第40話 挑発
「たのもっ」
「たのもーーーーーーっ」
ミツキが、伸ばして言ったり、短く言ってみたりしていると中からメンドくさそうに人が出てきた。
「当道場に何か用か、お前達」
随分、ぶっきらぼうな言い方の奴が出てきたものだ。格好からすると門下生のひとりだと思うのだが、無限流の品位は、かなり落ちているのかもしれない。
「当方、剣術修業中の身でイオリと申します。研鑽の為、最強と名高い無限流の稽古を拝覧させて頂きたくお訪ね申し上げました」
剣術修業の剣客など珍しくもないのだろう、ましてやどこの馬の骨かもわからぬような者の話が通るはずもない。
「悪いが、貴様のような者は腐るほど訪ねてくる。いちいち相手をしてはいられないのでな」
その男は、予想通り俺達を追い返そうとして威圧的な物言いをした。
「せっかく氷堂様に紹介頂いたのに残念だね。イオリっ」
ミツキが、わざと男の耳に入るような声で言った。
「そうだなぁ、氷堂様に会ったら少し文句を言わないとな」
俺達のやり取りを聞いていた門下生の男は、途端に動揺しだした。
「ち、ちょっと待ちなさい、貴殿らは、氷堂師範代のお知り合いか?」
さっきまでの態度が一変して別人の扱いになった。かなりチョロそうだ。
「いかにも氷堂様には、剣を交えて稽古をつけて頂いた事もございます」
大体合ってると思う、倒しちゃったけど。
「ひ、氷堂師範代のお知り合いとは、とんだご無礼を致しました。ご見学であれば、どうぞご案内致します」
男は、急に慇懃な対応を見せるようになった。
氷堂効果は、絶大だったのだ!
「ねえ、イオリ、氷堂は門下生から、かなり怖がられていたのかな」
ミツキが、小声で俺にささやいた。
「無限流の師範代だからね。俺でも怖いよあんな奴」
俺は、氷堂のいやらしい剣術を思い出した。
「だよねっ」
ミツキも同門をためらいもなく斬り殺す氷堂の事を思い出したのだろう。
道場に案内された俺達は、隅に座らさせた。案内してくれた男は、奥に座っている師範らしき人物に話しかけに行った。
師範らしい男は、俺達を見て少し頭を下げた。俺達もお辞儀を返したのだがミツキは、頭が床に着くほどに深々と礼をした。
まるで土下座だった。
「おいっ、ミツキ、それじゃあ謝っているみたいじゃないかよ」
「謝っているんだよ、先にね」
「意味が、わかんないんだけど」
ミツキの考えている事がなんなのか悪い予感しかしない。
「今からあの師範を倒すからだよ」
「誰がだよ、ミツキ」
「ミツキ流師範代、佐々木イオリがねっ」
なんだよ、ミツキ流って怪しいだろう!
「剣を交えれば、心が通じ合うはず、ユリネさんが言ってたよ、イオリっ」
俺は、ユリネと何度も剣を交えたが未だに通じ合う気がしてないんだが……
無限流の稽古は、激しい。今は中央で少年剣士と年配の男が木刀で打ち合いをしていた。明らかに実力差があるのは素人目にもわかった。
少年剣士は、懸命に攻撃をしのいでいたが、年配の力強い一撃で木刀をはね飛ばされてしまった。
勝負ありだ、通常の流派であれば。
年配の男は、丸腰の少年にさらに一太刀浴びせようとした。誰も止める声はないと思われたその時、
「そこまでーーーーーーっ」
キンキンと響くような大きな声がした。
ミツキが黙っている訳がない。
道場内の皆が動きを止め、俺達を見ていた。
「代わりにミツキ流、佐々木イオリがお相手申す」
ミツキのセリフに俺は、大きくため息をついたのだった。
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