を貼られた妖刀が2本の並べられていた。
「今ここに妖刀は2本あります。後の4本に関しては十霊仙の武帝様にお預けして封印し直して頂いております」
なるほど水無月師範は、なるべく矛盾の出ないように、ここで武帝の名を出したのだなとイオリは思った。
「武帝様とはかなり親しくされているようですね」
小村丸は、水無月の反応を確かめるように言った。水無月は、少し怪訝そうな顔をしたのだが言葉を選びながら答えた。
「やはり、十霊仙でもトップに立たれているお方ですので何かと助言を頂く事もあり、親交はございます。それに元は私の弟子でもありましたので何かと相談し易いと言う事もあるのでしょう」
小村丸は水無月の言葉にふむと考えたような顔をした後、さらりと切り出した。
「それで霊力研鑽会が妖刀を持っていたのですね、水無月師範」
小村丸は、水無月を追い詰める事にしたのだろう、更に続けた。
「武帝様は、霊力研鑽会を運営されていた、そこで妖刀を門下の者に与えていたようなのですよ」
「……小村丸先生は、一体何がおっしゃりたいのですか? 武帝様がそのような事をされる訳がありません」
「ほう、霊力研鑽会より取り戻した妖刀が元々宮中に保管されていた物だとしてもですか」
小村丸は、水無月の眼を見ながらハッキリと言った。
「シラを切るのはやめなさい! 水無月師範、私は、武帝セツナと霊力研鑽会を潰すつもりなのです」
水無月は、手に隠し持った笛を吹いた。恐らく影達に伝える為なのだろう。ここは、口封じにはおあつらえ向きの場所でもあった。
「ふふふ、知りすぎたようだな、小村丸」
水無月は、口元を歪めいやらしく笑った。
「悪いな、水無月師範、あいにく鍵はかかったままなんだ」
イオリの言葉に水無月の顔から先程までの余裕の笑みが消えた……
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