第30話 幻影
イオリは、女が気配も無く近くに現れた事に驚いていた。決して達人の域に達しているわけでは無いがそれでも人の気配が読めないほど遅れを取っているつもりは無かった。
ただ恐れはなく、純粋な疑問だけがイオリの頭にあった。
「いったいお前は、誰なんだよ」
「当てて頂ければ、嬉しいのですが」
やれやれ、どうも謎かけの好きな女だな
「零度だと思うんだがそれが答えじゃないよな」
「はい、イオリ様、私は確かに零度と呼ばれていたことはあります。」
今の言葉で女は、自分が人間ではないと認めた事になる。
なら、答えは、ひとつしかないよな。
「おさひめだよ……な」
「ばれたかっ」
軽いよ、おいっ、いいとこじゃん!
「そうです。あなたのおっしゃる通り私は、妖刀のよりしろとなった長姫です」
だと、ミツキと同じような状態なのか…
「この剣は、もはや私と同化しております。実際には、私自身とも言えるでしょう」
「妖刀が発現した時でなくとも元々よりしろであった私は姿を表すことができ、逆に発現した時にも私の姿にイオリ様が変わることもないのです」
わかった……とは、言えないが状況は、理解できたしそれで充分だと思う。
「なぜ、あらためて姿を見せたんだ」
「イオリ様にお願いがございまして……」
篠宮からミツキの妖刀を預かった俺達は、小村丸の屋敷に帰る準備をしていた。
「ええーと、イオリっ、この人は誰だろう」
「そうだなあ、有名な霊界師だ」
「えっ、そうなの」
ミツキは、紙とペンを持っていた。
どんだけサインほしいんだよ!
長姫の事は、篠宮には、霊界師という事にしてあるが多分何か気付いているだろうとは思う。しかし篠宮は、黙って見送ってくれたのだった。
昼近くになって、俺は、どこか食事のできるところはないかと考えていた。
「イオリっ、なんかあの先生綺麗だよね」
ナンパ師、ミツキの血が騒ぐらしい。
妹にあった時もそうだったがこいつは、どうやら美人に弱いらしい。
お前も可愛い女の子なんだよ、ミツキ……
「なんて言う名前なんだろ、小村丸先生の知り合いって言ってたけど……」
「零度でいいよ、似てるし」
「零度先生か、術式教えてくれたりするかな」
ミツキは、零度れいどに聞きにいったようだ。
「先生が見せてくれるって、でも先生の格好ってなんかお姫様みたいだよねっ」
だってお姫様だからな……
「そうですね、あそこに池がありますね」
俺達は、池の近くまで移動した。
「一瞬ですからしっかり見ててくださいね」
零度は、ミツキに微笑みかけた。
なぜか、ミツキは、赤くなっている。
まさか、ミツキお前、そっち系か!
零度は、右手を上げた……
「えっ、うそだろ!」
池の水は、すっかり氷付いていた……
おいおい、ノータイムかよ!これってもう魔力だぞ!
ミツキは、混乱して身動きもしない。
あの小村丸ですら2秒は、必要な術式のはずだ。
我に返ったミツキは、池の方に駆け出した。
「すごいよ、コレ!」
まあ、ミツキが驚くのも無理はない
「さかな、大漁だよっ!」
そっちじゃないだろ、驚くとこ!
見ると見事に氷漬けになっていた。
とりあえず、俺達は、魚を焼いて食べたのだった。
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