最後の証言
目覚めると午後の2時を回っていた。まだ疲れは残っているが3時間ほどぐっすり寝たので眠気はいくらか治まった。遅めの昼食をいただき腹も膨れたところで、一度事件がどうなったのか確かめたくて集会所へ向かうことにした。
集会所までの道を歩いていると男の人に話しかけられた。
「なあ、あんた昨日の刑事さんだろ」
どうやら僕が幸三郎氏の事件の現場について行ったのを見たらしい。否定する間もなく彼は続ける。
「本当に田島先生が犯人なんですかい?」
「いや、まあ、そうですね。状況的に見てそんな感じ…って僕は警察じゃなくてですね」
だいいちいくら私服警官でもここまでラフな奴はいないだろ、普通。しかしこの人は僕の話を聞いてないかのようにしゃべり続ける。
「うちの親父が刑事さんに話があるんです。来て下せえ」
ここでやっと話が途切れたので僕は自分が刑事じゃないことを説明して彼と一緒に集会所まで行くことにした。集会所へ着くと警察官たちが大忙しで働いていた。そんな中、郷原警部を見つけ状況を尋ねるとともにこの男性の父親が警察に話があるという事も伝えた。
捜査の状況はあまり聞けなかったが地区の中でもあまり人の寄り付かない、谷さんの家とは反対方向の外れで第二の事件で犯人が使っていたと思しき服や手袋が燃やされているのが見つかったそうで、昨夜の雨が止んだ頃を見計らって燃やしたんだろうとのことだ。
連れてきた男性のお宅には西木刑事が行くことになった。
「後藤さんは少しは寝れましたか」
「ええおかげさまで。三時間ほど」
「そうですか…」
聞いてみると西木刑事は第三の事件が起きたせいでまだ一睡もさせてもらってないらしい。
この男性の家は田島医院から少し離れたところにあった。彼の父親はもう歳でなかなか外に出られないのだという。
「親父、刑事さん呼んできたぞ」
すると介護用のベッドで寝ていた老人が目を開いた。
「ああ、刑事さん。わしは知っとるんじゃ。田島先生は犯人で無い」
「どうしてですか?」
「先生が昨日来たとき約束してくれたんじゃ。わしがまた近くで海を見たいというと、じゃあ今度一緒に見に行きましょうと約束してくれたんじゃ。あんな優しい先生が人殺しなんてするわけないじゃろ」
「…。」西木刑事は黙っている。
「絶対に先生は殺しておらん。…ゲホゲホ」
一応老人の話は聞いたので「署に持ち帰って話し合ってみます。」とだけ言って辞去する。
「確かに妙ですよ。まさか連続殺人を計画している人がそんなことを言いますかね」
僕が言うと西木刑事が答えた。
「もしかしたら田島医師はサイコキラーだったのかもしれませんね。私にもよくわかりません」
本当にそうだったのだろうか。彼は本当に善悪の感覚が狂った人間だったのか。始めて彼と会ったとき彼は部外者なのに顔を突っ込んできた僕に迷惑そうな顔をしていた。僕は彼をよくいる人間だなと思った。それは間違いだったのか。
僕も用件は済んだので民宿へ戻ってきた。元々は宿泊は今日までの予定だ。事件がはっきりと解決する前にここを去るのはどうしても許せないが、ここから先は警察の仕事だ。いくら刑事さんたちと一晩ともに行動したからと言って一般人に過ぎない僕はもはや部外者に戻ってしまった。警察はもう犯人は田島医師と決めてあとは裏取りをするだけだろう。おそらくさっきの老人の話はあまり参考にされない。事件は田島医師による連続殺人、しかし三件目にして犯人が返り討ちに合い、事件は終了したとして片づけられるに違いない。だからこそ僕はもう少し考えてみようと思う。もし田島医師が犯人ではなかったらどうなるのか…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます