第38話 決意

「ミツキ」

「はい、お父様」

「ミツキ」

「なんでしょう、お父様」


 小村丸先生とミツキは、朝からこんな調子だった。完全にデレていたのだ。

 苦笑する俺に、門下生筆頭のクダンが、まあまあと言った様子で目を合わせてきた。


「あの先生、どうしてミツキが、自分の娘だとわかったんですか」

 俺は、親子の無意味な呼び掛け合いを断ち切る為、敢えて心を鬼にして言った。

 決してウザかった訳ではない、決して!


「イオリ殿、そんなにウザがらないで下さい」

 未来を見通す者、小村丸であった。


「ミツキが娘だとハッキリしたのは、昨日、キリハと話をしたからですが、その前に約束をしていたんですよ」


「約束ですか?」

 小村丸の言葉に俺は、問い返した。


「私達の子供が生まれたら必ずこのペンダントを持たせるっていう約束をね」

 そう言って小村丸は、懐からペンダントを取り出した。


「あたしのペンダントと同じだよ」

 ミツキも懐からペンダント出して小村丸の物と見比べていた。


「雑賀師範は、ミツキの事を私にも隠していたようだ、ただキリハが死んだ事だけは、手紙では伝えられてきたのです」

 小村丸には、雑賀師範の居所はわからず、ミツキが、初めて訪ねてきた時にもその事は、考えないようにしていたのだが、ペンダントを見た時、やはり堪え切れないものがあったようだ。


「あたしを育ててくれたお父さんは」


「おそらく、雑賀師範の信頼できるお弟子さんのひとりだと思うよ。私は、その人がミツキを育ててくれた事を感謝しているんだよ」

 小村丸は、優しい顔をしてミツキを見た。


「うん、そうだね」

 思い返すようにミツキも頷いた。


「先生、妖刀の件ですが、ミツキの小刀は別としてハルマと氷堂の使っていたものは、宮中に元々封印されていた物なんですか」

 俺が、回収して来た妖刀が、それ以外の物であれば、厄介な話にはなる。いったいどれだけの妖刀を集めればいいのかキリがなくなるだろう。現にミツキの妖刀は、宮中の物とは関係のないものだ。


「ハルマの妖刀は、紅影、氷堂の妖刀は、水鏡、いずれも宮中で封印されていた物です。ですから残り2本を回収出来れば元の妖刀は揃う事にはなりますが……」

 小村丸先生は、煮え切らない含みのある言い方をした。


「やります!」

 誰だ!ミツキだった!


「お、お前、一緒に行くつもりなのかよ」

 俺は、もうミツキを危険な目に合わせるつもりは、なかったのだが言い出したら聞かないことも良く知っている。


「お父様、どうかお願いします、何かあってもイオリが、あたしを守ってくれますから」


 小村丸は、しばらく考えていたがやがて口を開いた。


「わかりました、ミツキを信用しましょう、イオリ殿が、命に代えても守ってくれることを」

 いつの間にか、俺が "一緒に連れて行きたいんですよ、お願いします、お父さん" と頼んだような流れになってるじゃん!


 案の定、微笑みながら言った小村丸先生の目は、笑っていなかったのだ。


 ◆◇◆◇◆


 座敷に案内されたネネは、一晩明けて今は、ひとり、占いの石を磨いていた。

 イオリ達は、小村丸先生と話があるようでまだ戻っては来ていなかった。


 やっぱり、重要な出会いがあると言う自分の占いは、間違っていなかったようだ。


「ふふふふっ、おもしろいことになりそうね」


 ひとりごとを言ったネネは、また石を磨きだすのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る