第29話 巫女
篠宮は、苛立っていた。こんな敗北感は、初めてのことだった。ここ宮中では、年に数回、技能の試験がある。霊界師にとっては、技術の勉強の場でもあり、格付けを決める場でもあった。
すでに十霊仙である兄のオビトは、別としても同年代の弟、セイシロウには、ひけを取りたく無かったのだ。
もちろんセイシロウは、天才と呼ばれるだけの高い能力を備えている。しかし、それはオビトのような化物クラスではなく、あくまで人間の範疇の話だ。若くして霊界師になった自分も十分天才であり、セイシロウに届かない訳は無いのだ。
しかし、結果は、散々なものだった。篠宮が10秒で展開した術式をセイシロウは、わずか2秒で成し遂げたのだ。
"高速詠唱能力"これが小村丸セイシロウという男の天才たる所以であった。
憤慨したようすで廊下を歩いていると巫女姿の女が歩いてきた。宮中と神社は、古くから交流が深く巫女が客として尋ねてくる事は特に珍しい事では無かったのだが、篠宮の目はその巫女に釘付けになった。
その巫女は、恐ろしく美しかったのだ。キリリとした整った顔立ちに透き通るような白い肌、艶のある長い黒髪を背中で束ねていた。
互いが触れることができる距離まで巫女が近付いた時、篠宮は思わず話しかけてしまった。
「あなたは、人間なの?」
聞きようによっては、甚だ失礼な発言である
「それは、ほめ言葉と受け取っていいのかしら」
巫女は、動じるようすもなく答えた。
「面白い人ね、私は篠宮シグレ、あなたのお名前は」
「雑賀キリハ、宮下の神社で巫女をしているわ」
「雑賀?雑賀師範のお知り合いかしら」
「ええ、父のことをご存知で」
「私は、師範のできの悪い生徒ですから」
篠宮の言葉にキリハは、楽しそうに笑った。
気の合ったふたりは、その後交流を深めることになったのだ、お互いを名前で呼ぶほどに…
「ミツキさん、あなたのお母さんキリハは、とても霊力の高い人だったわ、あなたもそれを受け継いでいるようだけれど」
先ほどの座敷でミツキとイオリは、篠宮の話を聞いていた。
軽傷であった門下生は、無事な者の手当てに出ていた。
「ミツキが妖刀を抜いてしまったのは、俺のせいでもあると思ってますがこれからこいつは大丈夫なんでしょうか」
イオリが知りたいのはそのことだけだった。
「私は、大丈夫だよ。もとの姿に戻ってるし」
「だけどその間の記憶は、無いんだよな」
「う、うんそうだけど」
「小村丸先生に聞けばもう少し詳しいことがわかるかもしれないけど、そうね私の考えだとキリハは、よりしろを自分に変えさせたんだと思うわ。」
「そ、そんなことできるんですか」
俺は、驚いて聞いた。
「普通は、無理だと思うわ。だけどキリハは、普通じゃ無い霊力の持ち主ですからね」
もし、それができるならば霊力の高い者は、妖刀使いを乗っ取ることが可能になる。
例えば、それがオビトであったなら…
「篠宮先生、この妖刀私にいただけないですか」
「おいっ、ミツキ、ダメだって」
「妖刀に関しては小村丸先生の判断にお任せします、小村丸先生は、ミツキさんの……大好きな先生でしょうから」
イオリは、篠宮が何かいいかけたような気がした。
「あの、篠宮先生いま……」
「先生、宜しいでしょうか」
門下生の声がした。
入りなさいと篠宮は、告げた
「負傷した者の手当ても終わりましたのでそろそろお休みになられてはと」
「ありがとう、ご苦労様でした。私たちも休むことに致します」
「今日は、もう休むことに致しましょう」
篠宮は、俺とミツキに言った。
部屋に戻った俺は、ミツキのことを考えていた。ミツキは、戦う為に俺と旅してるわけじゃない。
小村丸先生に一度相談してみよう、そう考えて俺は目を閉じた。
「あの娘のことが心配ですか、イオリ様」
突然、話かけらけて俺は飛び起きた。
気配は、無かったはず。
驚いた俺のそばにあの女が座っていたのだった。
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